パティスリー・アンドロメダ 4


【8】02/23 00:11 パティスリー・アンドロメダ店内


あいつの存在に気付いたのは、まったくの偶然だった。

店の奥にあるキッチンからは、壁に遮られて店内の様子が見えない。だが一箇所だけ――キッチンと店内を仕切る扉、そこに嵌めこまれたガラスの窓だけが、俺と外の世界を繋ぐものだった。ガラス窓越しには、会計用のレジと、店の外側に向けてケーキ類が並べられたショーケースが見える。
那月はいつも店内を歩き回って接客したり、暇な時はディスプレイを直したりする。会計の時くらいしか那月はレジの前には立たないので、自然とショーケースの向こう側に目が行くようになった。日中はケーキ作りに没頭し自分の世界に閉じこもってばかりだが、時々思い出したようにガラス越しの世界を見る。

老若男女問わず、様々な人間が店の前を通って行く。陳列されたケーキに心惹かれるのか、店の前で立ち止まってケーキをうっとりと見つめる女性客や幼い子供も多かった。時には別な用事で商店街に来たのであろう老人が、しげしげとショースを注視することもあった。オリオン通りには、昔ながらの小さな商店が立ち並ぶ。この店のように、最近新しくできたような洋菓子店は老人の目には物珍しく映るのだろう。
俺はそうやって、ケーキ作りの合間に、店の前を通る通行人を眺めるのが日課になっていた。だが、余計な詮索を挟むことはしない。ただ無心に眺めるだけでよかった。――少なくとも、あの時までは。



それは小雪がちらつく12月の半ば頃だった。
夕食前の時間帯だったからか、買い物ついでや学校帰りの客が多かった。忙しそうに店内を駆け回る那月とは対照的に、俺は店の外をぼんやりと眺めていた。もうその日の分のケーキは全て仕上がっていて、後は明日の仕込みを残すばかりだったのだ。
どうせ暇なら接客の手伝いでもするべきだったかもしれないが、客に対する俺の態度の悪さは那月に常々注意されていたからやめておいた。どうしても俺は初対面の人間には威圧感を与えてしまうらしい。そんなふうに眉間に皺を寄せてるからだよ、と那月に言われても、仏頂面でいる方が楽なのだから仕方ない。慣れない笑顔を無理に作ってもいたずらに恐れられるだけなのは分かりきっていた。手伝いどころか逆に那月の邪魔になるだけだ。
結果、何もせずにぼんやりする。店の外を行き交う人々は、早く家路につこうと足早だった。立ち止まる通行人もいるが、ほんの数秒目を向けただけですぐに去ってしまう。いくらケーキが魅力的といえど、帰宅願望には勝てない。

人間観察に飽きた俺は、明日の仕込みに戻ろうとした。だがその時、店の前で立ち止まる人間が目に入った。
黒いコートに身を包んだ長身の男。それだけでも目を引く上、とても綺麗な顔をしていた。興味を引かれて再び窓の向こうをじっと見る。
どうせすぐに立ち去るのだろうと思っていたが、そいつは俺の予想に反して随分と長いこと居座っていた。ショーケースの中のケーキを食い入るように見つめ、時々ほう、と感嘆の溜息を漏らした。
やけに幸せそうだと思えば、次の瞬間には苦悩に満ちた険しい表情でケーキを親の仇とばかりに睨みつける。お前はケーキが好きなのか嫌いなのかどっちなんだ、と思わず心の中で突っ込みを入れてしまった。

そんなに気になるのなら店内に入ってじっくり見ればいいだろうに、そいつは5分近く店の前に突っ立ってケーキを凝視するだけだった。いつまでそうやっているつもりだと呆れた頃になって、そいつは何かを決心したかのように唇を引き結ぶ。やっと買う気になったか――という俺の期待は見事に裏切られた。
そいつは店に背を向けたのだ。そのまま早足で立ち去っていく。俺は呆然とした。穴が開くほど見つめておきながら、ケーキ一つ買うどころか店に入りもしないだって?信じられなかった。何をそこまで思い悩ませたかは知らないが、ケーキを買わない客は不必要だ。俺は溜息をついてキッチンへと意識を戻す。
だが、あの非常識な客のことはいつまでも頭の隅に引っかかっていた。



