今更の疑問






毎週しっかりとやっていた甲斐あって、掃除も洗濯もそんなに時間はかからない。
先に掃除機をかけ終わり、あらかた部屋の整理も終えた俺は兄が洗濯物を干し終わるのをリビングで待っていた。
テレビをつけてみても、くだらないバラエティ番組ばかり。ひな壇に並んだアイドルやタレント、お笑い芸人なんかがどこかで聞いたことのあるような話をべらべらと話している。チャンネルを変えてみても同じような番組ばかりで、結局テレビはそうそうに諦めた。
三人掛けの広いソファに横になって、テーブルの上に投げ出してある携帯を手に取る。
クラスで作ったからと招待されたグループの通知が十数件。どれもくだらない、中身のない内容ばかり。既読のみつけて、ネットを開く。
トップニュースに一通り目を通し、顔を上げる。
兄はまだ洗濯物を干しているようだ。
手伝いに行こうか。そう思って、辞める。
そういえば兄には洗濯物を干すときにこだわりがあるようで、手伝いに行っても返って邪魔になることを思い出したから。

「早く終わんないかな……」

携帯を閉じてテーブルに投げ出し、考える。
折角の兄がいる休日。
晩御飯を作り始めるまでにはまだ時間があるし、何なら休日は今日だけではない。兄の手料理が食べたいと言った手前ではあるが、今日は外で食べてもいい。

「買い物……」

することも特に思いつかないし、最近はさっぱり行っていなかったから、街に出たい。勿論、兄と一緒に。
友達と服を買いに行くこともしばしばあるが、どうにもセンスが合わなかったり、丸ごと自分のセンスを頼りにされてしまうばかりでつまらないのだ。
その点、兄と行く買い物はいつも楽しい。
お互いにお互いの服を選び合う中で、やれこっちにはこれだろ、だの、これにはこれしかない、だのと言い合いながら自分では思いつかない選択肢を見つけることができる。
また、兄弟だからこそはっきりと似合わないものは似合わない、と言ったり、言われたりする。
それが楽しくて仕方ないのだ。

「佐助、コーヒーか紅茶、どっちがいい?」
「あれ、終わったの?」
「おう。で、どっちがいい?」
「兄ちゃんに合わせるよ」
「OK,わかった」

身体を起こして、キッチンで動く兄を見る。
見慣れた姿。
お湯を沸かしてティーポットに入れているところを見ると、紅茶らしい。
しっかりと茶葉を蒸らして、カップに注ぐ。

「ほら」
「ありがと。牛乳あったけ」
「確かあったはず……あ、あった。ほら」
「ありがと」
「佐助、ど真ん中に座るなよ。狭い」
「ごめんごめん」

隣に兄が座って、紅茶を飲み始める。自分で入れたお茶に対して「delicious」と漏らすところは兄らしい。
俺も牛乳を入れてミルクティーを作り、一口。うん、美味しい。

「あ、佐助」
「何?」
「買い物行かねぇか?夕飯の材料買わねぇと」
「それなんだけどさ、まだ時間あるし、街の方出ない?」
「街まで?」
「うん。俺も最近行ってないしさ、服見に行きたいんだよね」
「Ahー、確かに俺も行きてぇな。よし、行くか」

にっ、と笑う兄の顔にドキリとした。
こんなに近くで、こんな笑顔を見たのはいつ以来だろう。
子どもみたいな顔。
いつもの「兄らしい」がなくなった顔。
もしかしたら、初めてかもしれない。

「佐助?」
「……楽しみ」
「ああ、久々だしな」

紅茶を一気に飲み干して立ち上がる兄に続くように、俺もカップの中身を飲み干した。
ばたばたと二階に上がる足音が聞こえて、兄も本当に楽しみにしているのがわかって。俺はとても嬉しかった。

「さ、俺も準備しないとね」

兄の隣に並んで、見劣りするのは嫌だ。
センスが良くて、おまけに悔しいけど顔もスタイルもいい兄の隣に立つのだ。しっかりとした格好をしなければ。

「昔っから注目の的だからね……」

いつも兄の隣にいると、女性からの視線にさらされるのだ。迷惑なことに。
イケメンだなんだらと女子高生がすれ違った後ろでコソコソと話しては、二度見する。
その視線の先は勿論兄なのだが、隣にいると嫌でも視界に入ってしまう。
「隣の人、ダサーい」などとオブラートという概念すら持たない同年代の女子に馬鹿にされるのは御免だ。
自室に戻ってクローゼットの中身を見ながらそこまで考えて、ふと気づいた。

「あれ、兄ちゃんて……彼女とかいるのかな……?」





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