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  KKとイナリ


狐を拾った。


悪ぶっていきがってるガキどもが何かを追い回しているのを見つけたのは仕事帰りの路地裏だった。
最初、猫を嬲ってやがると思った俺は一切の容赦なくガキどもを蹴倒して、打ち捨てられた木箱に怯えて隠れたそいつを救出したのだが、そいつは猫ではなく狐だったのだ。
でもまあ、小動物に変わりは無し、しかもしっぽを怪我してると来たもんだから、つい家に持ち帰って手当なんぞをしちまったんだが。

その狐は、ただの狐じゃなかった。

これで狐が次の日の朝可愛い女の子になったんだったら、それは所謂鶴の恩返し的な、オイシイ話なんだろう。けれど、狐が変わったのは図体のでかい野郎で。それも何処かで見覚えがある奴だった。
記憶を探るまでも無く、そんな相手と知り合えるのは俺の生活範囲じゃ例のパーティくらいだろう。暢気に納得してそいつに人間用の朝飯を用意してやってる間に、漸くそいつが六さんに連行されたときの参加者だと思い出した。
名前は、そうだ、イナリだ。


人型の姿は俺よりデカい、ガタイのいい男なんだが、元の姿が小動物だと思うと無下には出来ないだろう? 俺はそいつのしっぽが治るまで家においてやることにした。

イナリは地味に役に立った。 デカい図体通りイナリは力も体力もあったし、助けてもらった礼がしたいと言うものだから、やれずにいた家具裏の大掃除を手伝ってもらったのだ。
イナリが家具を持ち上げる度にしっぽが痛まないか内心気を揉んだもんだったが、俺が思うよりも怪我は酷くないらしい。何よりだ。

で、俺は予想よりずっと早く終わった掃除に気をよくして、礼の礼にうどんをゆでてやっている。


「よく働いてくれたからおあげを二枚入れちゃろう」
「忝い…だが、有り難く頂戴致す」


怪我で化けれないしっぽが控えめに揺れる。その仕草がまんま狐で、俺はこっそり笑った。 ちょっとならこんな生活も悪くない。





某はイナリ。狐の化生である。
元来次層を異にする界に住まいし者なれど、今は人の世、とある男の住まいに居候させて貰っている。

男はけい殿と言う。
いや、本当はもう少し長い名前であるが、如何せん我の界に無き言葉なれば、呼び易きようけい殿が気を遣ってくれたのだ。 六殿もそう呼ぶから気にするなと笑ってくれたが、まったく気を配るに長けた御仁だ。

先頃、我はけい殿に危うきところを救われた。 朔月夜に獣の姿へ戻りしところを悪童どもに襲われ、あわや打ち殺されんところへけい殿が助けに入ってくれたのだ。
そればかりか、悪童に負わされた怪我を手当てし、怪我が治るまで居てもいいと言ってくれた。聞けば、動物が好きなだけとの言。些か照れたその様子に、我は申し出を有り難く受けることにした。

実際のところ、痛めた尾は然程の怪我ではない。それでも好意に甘えたのには、理由がある。


けい殿の周りには、黒いもやが漂っていた。

妖しの者たる我はそれをしかと見たが、けい殿はどうも気が付いていない様子。放って置けば不幸を呼ぶであろう。それを見ぬふりなどすれば、恩を仇で返すようなものではないか。我は帰るまでにもやを祓うと、心に決めていた。

もやの正体はどうも怨念の類であるようだ。盆も近く、死せる者の念が届きやすくなっているのだろう。
けい殿は優しい御仁だ。だが、隠しきれぬ程の血臭も纏っている。掌を見るに剣士ではないようだが、恐らくは人を殺したこともあろう。恨みは正当なものかも知れぬ。だが、それが己の恩人を見捨てる理由には成り得まい。


もちろんそれ以外にも礼になりそうなことはさせて貰い、三日が過ぎた。 もやは晴れるどころか、幾分濃くなったようにも見える。通力の少なき己ではもやのままでは手が出せなかった。
それでも手出しはさせぬと見守って、更に二日。


期は、やってきた。



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