パズル | ナノ
夜も更けた頃合い。
そろそろ眠ろうと、ホームである深い森の中に張ったテントの1つで、同じテントで眠ることになったスコールとジタンは、言葉少なに着替えをしていた。
酷く疲れている訳では無かったのだが、連日の戦闘がこたえていない訳ではないし、早く眠ってしまうに限る。
普段から良く行動を共にするジタンとは、今更2人になったところで、折り入って口に乗せる話題も無い。
かといって沈黙が気まずい程に慣れていない間柄でもないから、自然、無口になった。
薄く楽な装いになったスコールは、脱いだジャケットのファーに枯葉が付いているのを発見して、渋面になる。
…潰してしまうと、粉が繊維の奥まで入って面倒だ。
壊さぬように、ヘタの部分をそっと摘まんで繊維から外し…枯葉を外に捨てようとして…気付いた。
「…ジタン、ティーダはどうした?」
同じテントになった筈のティーダが、まだ入ってきていない。
「ティーダならバッツと何か石転がして話してたぜ?」
具足が外せずにじたばたとしていたジタンは、スコールの問いかけにぴたりと動きを止め、親指でテントの出入り口を差して首を傾げた。
スコールは礼を言う意味で頷き…再びじたばたとし始めたジタンに、一言「…金具」と声を掛けてテントを出た。
「え? …ああ! 俺金具外してねぇし!」
…金具を外さなければ普通脱げないだろう、と胸中で呟いて、ジタンのその声を背中で聞きながら、スコールはテントを後にした。
…外は少し冷えた。
昼間は青々と緑を茂らせる木々が、今は夜闇に染まって黒々とざわめく。
緩いが冷たい風が吹いていた。
スコールは枯葉を風に乗せて手放し、空を仰いだ。
月は無い。
曇っているのだろうか。
星も見えない空では、夜闇はいつもにまして深く、故に焚火の炎がいつもに増して異様に明るく思えた。
下からの灯りにあおられた、風に蠢く黒い木々は少し不気味に感じる。
「雨降るぞ、スコール」
バッツに声を掛けられ、スコールは首を戻した。
ティーダと、今夜の見張りであるバッツが、焚火の傍に座り込み、地面に何やら小石を広げて話をしていた。
「出てこないで寝てろよ〜」
こちらを見ずに、バッツが続けて言ってきた。
スコールは怪訝そうに首を傾け…2人に近づく。
2人の間に広げられた様々な形、色とりどりの小石。数は10。
その小石を見つめ、バッツは片手を口に当てて考え込み、ティーダは胡坐をかいた両膝に両手をあててバッツの応えを待っていた。
「…何を遊んでいる」
「いや…遊んでない〜」
スコールが掛けた声に、バッツは顔を上げないまま、答えた。
スコールは驚いたように、少々目を見開く。
「スコール、寒いだろ? 座れよ」
ティーダが石から身を引いて、少し離れた場所に座りなおしたので、スコールはその場に腰を下ろした。
真正面からの焚火の熱で、少し顔が熱い。
「…何をしているんだ」
「ぶ〜ん〜せ〜き〜」
見ていても何をしているのか皆目見当もつかなかったので、躊躇いがちに問いかけてみれば、問いかけに答えたバッツは口調こそ抜けていたが、やはり顔は上げなかった。
表情を覗き込んでみれば、いつになく真剣で。
「…何の分析だ。何があった?」
ティーダに話を振れば、ティーダは片手で頭を掻く。
「俺は…や、多分俺が原因…なんだけどさ」
「ティーダは何にも悪くねーよ?」
ティーダのその言葉では、要領を得ない。
その言葉に直ぐ後に、バッツのその否定が入って、尚状況が解らない。
そのことにスコールが眉を寄せた時、後ろからジタンの声がした。
「俺をのけものにして何してんだ〜?」
スコールが戻らないので、様子を見に来たのだろう。振り返れば、テントにいた筈のジタンが、もうかなり近くまで歩みよって来ていた。
「よっと」
そうして、スコールとティーダの間に腰を下ろす。
「…遊んでる訳じゃないらしい」
何をしているのかは見当も付かなかったが、バッツの表情から「遊んでいるわけではない」ということだけは信用して、スコールはジタンにそう答えた。
ジタンは並べられた小石の一つ、赤い小石を摘まみ上げる。
「…宝石じゃねーな…」
小石を拾って眺めていたジタンは、ぽつりとそう呟くと、小石を地面に戻した。
そうして、スコールを見上げた。
「分析…だそうだ」
「何の?」
間髪いれずに入った、ジタンのその問いに答えたのは、バッツだった。
「皆の戦力…かな」
スコールとジタンは、同時にバッツを振り向いた。
バッツはティーダに視線をやる。
「ティーダは、自分でそう思うんだな」
「うっす…」
バッツの問いかけに、悔しそうな、歯痒そうな声色でティーダは返答した。
バッツは、ティーダが使うボールに良く似た形の石を、焚火に近い方へ移動させた。
…良く見ると、一つだけ恐ろしく青い石だけが、ティーダの石の対極となる位置に置かれていた。
「これ、ウォーリア?」
「そそ」
ジタンがその青い石指を差して問えば、簡潔なバッツの返答が返ってきた。
「後があんまり良く解んねぇんだよなぁ…」
と、片手で頭をがしがしと掻きながら、バッツは首を傾げる。
「…どうして、いきなりこんなことをやろうと思ったんだ」
スコールが、ふと低く問いかけてみる。
…似つかわしくない気がしたのだ。
バッツと言えば、「風」の呼称に相応しく、気まぐれで、奔放で、いつも明るくさわやかにわらっていて、少し悪戯好きで…。そんなイメージだったから。
こうして、何かにまじめに取り組み考え込むバッツ、というのは、スコールの記憶に無い。
