※ぬ仔んとこの「スプーンを探せ!」の帝人くんサイド。
※うちのサイトとは思えないはしゃぎっぷり
※あほのこ帝人くん










 日曜のお昼、池袋の電気屋さんのテレビに流れていた、国民的なお昼のバラエティー番組の増刊号でそれは紹介されていた。
『スプーンは、一瞬の力に弱いんですね。なので、こう……勢いよく力を入れてあげるとすんなり曲がるんです』
 会場から湧き上がる歓声とともに僕も思わず声をあげてしまった。もっとも、僕と会場とじゃ数日のブランクがあるのだが。
 しかし何の抵抗もなく、くにゃりと曲げられたスプーンにはちょっとときめく。だって、スプーン曲げとかすごくすごく……。
「超能力っぽくて、非日常的……!!」
 そして気が付いたら、家中のスプーンを曲げていた。だって、くにゃりと曲がるスプーンがなんだかちょっと楽しくて。ちょっと静雄さんになった気分で調子に乗った。
 でも一つだけ困ったことがある。何がまずいって。
「……元に戻らない…だと……」
 綺麗に90度に曲げられたスプーンは、力の入れ加減が難しくて、なかなか曲げた時のように綺麗には戻ってくれない。さてどうしようと考え込んだ時に、視界の端に見えたのはスプーンに似た形のお玉。
「あれでいっか」
 どうせ僕、スプーンあまり使わないし。

 それが数日前の話だった。
 今日は、正臣が「俺は今日、スプーンでつつくと震える黄色いそなたと秘密の会話を繰り広げるためにコンビニに行ってくるから先に帰るぜえぇぇぇぇぇ」とわけのわからないことを叫びながら先に帰ってしまったので、園原さんと二人で帰る。僕も園原さんもそんなに話すほうじゃないし、会話は少ないけれど、園原さんとの沈黙は不思議と息苦しくなくて嫌いじゃない。むしろ好きだ。
 でも、その沈黙を吹き飛ばすような正臣の騒がしさも好きだ。一日の日常の終わりのようなこの下校時間が、案外僕は気に入ってる。
「お、竜ヶ峰じゃねーか」
「ほんとだー! みかぷーに杏里ちゃんも!」
 声をかけてきたのは、門田さん、狩沢さん、遊馬崎さんだ。僕も園原さんもぺこりと頭を下げて挨拶をかえす。こうやって、池袋の知り合いに会うのも、下校の楽しみの一つだ。
「あれ、門田さん甘いもの食べるんですね」
 僕はふと、門田さんが持ってる空の容器が目に入った。
「ん、あぁ…今日はたまたまな」
「ドタチンが甘いもの食べるのってギャップ萌えだよねーっ!!」
「男気のある門田さんが見せるちょっと可愛らしい一面っすね」
「お前ら、道路で騒ぐのはやめろと……」
 相変わらず仲のいい三人に別れを告げて、僕と園原さんはまた歩き出した。
「なんだか私もちょっとプリンが食べたくなってきました」
「そういえば、正臣もそんなこと言ってたね」
 プリンと言えば、スプーンどうしようかなぁ。なんて考えてたら、聞きなれた声が聞こえた。