あいつはもう店に来ないだろうと高をくくっていたが、驚いたことに奴は次の日の朝また店の前を通り掛かった。随分と図太い神経をお持ちだ。
だが、やはり店内には入らない。しばらくの間、店の外からショーケースを眺め、そして去っていく。わけが分からない。
次の日も、また次の日も、奴は店の前を通っては立ち止まる。奴が店に来る時間はまちまちだ。朝だったり昼だったり、夕方だったり閉店間際だったりする。普通のサラリーマンではないのだろうということは察しがついた。

あんな物欲しそうな目をしてケーキを見つめるくらいなら、早く買ってしまえばいい。なのに奴は頑なに店の外から動かず、ただただ見るだけだった。おかしな奴だ。
俺は暇な時はいつも店の外を見るようになっていた。奴が来ると、気付かれないようにしながら注意深く観察する。蕩けるように表情を綻ばせたり、思い詰めたような深刻な顔をしたり、ケーキを見つめる奴の表情の変化は見ていて飽きなかった。
ケーキを買いもしない癖に毎日立ち寄る変な客の来訪を、心のどこかで楽しみにしている自分がいた。



奴の観察を始めてから一ヶ月が経った頃、転機が訪れた。
開店したばかりの朝早い時間に奴が現れたのだ。その日はいつもと様子が違っていた。変にそわそわしている。
もしかしてやっと買う気になったか?そう思うより先に、那月が店のドアを開けて奴を中に招き入れた。あれほど店の外にいることにこだわっていた(ように見えた)のに、奴は那月の一声であっけなく店内に入ってきた。何故か俺はそのことに苛立ちを感じていた。

店内とキッチンは扉で隔てられており、二人のやり取りはよく聞こえない。だが、那月が押しまくって奴がたじろいでいるような雰囲気は伝わってきた。
ちょうどケーキの型が出来上がった頃だ。那月に味見を頼むついでに、あいつの顔を直接拝むのも悪くはない。
俺は何気ない振りをしてキッチンから店内に顔を出した。

「那月、型ができた。味見してくれ」
味見用の切れ端を那月に差し出す。そして、奴の存在に今やっと気付いたというような振りで、わざとらしく反応する。
「お前……」
我ながら自然な演技だ。そこまでして初対面を装う理由は無いはずなのに、俺はらしくもなく自分を偽っている。
奴が気まずそうに俯いたのを見て、妙に愉快な気分になった。なんだお前も俺を知っているのか。お前は気付いてないだろうが、俺だってお前を一方的に見知っている。お互い様だ。

那月はケーキの切れ端を奴にも味見させようとする。急に奴の顔が明るくなった。ケーキを前にしたあの顔だ。
だが、すぐにその表情に陰が差す。奴は、ケーキが並ぶショーケースの中をじっと見つめたまま動かなくなった。苦々しい顔。
「いえ、私は……」
よりによって奴は俺の目の前で断りやがった。何をそんなに遠慮する理由があるんだ?面白くない、まったく面白くない。お前はあんなに物欲しげにケーキを見つめていただろう。
俺は苛立ちを隠すことなく奴を睨みつけた。初対面の人間を怯えさせるには充分すぎる威力があった。
「す……、すみません、失礼します……っ!」
一目散に店を出ていった奴の目には、明らかに恐怖の色が滲んでいた。……またやってしまった。苛立ちに代わって焦りのようなものが心の中に生じた。もうあいつは店に来ないかもしれない。そんな予感がする。

