クリスマス?何それ美味しいの?
(掃除屋は掻き入れ時)
「クリスマス、だあ?」
最近みんな忙しいのか中々構ってくれないので、けーちゃんのところに特攻をかけてクリスマスだから祝ってくれ!と強請ってみたら、うっかり地雷を踏みぬいてしまいました。
「こちとら表も裏も年末進行で忙しいんだよ年末っちゃー大掃除のシーズンだろうが考えてからものを言えっつーかお前の誕生日じゃねぇし神様はお前なんだから神様の誕生日でもねぇよな祝う必要ねぇな?」
ここまでノンブレス。
いっそ清々しいまでの笑みを浮かべてるけーちゃんはめっちゃ貴重なんだけど…うん、恐い。目が笑ってないどころか人殺せそうだよね。いや本職なのは知ってるけども。
このまま消えたら後がヤバい。でもどうやってバックレたらいいかかと内心焦っていたのに、更に別の地雷を踏みぬく馬鹿野郎がこの部屋には同席していた。
「相変わらずワーカーホリックなんですねぇ、ミスター」
金髪金眼のイギリスのスパイ、コードネームはエージェント。特技はドジとうっかりのそいつは、今回もうっかりド真ん中を踏みぬきやがった。途端細まるけーちゃんの目。
「そうか、じゃあこの依頼は断って休み入れるかな」
「…ソーリー、ミスター。失言でした」
「大体このクソ忙しい時にクリスマスまでに仕留めろだなんて納期がきっついんだよ分かってんのか」
「そこをなんとか」
片やヤクザも逃げ出す絶対零度の視線、片や詐欺師も騙す鉄壁の笑顔。文句無しに一流のスナイパーと何だかんだで凄腕なスパイは、そのままずるずると商談へ雪崩れ込んだ。
俺様置いてけぼり。何これ。
「え、ちょ、無視しないで!」
叫んでも喚いても二人とももうこっちを向いてすらくれなかった。くそう、グレてやる!
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(サンタクロース不在)
乱闘中かと思うような真剣な目線を突き合わせて、大人と子供が対峙していた。
不敵なネスを筆頭に、わくわくきらきらと目を輝かせたリュカとトゥーン。更には興味津々だと目だけが訴えているアイクまでもが子供の側でじっと大人の言葉を待っている。
対する大人側は皆が皆そそくさと逃げ出した結果、スネークのみが残っている状況だ。比較的文化の近い彼をターゲットに選んだのはネスだろう。
というか、実行犯はネスであって、残りはネスの話に惹かれて寄ってきただけなんだけど。
曰く、『12月24日の夜にはサンタクロースがよい子にプレゼントを届けに来る』と。何のことは無い、大人たちへ遠まわしなプレゼントの催促だった。
ただ、それを信じる純粋な子供…と青年が居たというだけで。
「…確かに、サンタクロースは俺の世界にも居る、とされている」
重苦しい雰囲気を纏いながら、スネークが厳かに、子供たちへ求められた答えを返す。
肯定の言葉に目の輝きを増すリュカやトゥーン、アイクに対して、言葉に込められた暗雲にネスは眉尻を吊り上げる。
「その、サンタクロースと言う奴は、何でプレゼントを配って回るんだ?」
「元は聖人の施しだと言うが…と言うかな、アイク。俺たちの世界のソイツはあくまでおとぎ話だ。過去の聖人の偉業にあやかろうと、不思議なもののせいにしただけだ」
その言葉に一応の納得を見せるアイクと、がっかりした様子のリュカとトゥーン。すっかり剣呑な目になったネスがスネークに指を突きつけ、高らかに宣言した。
「そこは大人として子供の夢を壊さないためにサンタの振りをするもんだろ!」
「自分で主張しといて夢もへったくれもあるか!」
諍う声が双方大人げないものになったところで、僕もティーカップを持って、稽古を約束しているアイクに目配せしてから談話室を出る。
見てる分には面白いけど、巻き込まれたくはないからね。
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