「こうなったら……スプーン捜索隊、しゅつどーう!!」
「何、スプーン捜索隊って」
 反射的に突っ込みを入れた先には、先に帰ったはずの正臣がいた。
「およ?」
 勢いよく腕をあげたまま振り返った正臣は、片手にプリンを持っている。なんだかタイムリーだ。正臣だなぁ、なんて半ば生暖かい気持ちで驚いた顔の正臣を見てると、パッと顔を輝かせた。
「ちょうど良かった!帝人、杏里、スプーン持ってないか?」
「スプーン?」
「……あの、お箸ならあるんですけど」
 首をかしげた僕と、素早く鞄を探し出す園原さん。って。
「何!?杏里の箸なら大歓げ「だ、だめだよ!!」
 そんなうらやま……いやいや、箸じゃプリン食べられないし!
「なんだよ帝人ー」
「…もー…スプーンならもってるよ?」
「マジか!」
 そういって、僕は日曜以来ずっと持ち歩いていたスプーンを取り出した。
「ほら」
「おおぅ……お、おしい!何かおしい!」
 正臣は、綺麗に90度に曲がったスプーンを見てがっくりとうなだれている。
「この前テレビ番組でさあ、誰でもできるスプーン曲げ講座やってて……はじめたらはまっちゃったんだよ!練習するためにいつも持ち歩いてるんだ!正臣もやる?」
 元に戻せないなら、もっと練習すればいいじゃない!と思って、あの日以来僕は練習に練習を重ねたんだけど、一向に元に戻る気配はない。あわよくば正臣がスプーン曲げ習得して元に戻してくれるかもと思って差し出してみたんだけど、正臣はなんだか疲れた表情で首を振った。
「いや、遠慮しとくし……それじゃ使えねえな…」
「まあ実用性はないけど…家にあるスプーンも全部曲げちゃったしなあ」
「お前スプーンなしでどういう生活してんだ」
「今はおたまで代用してるよ」
「……お前たまにさらっと笑顔ですごいこと言うよな」
 正臣のあきれた表情に加えて、園原さんのきょとんとした視線がちょっと痛い。だって、僕、スプーンあまり使わないし……。
「ごめんなさい、力になれなくて」
 律儀に頭を下げる園原さんにそんなことしなくてもいいのになぁって思った。
「ん?いいってことよ!こんなことでこの紀田正臣が挫けるとでも!?それじゃあなー」
 そういうや否や、正臣は駆けていった。
「あ、うん。じゃあ」
「さようなら」
 最後の声が、正臣に聞こえたかはわからない。

「お玉だと……使いにくくないですか」
「えっ、いや……僕あんまりスプーン使わないからなぁ」
「直したほうがいいと、思います」
 うん、僕もそう思うよ園原さん。直せるならの話だけど。
 それから、園原さんと別れて、一人帰路につく。やっぱりスプーンを治す方法を考えるべきかな。どうやったらスプーン治るだろう。そんなことを考えてると、不意に肩をポンとたたかれた。
「やぁ、何か悩んでるみたいだけど、何か問題でも起こったのかな?」
「臨也さん!」
 振り向いた先には、眉目秀麗な新宿の情報屋がいた。あ、臨也さん情報屋だし、スプーンの直し方知ってるかも。
「実は、スプーン曲げやってたら元に戻らなくなっちゃって」
 おずおずと差し出したスプーンを見て、臨也さんは固まった。
「臨也さん、直せます?」
「……黒バイクにでも頼んでみたら?」
 その手があったか! セルティさん都市伝説だし、なんか超能力的なのでシャキーンって直せそう! なにそれ超かっこいい。
「さすが臨也さん! ありがとうございます!!」
「ていうか、なんでそんなスプーン……」
 お礼を言ったらなぜか臨也さんは正臣みたいに疲れた表情をした。
「え、いやなんか正臣がスプーン探してて、これ差し出さしたら直したほうがいいって言われて、僕はお玉で代用できるしいいかなーって「うんもういいや」おもっ……そうですか?」
 がっくりとうなだれた臨也さんは、そっか紀田君困ってるのかーと呟いてから、僕にまたねと言って去って行った。
「はい、また!」
 ところで臨也さん、途中からとっても疲れた表情をしてたけど、大丈夫だろうか。

 さて、今度はどうやってセルティさんに直してもらおうかと考えを巡らせる。わざわざスプーン戻してもらうためだけに連絡するのもなぁと考えてたら、馬の嘶きのようなエンジン音が聞こえた。
「あ、セルティさん!」
『帝人じゃないか。偶然だな』
 さすがはセルティさん、やっぱり超能力かなんかを持ってるに違いない。
「あの、ですねセルティさん。ちょっと頼みたいことがあるんですが」
『? なんだ?』
「このスプーン、直せます?」
『どうしてこうなった!!』
 今までの経緯をかいつまんで話したら、セルティさんは何かに納得したようにわざわざヘルメットを手で上下に動かすと、申し訳なさそうにPDAを見せてきた。
『うーん、申し訳ないんだけど、そういうの専門じゃないからなぁ』
「そう、ですか」
 超能力的な力で、スプーン戻すセルティさん見たかったけど、仕方ない。
『あ、超能力じゃないけど、元に戻せそうな奴なら知ってるぞ』
「えっ」
 いそいそと、携帯を取り出したセルティさんは誰かにメールを打ってるみたいだ。何回かやり取りした後、携帯をしまってもう一度PDAを見せてくれた。
『ちょうど近くにいるから直してやるってさ』