「駄目だよさっちゃん、お客さんを怖がらせちゃ」

那月が叱る声も、俺の耳には届かなかった。



俺の予感は的中し、あの日以来あいつはぱったりと店に来なくなった。店の前を通ることすらない。
無駄な恐怖を与えてしまったのだから当たり前だ。自業自得という言葉が頭を掠める。あいつが来なくなったからといって、店の売り上げに影響することなどありはしないのに。
あいつが来ないいつもの日常に戻ってから、俺は仕事の合間に店の外を眺めることがめっきり少なくなった。以前は面白いと感じていた人間観察も魅力を感じなくなった。それどころか不快ですらある。勝手に誰かを観察して、勝手にそいつに振り回されて、勝手に幻滅するなんてのは馬鹿だ。くだらない。
不機嫌さを顕にすることが多くなったのも最近だ。昨日などは那月に「お客さんから、パティシエさんの顔が怖いって言われちゃったよ」と注意された。キッチンからでも不機嫌さは伝わってくるんだろうか。ともかく、あの日以来俺にとって面白くないことばかり続いていた。

「そういえば、前にお店に来てくれたお客さん、雑誌に載ってたよ。ほら、あの綺麗な男の人」

ある日の休憩時間、那月は手にした雑誌を広げた。それはうちの店の特集が組まれたスイーツ専門雑誌だった。那月が指さした先は雑誌の記事本文ではなく、巻末に掲載されているファッション雑誌の広告だった。“巻頭グラビア・一ノ瀬トキヤ”――大々的な宣伝文句と共に、見慣れた顔があった。写真の中の凛々しい目がまっすぐに俺を見つめてくる。
「……あいつ、モデルだったのか」
やけに整った顔をしているとは思っていたが、まさかモデルだとは。モデルの世界など俺にはまったくの無関係だったし、この手のファッション雑誌はほとんど手に取らないから知らなかった。一ノ瀬トキヤ――その名前を頭に刻みつける。毎日のように見ていたのに、職業どころか名前すら知らずにいた。
写真の中にいる「一ノ瀬トキヤ」は、俺の記憶の中にあるあいつの顔とはかなり印象が違っていた。確かにあいつであることに間違いはないのだが、こんな作り物みたいに無機質な美しさを放つような奴じゃない。ケーキを前にしたあいつは、もっと表情豊かで人間らしかった。モデルとしてのあいつはストイックすぎやしないか。

――そこで、俺ははっと息を呑んだ。あいつが、いつも店の前を通り掛かるだけで、店内に入ろうとしない理由が分かったような気がした。
あいつが初めて店の中に入ってきた時のことを思い出す。ケーキの味見をするよう誘われた時、あいつは咄嗟に何を見ていた?……ショーケースの中にはケーキと、そのケーキを紹介するPOPが飾られている。POPにはケーキのカロリーが表示されて――

「……そういうことか」

あいつがケーキを買おうとしない理由。あの日からあいつが店に来なくなった理由。すべてに納得がいった。
「どういうこと?」と首を傾げる那月を置いて、俺は休憩時間を放棄してキッチンへと向かった。



何故今までこんな単純なことに気付かなかったんだろうか――あいつは、ケーキを食べることを心の底から望んでいながら、カロリーを気にするあまり手を出せなかったのだ。
そうと分かれば後は簡単だった。限界までカロリーを抑えた、ダイエット用の新作メニューを作る。俺は自らに使命を課した。
作ると決めたからには一切の妥協は許されない。専門書を何度も読み込み、自分の経験と知識を総動員してレシピを考えた。ケーキではなくタルトにしよう。ケーキならカロリーを抑えることは比較的簡単だが、どうせ作るならカロリー控えめながら満足感とボリュームたっぷりのタルトがいい。難しければ難しいほどモチベーションは上がる。

