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「っ…おい、あんま先ばっか触んなよ、うん」

「…っ、どうして…?」

 はッと熱と湿気を孕んだ息をはき出しつつ、オイラはそっと艶っぽいシオの顔から視線を外した。

「…………」

「……っ、…」

「…っあ、きもち…いから?」

「っく…」

 額に汗を浮かべつつしかしほんの少し口角を上げ、シオはこちらを見てくる。

 くそっ、何だよ。

 悔しくなったオイラは指先を曲げ、己の手の動きを俄に速めた。




 付き合い初めて、約半年。
 いつものようにシオを家に招き、いつまでも続きそうに思えた健全な関係に焦れたオイラが何とかいい雰囲気に持ち込み初めて漕ぎ着けたこの行為。いや、本当は普通に突っ込むつもりだった。少なくともオイラは。だけど経験がないというシオを気遣い入念に愛撫を施しシオをふにゃふにゃにしたまでは良かったものの、いざオイラのものを取り出せばシオはひどく怯えだしたのだ。痛くない?痛くない?と色をなくした顔で必死に問いかけてくるシオを見つめて、オイラは苦汁の決断を下した。
 今日は、止めておいた方が良いな、と。
 勿論、オイラの方はもうばっちり準備が整ってはいた。だけどオイラはシオのことを今まで付き合ってきたどんな女よりも大切に思っていた。だからこそ、ここは大人しく引き下がろうと思えたのだ。本当に好きな奴だからこそ、無理強いはしたくないと。

 …だが。

「――…待って」

「!」

 寛げた下半身を整えだしたオイラの手のひらを止めたのは他でもない、シオの柔らかな手のひら。オイラは軽く目を丸くした。

「その…わ、私、口で…とか上手くやる自信ないし…その、私もま、まだた……………足りないから…」

「う、うん?」

 何が言いたいのかよく分からない。オイラは首を傾げた。しかし次の瞬間、大きく目を見開く。

「だからその……触りっこしない?」


 そうして今この行為に至ったのだった。





 オイラが足を開いて座るその直ぐ前で、シオもぺたりと床に尻を落ち着かせている。オイラの体に回るようにシオの太ももがオイラの足に乗せられていて、文字通り目と鼻の先にシオはいた。
 互いに手のひらを伸ばし、自分のじゃない相手の熱を高める。シオの手つきはひどく拙かったが、それでも必死なのが伝わってきた。だからだろうか。一人でするより、ずっと気持ちイイ。頬を紅潮させて潤んだ瞳で抑えたように小さく喘ぐ好きな女を目の前にして、そいつがオイラを気持ちよくさせようとしてくれているのだ。興奮しない訳がない。

「っシオ…」

「ん、っふむ…」

 たっぷりと熱を含んだ二酸化炭素を吐き出す目の前の唇にオイラのそれで栓をすれば、シオは鼻にかかったら声を上げふるりと小さくその身を震わせた。

 可愛い。

 しかしオイラがそう思っていたのも束の間、我知らずびくりと揺れた体に驚き視線を下げれば、そこではシオの手のひらが負けじとオイラの熱を煽ってきていて。…なんだか、シオがこの短時間の間で色々なポイントを押さえてきてる気がする。つまりは上手くなってきた…ような。

「あ…ふうっ、デイダラ…」

 負けていられないと乱れたブラウスの隙間から覗くその艶やかな双丘に手のひらを這わせれば、シオは焦れったそうにその身をくねらせながらオイラの目を覗き込んできて。

「…っ気持ちいい?」

 その顔は反則だ。またぐっとその嵩を増したオイラの反応に驚いたのか、シオが一瞬息を飲んだのが分かった。

「…シオ、は…っ?」

「…え?」

 胸の飾りを刺激しつつしかし中できゅうと一際よく締まる場所を見つけたオイラは、わざとそこを微かに外してシオを見上げる。

「っシオはどうなんだよ、うん…」

 不純な湿気に満ちた空中をふらふらと泳いだ漆黒の瞳をオイラは観察し、そして質問に対する答えを催促するようにして見つけたその場所を中指で掻き上げた。

「あッ…?!」

 びくり、のけ反ったその首にオイラはキスを落とし、ゆっくりとこちらに戻ってくる顔を見つめてにやりと口端を持ち上げて見せる。

「…うん?」

「あ、そ…こっ…」

 オイラの肩にくたりとその頭を預け、シオはぴくぴくと快楽に浸りながらなんとか切れ切れに言葉を繋ぎ出す。

「そこっ……、きもち…ッ」

 小さく震えるシオの背の滑らかな肌の絶妙な曲線に見惚れつつ、オイラはくっと息を詰める。

 やっべ、イきそ――…

「ッ、シオ……!」

「え?」


 勢いよく噴出された白。


 オイラは息を詰めその快楽に浸っていたが、落ち着いたところではたと意識を取り戻す。

「っあ、悪ィ…! シオ、服は――…」

 大丈夫か、と。続くはずだったその言葉は不自然に切れ、目の前のその様をオイラは呆然と見つめる。

「……デイダラ?」

 オイラが一人で先にイッてしまった所為か、シオのその顔はまだまだ色っぽい。その太もも、腹、胸、そして僅かにだが顔にまでかかった白濁が、何ともシオの色香を更に高めていて。

「あ……ま、また…」

 オイラの変化を感じ取ったらしく、シオの頬にはかああと熱が上る。
 オイラは何も言えずに柔らかな肉が淫靡に絡み付いてくるその中の指先を、ゆるりと再び動かし始めた。


 ああ、この中に入りたい。



苦悩と快楽 



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