「うわあああああありがとうございます!!!」
「おう、こんなんでいいなら別にどうってことねーから気にすんな」
 セルティさんが呼び出してくれたのは、池袋の児童喧嘩人形、最強の男こと、平和島静雄さんだった。静雄さんはひょいっと僕のスプーンを直してくれた。さすがだ……。
『よかったな』
「はい! ありがとうございますセルティさん! 静雄さんも、わざわざ本当にすみません」
 臨也さんの助言とセルティさんの協力を受け、最終的に静雄さんに直してもらったこのスプーンを、今日から僕は非日常スプーンと名付けて大切にしようと思う。
「ところで、竜ヶ崎よぉ……」
「竜ヶ峰です」
「なぁんか蚤蟲くせぇんだが、どっかで見かけてねーか?」
「あ、臨也さんならあっちに」
『帝人おおおおおおおおお?!』
 あ、と思った後の祭り。静雄さんは臨也さん追っかけて行ってしまった。
『あーあー……』
「すみません、思わず……ちょっと様子見てきます」
『えっ、危ないからやめたほうが……行っちゃった』

 静雄さんを追いかけていった先には、思った通り惨劇が繰り広げられていた。すごいスピードで二人は移動するから、追いつかない。
 ふと、二人の繰り広げる戦争の手前に見慣れた姿が見えた。

「正臣ー!」
 全力で声を振り絞ると、振り返ってくれた。
「あ?帝人?」
 ついでだから、もしスプーン見つかってないようだったらこの非日常スプーンを貸してあげようと思う。
「よかったあ見つかって」
「息乱してどうしたし」
「はあ、はいこれっ」
「……あれ」
 正臣は僕が差し出したまっすぐになったスプーンを見て、僕を見て、またスプーンを見た。そして、数拍おいて呆然とつぶやく。
「これ……なんで」
「いや、あのあとたまたま黒バイクさんに会って、スプーン曲げちゃったの戻してもらおうと思ったんだけど……ほら、なんか超能力とかありそうでしょ?でも『こういうの専門じゃないからなあ』って断られちゃって…あ、でもそのあと平和島さんに連絡とってくれて、スプーンは平和島さんに直してもらったんだ!すごかったんだよ?こうぎゅうって」
 思い出しても、あれは興奮する。さすがは静雄さんだよなぁ。今度お礼に何か買わなきゃ。
「臨也さんにも会っただろ?」
「え?あ、うん。平和島さんに会う前に丁度会ったよ。そのあと平和島さんにそのこと言っちゃったらすごい形相で追い掛けてったけど……もしかして会ったの?」
「あ、ああ、まあな。つーかスプーン!」
 正臣はなにか釈然としない様子だったけど、とりあえず目当てのスプーンを渡す。
「あ、そっか。はい、正臣」
「プリン……ッー…」
「?」
 スプーンを受け取った正臣は、なぜかうつむいて震えだした。いきなりどうしたんだろう。声をかけようとしたところで、がばっと顔をあげて正臣が抱き着いてきた。
「やっぱ持つべきは友だな!ありがとな帝人ぉ!」
「いたた痛いよ」
 ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる正臣に、うっとおしさ半分、照れくささ半分。
 それから、正臣はうきうきとプリンのふたをめくると、スプーンですくって口に入れた。
「…………」
「おいしい?」
 長い沈黙が続いて、ボソッと正臣が一言。
「………ぬるい」
「え?」
「なんだこれ、超ぬるい!」

 思わず、まじまじとお互いの顔を見合わせてしまう。

「…………」

「……………」

 それから。

「「あはははは!!」」

 二人で同時に笑った。
 あんなに苦労したプリンはすっかりぬるくなっていたというのに、正臣はおいしそうにプリンを食べるし、僕も、そんな正臣を見て、なんだか嬉しくなる。
 超能力でスプーンを曲げることはできなかったけど、テレビで紹介されたスプーンの曲げ方で曲げてしまったスプーンは、ちょっとおかしな一日の終わりを運んできてくれた。


+++++++
ぬ仔が「スプーン探しまくる正臣書くんだけど、帝人君も出すよ」って言ったので、スプーン曲げではしゃぐ帝人君を全力プッシュしただけでなく、帝人君サイドまで書いた。
共通部分はぬ仔のとこのセリフ部分引っ張ってきてます。
ぬ仔に全力で語った部分がかけて私は満足です。

ちゃんと、ぬ仔が出したキャラ全部出したよ!
そんでちゃんと書いたよ!!!



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