それ以降、俺は寝る間も惜しんで新作メニューの開発に明け暮れた。
別にあいつのために新作を作っているわけじゃない、カロリーを気にする女性客受けを狙ったまでだ――そんな言い訳をしながら何度も試行錯誤を繰り返し、失敗作は数十に及んだ。どれも店に出せるレベルではあったが、どうしても今ひとつ押しが足りないように思えた。
ようやく納得できるようなものが仕上がったのは、新作タルトを作ると決めてから一ヶ月が経ってからだった。会心の出来だと思った。

俺はそのタルトを新商品として店に出すことはしなかった。毎日新作のタルトを作っては、夜まで冷蔵庫に保管しておいて、その日が終わったら那月に食べてもらうという日々が続いた。
新作タルトを食べた那月は絶賛してくれた。味に関しては優しさを捨てて厳しく徹する那月が、あんな手放しで俺の作った洋菓子を褒めたのは初めてだった。俺の努力は結果となって身を結んだのだ。
だが、せっかく完成したのに渡す相手がいない。俺は暇さえあれば店の外を眺めていたが、やはりあいつは来なかった。



そして今日も結局あの黒コートが姿を現すことはなく、俺は閉店後の静かな店内で明日に向けた仕込みをしていた。
那月は既に上がって、店には俺だけしかいない。キッチンの照明は薄暗く、より一人であることを意識した。
今日は全国的に厳しい寒さが広がったらしく、寒さの影響で客の数も心なしか少なかった。明日も例年以上の寒気が舞い込むという予報だ。いつもより少なめに作っておいても間に合うだろう。
仕込みをあらかた終えて、俺は新作ケーキの試作に取り掛かる。つい最近完成したばかりのタルトは会心の出来だったが、あれで満足するわけにはいかない。あのタルトを筆頭にして、今後は女性客をターゲットにしたカロリーを控えめのシリーズを展開しようと考えていた。やはり次はケーキがいいだろう。従来のケーキの風味を落とすことなくカロリーオフのケーキを作る。難しくはあるが、あのタルトを完成させた俺ならばできないことはない。
ケーキの試作に没頭するうちに、時計の針は11時を過ぎていた。もうこんな時間か。顔を上げて店の外に目をやる。辺りはもうすっかり暗くなっていた。

ふと、店の外に気配を感じた。誰かがいる。その人物を認識しようと俺は目を凝らす。
「あいつ……!」
思わず駆け出していた。焦ってつんのめりそうになる体をなんとか持ち直し、外にいるあいつの元へと向かう。
間違いない。間違えるわけがない。あいつは一ノ瀬トキヤだ。暗闇の中だろうとも分かる。毎日あの横顔を見てきたのだから。

「――おい!」

乱暴に店の扉をこじ開け、立ち去ろうとする奴の背中に向かって叫んだ。どうせなら名前で呼ぶべきだったかもしれないがそんな余裕もなかった。とにかく引き止めるのが第一だった。
恐る恐るといったように奴は振り返る。ああ、この顔を見るのも久しぶりだ。夜の暗闇の中だからかもしれないが、奴は少し疲れた目をしているような気がした。
こんな時くらい愛想よくできればいいものを、俺は相変わらずの仏頂面を緩めることができない。
呼び止めたはいいがその後何を話すかまでは決めていなかった。やっと会えた、は変だ。そもそも再会を待っていたのは俺の方で、こいつは会いたいどころかもう二度と俺と顔を合わせたくないと思っていたっておかしくない。それくらい、こいつが初めて店内に入ってきた時の互いの印象は最悪だった。

気まずい沈黙が俺達の間に流れた。俺は次に何をすればいい。そもそも何故こいつを呼び止めた?こいつにもう一度会いたいと思った理由は?
ひとつずつ記憶を拾い上げ、ある結論に辿り着く。そうだ。俺はあのタルトをこいつに食べさせたかったんじゃないか。やっとのことで思い出した。

