07
「どっちでも、いいです。」

わたしの発言に二人の言い合いがピタリと止んだ。

「……いいかい、なまえ。これは君の命の選択だ。もっとよく考えるべきだ、なにも今日中に決めなければいけない訳ではない。」
「でも、それでも、私の命はここで生まれた訳じゃないです。ならこの世界で生きるためには私に利用価値があるかないか、だけだと思うんです。私には自分の価値がわかりません。だから、どっちでもいいですよ。役に立てるかはまた別問題ですけど。」

言い切ってしまえば団長とハンジさんは絶句してしまった。よく考えても結局なにもわからなかっただけ、という結論に至っただけだ。簡単な話。だから本当にどちらでもいい。
元々あそこで死んでいたかもしれない命なら、もう皆さんの好きに使えばいいじゃないですか。と、私は静観を決め込んだ。

「……チッ」

舌打ちが聞こえた。隣から聞こえた舌打ちに何故だと仰ぎ見ようとすると、隣の人物を捕える前に勢いよく背中を蹴られた。それを理解する間もなく床に倒れこむ。じわりじわりと痛む背中に涙目になりながら蹴り上げた本人を抗議の目線で睨み付ける。いや普段ならこの人に睨むとかとんでもないが、しかし理由なき暴力はさすがに抗議したい。なんだ、一体。
顔をあげると乱暴に顎を掴まれ上を向かせられる。侮蔑を含んだ目で見下ろされて背筋がぞわりと震えた。

「むかつくな、その態度…大して生きてもいねぇガキが、何もかもわかったように見下してる姿。」
「……」
「いらねぇなら寄越せ、その命。俺が有効的に使ってやる。いいな?」
「…うん、使っていいよ」
「というわけだエルヴィン、こいつは俺が預かる。」

私から手を離して団長さんに向き直る。未だ二人は納得がいっていないような顔をしている。私は立ち上がってスカートを軽く払うと隣の兵長さんがとてつもなく嫌そうな顔をした。
無表情のリヴァイと特に気にした風もない私を見て、団長さんは大きなため息をついた。

「わかった、君の全権はリヴァイに預けよう。明日からはリヴァイの監視下の元、立体起動と兵法を学んでもらう事にしよう。」
「はい。」
「だが、君の知識の量は気になる。我々では学び得ない事を知っているというのはこれからの人類にとって大きな進歩かもしれない。故に一日に一回はハンジの元でその知識を我々に教えてほしい。同時にこの世界と巨人についての基本知識を学んでもらいたい。」
「いいの!?エルヴィン!!」
「ああ、彼女の知識も人類にとっては貴重なものだ。利用する価値は十分にあるだろう。」

苦々しい顔をしていたハンジさんが団長さんの言葉を聞いて興奮気味に噛みついていた。しかし対する団長さんは逆に苦々しい表情で「利用する価値」という言葉を紡いだ。
その様子が理解できずつい首を傾けてしまう。そんな顔する必要はどこにもないのに。
そんな私に今度は拳骨が脳天にぶち込まれた。ぐわんぐわんする頭、痛むつむじあたりにまたしても涙目になりながら隣の男を見上げるとまたあの目で見下ろされた。

「俺に寄越した命を勝手に巨人共に食い散らかされたら承知しねぇからな。」
「…それは遠回しに頑張れって言ってるんですよね?」
「俺たちは死ぬために壁の外に行くんじゃねぇ。それを理解しろって言ってんだ。どうにもお前の生の執着は希薄すぎる。」
「つまり死んでいいよって言われるまで死ぬなって事ですか。」
「そうだ。」

なにそれすごく無理難題。しかも生きる意志がない訳じゃないのに、また何か誤解されている気がする。
別に死にたいわけじゃない。できれば生きたい、でも。

この世界は残酷らしいからなぁ。


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