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タカラモノ


むかしむかし、俺が小さかった時。
仕事で碌に顔を合わせていなかった父が、珍しく屋敷にいたとき。
これまた珍しく、一緒にどこかに連れて行ってもらったことがある。
行先は、…もうほとんど覚えていないけど。
あそこは多分、王城だったのではないかと思う。


俺は小さかったが、まぁそこそこに生意気な奴で。
待っていろ、と言われた場所で大人しく待つような子供じゃなかった。
しかも小さいなりに自分の頭の良さを自覚し始めてた時だったから、余計に質が悪くて。

どうせ戻ってこれるだろうとタカをくくり、フラリと部屋を抜け出した。


でも、やはりそこは王城。
いままで見てきたどんな城よりも広く、そして複雑だった。
案の定俺は迷い、辿った道も解からなくなり。にっちもさっちもいかなくなったとき。

あの、綺麗な音色をみつけてしまったんだ。






タカラモノ






地位が高く、勿論権力も充分。
そんな家だと、妬み嫉みは腐るほど向けられる。

…きちんとそれに見合った仕事をし、能力を示しているのにもかかわらず、だ。

本当に、愚かな奴らだなぁ。
自分たちは能力なんてサッパリ持ってないくせに。
喚くだけ喚いて、いろんなことを吹聴して。
はぁ、貴族なんていいもんじゃない。


今日はどこぞの家のだれそれ主催の晩餐会。
そして今の時間は、晩餐会に続く舞踏会。
僕、リィンは、何人かの淑女と踊らせていただいた後、適当な理由をでっちあげて壁際のほうで一息ついていた。

ダンスなんて僕には似合わない。
綺麗で可愛らしい女の子たちと踊るのは楽しいけど、僕は小柄で様にならないし。
だから、舞踏会はでたくなかったんだけどなぁ…


結構偉い人主催らしく、ガク様に行って来いと言われてしまったのだ。
…レン様だけ充分で、僕はいらないと思うんだけど。
そう言っても、聞き入れてもらえるはずもなく。まぁ、今に至る訳だ。

僕はこーゆーのにほんと向いてないと思う。
レン様は、オーラというか気品というか…近寄りがたい雰囲気を作るのが上手い。
そうやって周りを牽制して、使える情報聞き出して、この場を最大限に活用しまくってる。
けども、僕はうまく立ち回るとかさっぱりだし。
それに、


「ほんとうに…Marquessだからって」
「しかし、カガミネ侯爵家は権力が強いからな」
「しょうがない、領土だってあの大事な地を任されているし…」
「ったく、狡いもんだ」


こういう話、耐えられないし。
…あぁ、邪魔。
レン様の忙しさも責務も。何も知らないくせに。
本当に、なんて煩わしい。

さっさとこの場を去りたいが、レン様を待っているせいでどこにもいけない。
あぁもう、早くきてくんないかなぁ。
ダンスを誘われたんだったよねー、あとでその人の家を調べなきゃ。
これでも、レン様の右腕という立場上、関係とかはきちんと洗い出さなきゃいけない。
後々めんどくさくなるし、ね。

そうやって、考えを紛らわせてたんだけ、ど!


「あっリィン様!」
「リィン様も大変じゃないですか?あんな人の傍にいなくちゃいけないなんて」
「全く…メグリネ家も地位が高いのに」


にこにこにこ。
我慢我慢。ここでキレたら体裁的に不味いよね。
なんとか笑顔を張り付けて、穏便にここを乗り切らなくちゃ。


「もしかして、脅されてる…とか?」
「あぁありあえる、リィン様、大丈夫ですか!?」


ぶちっ
何かが切れる音がした。…僕の中で。

何人かでかたまっていた青年たちが、こちらによってくる。
さぁて、どうしたもんか。
僕の導火線は修復不可能、爆発寸前残り三秒。
さーて、なんて言ってやろうかな。


もはや開き直って、最高の笑顔を向けてあげる。
そうして、口をひらこうとしたとき。


「リィ、待たせた。」


声と共に、後ろからぐいっと腰を引っ張られる。
他の人間だったら、そんなことされたら瞬時に肘鉄を食らわせるのだけれど。
この声は、一番安全な人だ。
そう判断し後ろを振り向けば、想像以上に近くに顔があった。


「っと、レンさ…」
「様はいらない。何度言ったら学ぶんだお前は。」
「いやいやいや、一応僕は」
「知らない。ほら行くぞ、もう馬車を待たせてある。」
「えっそういうのは僕がやるってば!」
「ハイハイハイ」
「れーんー!!!」


じろっと睨めば、たのしそうな笑い声。
レン様はあんまり笑わない。だから、そんな顔されると僕も何も言えなくなってしまう訳で。
…あぁ、また僕の負けだ。
はぁ、とため息をつけば、何故だか優しく頭を撫でられた。
良く解らなくてレン様を見上げれば、既に彼の視線は向う側。
慌てて視線の先を追えば、そこには先ほどの煩わしい人たちで。
否、煩わしい人たちがいた筈の場所。なぜか今は誰もいない。
…瞬間移動?


「あれっあの人たちは?」
「さぁな、消えた。」
「んな馬鹿な…あーまぁいっか。」
「リィって案外てきとうだよな。」
「うるさいですよ」


そんなことを言って歩き出そうとして、やっと気づいた。
現在、僕の体はレン様に引き寄せられ、僕の腰にはレン様の腕が巻き付いてる。

僕レン様に抱き寄せられてる恰好じゃん…?!!

あまりの恥ずかしさに一気に顔を赤くすれば、逆に不思議そうなレン様の表情。
あぁもう、恥ずかしいのは僕だけですか!!
てゆーかなんで恥ずかしくないの?!えっレン様って鈍感?!

そんな思いを感じ取ったのか、べしりと突然頭を叩かれた。
もちろん、全く痛くない強さなんだけども。

そうしてあっさり腕を離され、今度はくいっと手を引かれる。


「レン?」
「ほら行くぞ。馬車」
「あっ?…ぁあー!」
「忘れてたな」
「…。さっ行きましょうレン!」


今度は僕のほうから手をひく。
そうして歩き出しながら、後ろから聞こえてくる笑い声に耳を澄ませた。





















…レン様は、あまり笑わない。
でも、僕の前では笑ってくれるんだ。





・・・・・・・
オチなし。書きたかったんだぁあああ
貴族で俺様レン×僕っこ男装リン。あぁおいしい!
これは絶対長くなる。あースミマセン。あとこいつら外から見たら絶対…うん。。

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