挨拶もそこそこに逃げようとする背中を「待て」の一言でその場に留める。絶対に逃がすか。睨み付けると奴は怯えたように肩を竦ませたが気にしない。
その場を動くなと釘を刺し、俺はすぐさま店の中に戻った。もちろんあのタルトを奴に渡すためだ。
冷蔵庫を開け、一切れだけ残しておいたそれを取り出した。手際よくケーキ箱を組み立て、その中へタルトを慎重に入れる。1号サイズの箱に、タルトはすっぽりと収まった。
何度も試行錯誤を重ねて完成させた自信作。これなら、カロリーを気にするあいつでも食べられるはずだ。

箱の蓋を閉じかけた所で手が止まる。
……そもそも俺は、どうにかしてあいつに俺の作ったものを食べさせたいと思った。だからカロリーを抑えたレシピを研究し、何度も失敗しながら完成させた。このタルトをあいつに渡して、あいつがこれを食べれば俺の本懐は遂げられる。そのはずだ。
だが、本当に満足できるのか?あいつがタルトを食べる、それだけで俺は納得できるのか?その先の関係を望まずにいられるのか?
自問自答を繰り返す。答えは既に分かり切っていた。


俺の心はずっと前からあいつに近付くことを望んでいた。あんなガラス越しじゃなく、直接顔を合わせて、互いを知ることを。
だが俺はあいつを一方的に観察し続けて親近感を感じているだけで、あいつは俺のことなど知りもしない。どれだけ俺が接近したいと思っていても、その思いが一方的である以上、ガラス越しの距離は埋まらないままだ。
俺達が近付くためには、俺が精一杯の努力でもって開けた扉の内側に、あいつの方から飛び込んでこなくちゃいけない。そのために俺はどうすればいい?どうすればこの繋がりを失わずにいられる?


――俺は迷わず、作業台の上に置いてあった紙ナプキンを引っ掴んでいた。
本来は筆記のために使われるものではないそれに、ボールペンで走り書きをする。「食ったら感想よこせ」という一言と電話番号。
俺はあいつとの繋がりを絶つつもりはまったくなかった。一方的にタルトを押し付けて、たったそれっきりで終わらせるわけにいかない。何のためにあれほど苦心して新作タルトを編み出したと思ってる。タルトはあくまできっかけに過ぎなかった。大事なのはこれからだ。

メモを書き残した紙ナプキンを、タルトと一緒に箱に入れる。
家に帰って箱を開けたあいつが、このメモに気付いて電話してくるかどうかはあいつ次第だ。これ以上関わり合いになりたくないからと見て見ぬふりをするかもしれないし、折り紙付きの真面目さですぐに礼の電話を入れるかもしれない。後者であることを祈りながら、俺は箱を持って再び店の外に出た。



無事にタルトを渡すことに成功した俺は、一人きりのキッチンで携帯との睨み合いを続けていた。
今頃はもう家に着いているはずだが、あの箱を開けてタルトを口にするのはいつだろうか。今日中に食べろと念を押しておいたから、まさか冷蔵庫に眠らせたままにしておくことはないと思いたい。
「この俺を待たせやがって……」
苛々しながら悪態を吐く。電話ひとつを待つのにこれだけやきもきするのは初めてだった。
着信はまだ来ない。いつもはアドレス帳に登録してある番号以外からの電話は無視しているが、今日だけは別だ。俺はいつまでたっても落ち着けず、テーブルの周りをぐるぐると回っては立ち止まり、立ち止まっては携帯を確認するという意味のない行動を繰り返していた。

いい加減痺れを切らしかけた時、テーブルの上に置いた携帯が満を持して鳴った。心拍数が一気に上昇する。
すぐに出たら着信を心待ちにしていたと思われそうで、俺はたっぷり4回分コール音を待ってから電話に出た。
「……もしもし」
できるだけ平静を装い、いつも通りの声を出す。電話口の向こうで、深く息を吸う呼吸音が聞こえた。

『あの、先程はありがとうございます』

透明な声がスピーカー越しに響く。
一ノ瀬トキヤが、俺の扉の内側に飛び込んできた瞬間だった。


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