ねぇ、ねぇ






案の定兄は注目の的。
学校が休みで遊びに出てきているであろう女子高生、彼氏と歩いている化粧の濃い女、友達同士で騒ぎながら店から出てきた女性達など。
本人は慣れているからなのか、はたまた自分のことに関しては無頓着であるからなのか、全く気付いていない様子。ある意味強者だ。

駅の周辺に点在するビルに入っている服屋を回り、高いものから安いものまで見て回る。
今年はどんなものがトレンドなのか、これはいいけれど着回しは難しそうだ、など。2人とも服が好きな分、会話も自然と増える。こうして回って歩くと2、3時間はすぐに過ぎてしまう。それだけ時間をかけても、目ぼしいものが無い時には何も買うことなく帰ることもしょっちゅうだ。

「佐助、少し座るか」
「そうだね。さすがに疲れた」

今日もそんな感じで、ほしいと思えるものはあったがよくよく考えると必要がないかと思えるものばかりで。よってどちらの手にも何も持たれていない。
両手が空いている分まだ動きやすいが、それでも人でごった返した休日の駅前は歩きにくくて疲れてしまう。
俺たちは近くに見つけたコーヒーの有名な喫茶店に入った。
空いている席を探すが、満席のようだ。
注文している間に空くかと思ったが、甘かった。
どうしようかと兄と顔を見合わせる。
困ったように兄が笑う。

「外、空いてるかな」
「これだけ混んでるからな……わからねぇな」
「見てくる」
「じゃあ、持ってるから頼む」

プラスチックカップに入ったドリンクを兄に渡して、俺は足早に外に出て。
テーブル席を見回すと、丁度今席を立とうとしているカップルが目に入った。
彼女がコートを着るのに少し手間取っている。
この分だともう少しかかるかもしれない。
彼氏が彼女に何かを告げて、皿とカップの乗ったトレイを持って立ち上がる。
俺は店内に戻り、兄に空きそうな席があると告げ、2人で外に出た。

「ホント、空いてよかったね」
「ああ。こんだけ人がいる中で飲みながら歩くのは不可能だからな……」

人が、流れていく。
個人の判別など不可能なほどに密集して、大きな流れとなって。
兄はそれ見ながら苦笑する。
ざわざわという大きな音の集合体。
それがどこか遠くに感じられるほどには、俺たちのいる空間はゆったりとした空気が流れていた。
兄の端正な横顔が、いつもよりも近くに見える。
相変わらず……綺麗だ。

「……ねぇ、兄ちゃんってさ」
「ん?」
「……」

彼女、いるの?

そんな質問、同級生の間ではよくするし、実際に聞かれたこともある。
いつも深く考えることなんてなく口にできていた。
それなのに。
いざ兄がこちらを向くと、声が出ない。

「……どうした?」
「え、と……」

声が出ない。
聞きたいのに。
だけど聞きたくないと思う自分も確かにいる。
これではまるで……

「な、なんでもない」
「そうか?……言いづらいなら、無理には聞かねぇけど」

そう言って兄はまた人混みに視線を移してしまう。
俺はそんな兄の横顔を見ながら、自分の感情に戸惑うしかなかった。




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