夕陽の輝く中。
「…あの場の誰よりもヒーローだった」
いず…と誰だ?
膝をついて胸をおさえている。怪我させられた?相手もヒョロいけど大人だ、個性っていう線もある…けど。
路地の影に隠れて機を伺う。
「なーんっつって。まぁしかし君次第だけどさ。どうする?」
「お願い、します!」
感動、高揚、戸惑い、充足、憧憬…?
ヒョロい人は敵対心はないしむしろ無個性のいずを肯定していて…お願いします?ピースが足りなくて答えにはたどり着けない。
満ち、た……?
ハッとして彼らを見上げるとヒョロい男性に既視感があった。彼は…ヒーローだ。しかも、
「……オール、マイト?」
いきなり現れたら驚くか。でも慌てすぎじゃない?何か疚しいことでもあるのだろうか。
「しししシオンちゃん!?いつから!!??!」
「ノン!わ、私は八木と言う名前でだね!??」
「……いや、怪しすぎ」
黒確定じゃん。
「すみません、個性の影響で嘘とか解るんです」
「いや、嘘というか、僕たちは…」
「………少女よ、話を聞いていたのかい?」
「いずが承諾の返事をした辺りしか聞いてないです。けど…あ、心配しないでください。オールマイトの真の姿を吹聴するようなことはありえませんから」
真の姿と口にした瞬間いずとオールマイト(仮)が顔面蒼白になってしまう。そういう反応が欲しい訳じゃないんだ。というか箝口令敷く事柄をここで話すのもいけないと思うんだけどな。
「ゆするのかい?」
「そんなことしませんよ。私はただ嬉しいんです。やっとスタートラインに立つ事が許されたんだから」
いずと目線を合わせる。昔私が感じた真理はここへ繋がっていたのか。頭のガーゼにいずが優しく触れて慈愛を流し込む。怪我が痛いのは私だけどいずは心が痛いんだ。
「シオンちゃん…」
「いず……これから大変だよ、私の言うこと聞かないでオタクばっかりしてさ。今のいずじゃヒーローになれない」
「…うん、やることはいっぱいある」
「最高のヒーローになって…その時、守ってね」
涙を流すいずの頬に触れれば伝わってくるのは感謝の気持ち。あ、やっぱりオールマイトで間違いない。ヘドロへ飛び出していったのは無意識から。事故犠牲はヒーローの本質だけどやり過ぎるのは怖いから止めてほしい。
「私が最初のフォロワーだから、忘れないで?」
「忘れたりするもんか…必ずヒーローになるよ」
涙を拭っておでこを合わせれば、身長差はほとんどないため目が合う。少し赤くなった頬は照れもあるけど、喜色満面なのは一目瞭然。
細い身体だ。大丈夫、強くなれるよ。
「お二人…公道でイチャつかないでくれる?」
*
2日後
「おはようございます」
「グッドモーニング!環心少女!」
あの日オールマイトやいずと別れて家に帰って、非現実的な事象を整理した。個性の譲渡、受け継がれてきた強い個性。なぜこんな辺鄙なところまで来て後継者を見つける必要があったのか。オールマイトがいずに隠している何か。
個性のせいとはいえ勝手に情報を共有させる形になってしまったから、彼としっかり話さなければいけない。"真の目的"について。
「すみませんでした。勝手に首突っ込んで」
「もう謝らないでくれ。大丈夫、緑谷少年から君は信頼できる人物であると聞いたからね」
「はい…」
「バレてしまった範囲までは確かじゃないが…心のうちに仕舞っていてはくれないか?」
きっと彼は私が知ったことはほんの一握りだと思っているはず。心の内に仕舞うと言えどこんな大きなこと一人で抱えるなんて…
「オールマイト…」
「なんだい?」
「私はあなたが思うより多くを知っていますよ」
「緑谷少年から聞いたのかい?」
緩く首を横に振る。
「ummm……個性か、君の個性は何だ?」
本当は教えたくない。ズルして生きているような気分になるから。全てを知るって本当は辛いことなのに。人の心や世界は優しくない。
けど、彼なら大丈夫だと"個性"が教えてくれる。
「私の個性は…」
【好適】
上手く適していること。ふさわしい。
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