悲憤というもの

翌日、警視庁捜査第四課。

「四課って…完全にヤクザ課じゃないですか」

「よく知っているな」

「強面の殿方がたくさんいらっしゃるので…」


コスチュームに着替えて連れていかれたのはまさかの警視庁。しかも第四課。所謂指定敵団体課である。

それに渡り合うためか知らないけど、担当の警察の人たちもちょっと強面が多い気がする。

ここに呼ばれたのは間違いなく死會八斎會についてだ。治崎の娘だと思われる”エリちゃん”についても深く探る必要がある。


 *


 *


数日後、サー・ナイトアイ事務所。


「ハーツ!シャワー行って身体起こしてきな!」

「……は、ぃ」

「返事に元気がないな…」

「行ってきます!!」


頭と身体は疲れているはずなのに、興奮状態でアドレナリンが出っぱなしでしっかりと寝ることができなかった。

会議の時間まであと2時間ほど。疲れている顔をしていてはいけない。バブルガールが作ってくれた時間をありがたく使わせてもらい気合いを入れる。

よしっ。


「あっ!!環心!!?」

「お疲れ様、すっかり俺より先に行くよね!!」

「環心ちゃんが公欠だった件と……あのアンケンが関係しているってことかしら」

「それも今から話してもらうよ」

「ナイトアイさんそろそろ始めましょう」


会議室でヒーローたちに配布する資料を抱えていると制服姿のみんなが到着した。そっかファットガム事務所とリューキュウ事務所に行っている彼らや先輩たちもこの事件に関わっていたんだ。


「あなた方に提供して頂いた情報のおかげで、調査が大幅に進みました」


これから行う会議は死會八斎會の企みの情報共有と、それについての協議だ。

雄英生はこの会議についてたくさんのハテナマークが浮かんでいる。無理もない。

ヒーローたちにはHN(ヒーローネットワーク)によって多少の情報は流されているが、彼らが知る手段はない。


「我々ナイトアイ事務所は2週間程前から死會八斎會という指定敵団体について…独自に調査を進めて…います」


緊張気味のバブルガールにセンチピーダーがアシストに入る。

調べるきっかけになった小さい事件。その連中や裏家業団体と、死會八斎會の接触が急増している事実。

そして敵連合との接触。そのため、敵連合担当の塚内さん達にも協力を仰いだ。

少し苛立っているロックロックは暗に雄英生が邪魔だと言っている。だが彼らはパズルのピースだ。

興奮気味にファットガムが彼らの重要度を説明してくれた。そのおかげで話もスムーズに進みそうだ。


「個性を壊す薬…?」

「その中身を調べた結果、ムッチャ気色悪いモンが出てきた……人の血ィや細胞が入っとった…嬢ちゃん」

「はい。詳しく解析を行ったところ、表面麻酔とチクロピジン…血小板を抑えて血流を良くする薬です。それとニコチン。いずれも即効性を出すために血管の収縮を促すものが入っていました。そして人間のDNA」


私だけインターンに呼ばれた日。四課で行われた捜査で視た薬の中身には、ファットガムが言うように気色の悪い人間の細胞があった。

DNAといってもその情報量は途方に暮れるほど。だって人間が成り立つデータが全部入っているんだから。


「その事実があったとしても八斎會をクロにしようとこじつけているだけにしか聞こえない…」

「治崎の個性は”オーバーホール”。物質の分解・修復が可能という力です」


その個性によって何でも分解し…一度壊したものを治すことが出来る。それは即ち、人間でも可能だということ。

明らかに様子がおかしくなったいずとミリオ先輩。心拍数がだんだんと速くなってきた。


「治崎には出生届けの無い娘がいる。この二人が遭遇した時は手脚に夥しく包帯が巻かれていた」

「……先程の薬に含まれるDNAを私の個性で解析したところ…性別は女、しかも恐らく女児と思われる年齢で……白い髪の毛に赤い瞳と、彼らが遭遇した子の特徴と合致しました」

「!!!?」


i・アイランドで医学を少し学んだことが功を奏して……3回くらい意識飛んだけど人物の特定に至った。

人間はDNAの0.1%で性格や外見、体型などが異なってくる。それらを視て人物の特徴を炙り出した結果…あの薬の中身はきっと……いや絶対に”エリちゃん”だ。

この場で一番悔しいのは実際に遭遇した二人であることは間違いない。

リスクを背負いながらも保護しようとしたいず。
先を考えて確実に保護することを選択した先輩。

どちらも間違っていない。けれど彼らは不実行罪悪感で埋め尽くされ、憤怒を抑えきれなくなっている。


「今度こそ必ずエリちゃんを…」

「「保護する!!」」

「それが私たちの目的になります」


怒りはエネルギーだ。




【悲憤】 悲しみ憤ること。
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