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いとしいひと


大正あたり、旧家の娘リン(凛)×連れ子レン(廉)


ぐすっ…ずず、っぐずん…


暗く、寒々しい夜に押し殺したような泣き声が響いている。
もう冬に移り変わろうかという季節。足元の床は凍るように冷たく、庭に面している縁側ともなればそれはもう冷え切っていた。
そんなところに一人腰かけ、さきほどの泣き声の主はまたもや押し殺すのを失敗したかのように声を出し続けていた。


すると、
「れんさんっみつけました!あぁもうどうしてこんな寒いところに…」


可愛らしい声をあげた、軽やかな足音とともに紅い着物を着た金髪の少女があらわれ、泣き声の主…小さな少年のもとへかけよった。
小さな少年は足音に気づきびくっと顔をあげ、少女の姿をみつけてまた涙をこぼした。


「っ!ね…ねえさん…っどぉして…?」
「だって、れんさん夕飯の時来なかったじゃないですが。ごはん、たべてないでしょう?おにぎりつくってもらいましたから、一緒に食べましょうよ」
「えっねえさん、は…ごはん、食べてないの…?」
「え?あぁはい。だって、れんさんいないですし…一人で食べるのはさみしいじゃないですか。」


ねえさんと呼ばれた少女…凛はにこり、とほほえみ、手に持っていたおにぎりのつつみをそっと自分の傍に置く。
そして泣いていた少年の横に座り込み、くるりと顔を少年ほうへ向け、頬をそっと自分の手で持ち上げた。


「まぁ…こんなに目をはらして…。ずっとないてたんですか?全く、綺麗なお顔がもったいないですよ。」


少年…廉のかおをじっくりとみつめ、真っ赤な目やら涙びしょぬれの頬だのを確認し顔をしかめる。
片手をそのままに、もう片方の手でおにぎりのつつみといっしょにおいていたてぬぐいをとりだし、やさしく顔を拭い始めた。


しばらく廉はされるがままにしていたが、ふぅ、と凛が手を下したときに、ぎゅっと凛の手を掴み、言いにくそうに口をぱくぱくさせる。
そんな廉を、凛が不思議そうに見つめている。と、それに気づいた廉は、口の中にとどまっていた言葉をなんとか押し出した。


「ねえさん…その、…ごめんなさい…ごめん、なさっ…っ」


いったん口に出すと、声と嗚咽が止まらなくなってしまう。



ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい。
…僕がいなければ、母さんと僕がこの家に来なければ、ねえさんは楽しく暮して行けたのに。…なのに。


「…っごめんなさっい…!!」


さっきふいてもらったのに、廉の頬にまた涙がこぼれる。
あぁ、なんて情けないんだ。そう思う。それでも、どうしてもとまらなかった。













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そもそも、廉は凛のことをねえさんと呼んではいるが、実際に血がつながっているわけではない。
いわゆる義姉弟である。


事の発端は、少年が異人の少女にであったことから始まった。


凛の父…になる少年は鏡音家…現在の日本でも力を持つ、旧家の当跡取り息子であった。しかし、異人の少女に出合い、恋に落ちた。
異人、ということで様々な反発はあったものの、その異人…後に凛の母となる少女は、外国のとある貴族の娘でもあり、結果として両家に歓迎されふたりは結ばれた。
そうして凛が生まれたわけだが、…異人の母は流行病にかかり、あっけなく命を落としてしまう。
ものすごく意気消沈する父に、慰めるため、そして異人の血を受け継ぎ見た目が普通とは違う凛のため、ある女性が選ばれ鏡音家に嫁いできた。


その女性が、今の凛の義母であり、廉の母である。


廉の母も同じような理由で異人の子供を産んだ。しかし、結婚することはできず、生まれた子供、廉だけが残った。
そして、そんな境遇を憐れんだ周囲が、似たような境遇の二人を再婚させたというわけである。


