大切なもの、不幸






いつの間にかまた眠ってしまっていたのか、目が覚めると兄はいなかった。
開けられていないカーテンから漏れる光はそこそこ強くなっていて、もう昼頃だろうと予測できた。
兄の机の上を見ると、閉じられたままのパソコンと小さい文字の並ぶ資料が数枚とファイルが数枚置いてあった。
その傍にあるメガネに俺の目は釘付けになった。
手に取ってレンズを覗くと、度が入っているのがわかる。
知らなかった。
兄の目が、悪くなっていたこと。
考えればわかることだ。
兄は俺と違って片目ですべてを見ている。
通常の2倍の負担があの左目にはかかっているのだ。
それに加えて寝不足。

「兄ちゃん……無理して……」

胸が痛む、とはこのことを言うのだろうか。
ぎゅう、とパジャマの胸のあたりを握る。
何かがせりあがってくるような感覚。切なく、悲しい感覚。
ずっとずっと、兄ちゃんは俺に隠して無理をしてきたのだろうか。
きっと、そうなのだろう。
無理をすることによって守ってきたのだ。
誰を?
決まってる。
俺を、だ。

だけど胸に浮かぶ思いはそれだけではない。

『嬉しい』

その思いも確かにあることに、俺は困惑していた。
不謹慎にも、嬉しいと思ってしまっている自分がいるのだ。
兄ちゃんの心を占めるのはいつも自分であって、兄ちゃんは俺を1番に考えてくれている。
俺が、兄ちゃんの1番なんだ。
そう思うと、嬉しいのだ。

兄ちゃんは俺の大切な存在で。
それなのに、兄ちゃんの不幸を喜んでいる自分がいる。
最低だと自分を罵りながら、それでも心は喜んでしまう。

矛盾した気持ち。
綺麗とは決して言えない。
胸に渦巻く気持ちは白でも黒でもなくて。
俺はどうしたらいいのか、自分でもわからなかった。




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