であるから、凛の父も廉の母も好きあって一緒になったわけでなく、仲が良いわけでもない。血のつながってい子供にやさしくするでもない。
凛の父は常に忙しく、それほど屋敷にいることはないので別段問題はないのだが…廉の母は、そうではない。
女性は家にいるものであり、それはたとえ旧家の奥様とて例外ではない。


…つまりは、廉の母は凛に対して四六時中つらく当たるのである。


といっても、鏡音家の使用人は凛のことを大変可愛がっているので、死活問題にはなりはしないのだが…。だがしかし、辛く当たっていることは事実。
一番最初の笑顔から始まり、慣れない屋敷の中で唯一優しく、手助けしてくれる凛のことを大好きになっていた廉は、そのことは申し訳なくて仕方がないのだった。


第一、廉の母はお嬢様らしく、子守なんてしたことがなく、廉に対しても母親らしいことなんぞしてくれたことはない。
そんな母親だったので、手をひいてくれたり、抱きしめてくれたりする凛の優しさが、廉にとっては泣きたくなるくらい嬉しいことで。
凛が廉の一番になるのに時間はかからなかった。


それくらい、大切にしたいひとなのに、母はつらく当たり、なにかにつけて自分を優先する。
その行為が嫌で、やめてほしくてしょうがないのに、聞き入れてもらえるはずもなく、結局、またくりかえす。


凛のことを守りたいのに、それは絶対本当なのに、…なのに、自分は何もできない。
その事実が胸に刺さり、ずっとささりつづけ…ここで泣き続けるに至ったのだ。



廉がそんなことをぐちゃぐちゃと考えながら涙を流していると、ふっと背中にあたたかいものがふれた。
と、思った瞬間、ふわり、と腕に囲われ、…廉は凛に抱きしめられていた。


びっくりして何も言えないでいると、背中をとん、とん、とリズムよく優しくたたかれる。そうして、あたたかな声が降ってきた。


「れんさん…、なんで、謝るんですか?私はれんさんから謝られるようなことはないですよ?」
「ひっく、ぅえ…で、も…。母さん、が…っごめ…なさっ!!」
「なるほど。それですか。うぅーん、れんさんは全然関係ないことじゃないですか…、ほら謝んないでください。ね?」
「…ぅ…っ」
「それにですね?れんさん。」
「?」


ふっと凛の腕の力が弱まり、廉はむくりと顔をもちあげる。すると、触れるほど近くに凛の顔があり、その瞳は優しさで満ちていた。
くしゃり、と凛は苦笑し、廉の背中に当てていた手を上に持ち上げ優しく髪をなでた。


「凛にとって、母様のことより、れんさんがないているほうがよっぽと悲しいし…心が痛むんです。」
「っ!!ねぇ、さっ…」
「だから、ほら」


凛は髪においていた手をおろし、初めと同じように廉の頬に手を添え、こつん、と額をあわせる。
そして、びっくりと目を見開いている廉ににっこりとほほえみ、


「ね、れんさん。わらってください。凛は、れんさんの笑顔がだいすきですよ?」


ほろり。廉の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。


「っねえ、さん!ねえさん…っ!」


ねえさん。ごめんなさい。駄目な弟でごめんなさい。弱くて弱くて…守られてばかりでごめんなさい。


・・・でも、今決めたんだ。僕の笑顔が好きといってくれるねえさんのことを、だきしめてくれる貴女、を、なんとしても、守りたい…、守る、と。


僕は実は知っているんだ。ねえさんが、こっそり…ひとりで、ないてる、ことを。亡くなった母様の写真の前で。かなしそうに、つらそうな顔をしていることを。


ねえさん、これで泣くのは最後にする。もう絶対泣かないし、ないているねえさんを今度はぼくがだきしめられるくらいに大きくなる、強くるよ。


だから、だから、ねえさんの笑顔を守らせてください。僕に、貴女の傍にいさせてください。


そして、願わくば…。












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みたいなお話を読みたい!!!
から、いきおいでぐわぁとかいてしまった。おにぎりどこいったw
レンリンまじ神!!!


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