だから…何だか落ち着かない。
自分はこんなに環境の変化に弱かったのかと、少々気落ちもして、問いかけをする。
バッツは答えた。
「…いや、俺、負担掛け過ぎだったからさ」
…。
スコールはジタンと顔を見合わせた。
「…えと、誰に?」
ジタンが困ったような顔でバッツを見て、言う。
バッツは、はっとしたように顔を上げ…皆が自分に注目しているのを見ると、照れたように頭を掻いた。
その表情はいつもと同じで、スコールは漸くほっとした。
「いや…ウォーリアとかにさ…」
「バッツ達の…大人組にってことっスか」
「おお! 俺大人組に入ってんのか!」
「あ。今のナシ」
「このやろー」
バッツが笑いながらティーダを叩くふりをする。
そうやって、ひとしきりティーダと笑いあったバッツは、スコールに視線を向けてきた。
「行軍の作戦とか、陣とかを組んだり練ったりしてんのが誰だか、スコールは知ってたっけ?」
スコールは首を横に振って否定を示した。
「…そもそもそういうのは、個々に組んでいなかったか?」
「や、素材集めとかじゃなくて。探索とか、前線の拡大」
言われて、スコールは考え込んだ。
敵陣地の探索や、激しい戦闘が予想される戦闘区域への行軍は、武具の素材集めや哨戒等と比べて危険が大き過ぎる為、個々で行うことは固く禁じられている。
そういった場合での布陣やら組み合わせやらは、確かに個々で組んではおらず、ウォーリアからの指示で行ってきた。
そう考えてジタンを見やると、ジタンもスコールを見上げて頷いてくる。
多分、ジタンも同じ思いなのだろう。
スコールはバッツに向き直った。
「指示はウォーリアから受けていたが…?」
「実際布陣考えてんのはセシルなんだよ」
「マジで?!」
スコールの問いの答えたバッツに、思わずなのだろう、ジタンが大声を上げた。
途端に「しっ…」と、バッツから注意が飛び、スコールは背後のテントを振りかえる。
…皆眠っているのだろう。今のジタンの声でも、誰か出てくる様子は無い。
スコールは姿勢を元に戻した。
「…なんでセシル?」
声を落として訊くジタンには、ティーダが答えた。
「セシル、軍事国家の1軍の軍隊長だったんス」
以前、共に旅をしていた時に聞いた、と。そういうティーダの言葉にバッツは頷いて、小石に視線を戻す。
「実際には」
と、バッツが言う。
「あいつ軍隊長ではあったけど策士とか参謀じゃないから、戦闘時に戦場での指揮を執るなら十八番だけど、布陣戦略を練るのは範疇外だったらしい。それでもここではそんなこと言ってられないから、策士参謀からの指令を受けて下を引っ張る立場として、少しはこういうのを齧ったことがあるセシルが叩き台を出して、布陣戦闘に慣れてるクラウドと、小隊引っ張ってたことがあるフリオニールと3人で練って、最終的にウォーリアとめっちゃ相談して決めてるんだってさ」
そして、多分…と、バッツはスコールに視線を投げてくる。
「スコール、結構ウォーリアとかセシルとかフリオニール苦手にしてたろ? 苦手オーラ出してなければ、多分スコールに多く意見聞きに来てたんじゃねぇかな?」
あいつら、スコールが訓練生のとはいえ、指揮官だったこと知ってっから。
というバッツに、スコールは思わず小声で叫んだ。
「なんであいつらまで知ってるんだ!」
「俺が話した」
悪びれもせずに即答するバッツに、スコールは頭を抱えた。
指揮官、と言われたって押しつけられただけだ。
勝手に「向いている」「適任」と押しつけられたものを、そのまま「経験がある」なんて他人に言われても困る。
「で…。なんでティーダが『俺の所為』とか言うことになっちゃってんだ?」
そんなスコールを横目に、恐る恐る、といった体で、ジタンが2人に問いかける。
「…ん…。ああ」
バッツは歯切れ悪く応えた。
曰く。強くなりたい、だから手加減の無い相手と戦って来たい、と、昼間、ティーダは戦闘区域に出たがった。
前線をどうの…というのではなく、野放しにされたイミテーションの駆除、という意味で。
彼のフォローに回れる者が、他に居なかったのだろう。フリオニールが、「バッツ、付いてやってくれないか?」と訊いてきた。
バッツは、ティーダは戦闘に熟練していないとはいえ戦士で、もう戦闘に慣れていない訳ではないのだし、1人で平気じゃないのか、と答えた。
実際それまで、余りに過保護じゃないか、そんなことをしていては逆にティーダは伸びないのではないか、とすら思っていたそうだ。
ティーダはちゃんと戦える。弱くもない。
縛っていないで、手を離してやった方が良いのでは、と。
それを横で聞いていたクラウドが口を挟んできた。
「バッツ、お前のそれは優しさじゃない」
認めることでもない。と。
「本当に」
と、バッツは言った。
「付いてってやったらさ。そりゃ、普通に普通のイミテーションとサシでの戦闘ならティーダ1人で余裕だろ。でもそうじゃないんだって。予測の付かない…奇襲とかさ。群れて襲いかかってきたりとかさ。自分よりレベルの高いのに見つかったりとか、さ。そういうのに、ティーダは対抗出来ないんだって。だから付いて行ってくれって言われたんだって解った。俺、ティーダのことも見てるつもりで見てなかったんだって」
バッツはそこで溜息を吐いた。
…らしくなくて、スコールはジタンと顔を合わせる。
「その後、その2人…フリオニールとクラウドと、セシルとで4人で少し話した。今までそういう…判断とかさ、自分じゃ知ろうとしないで、押しつけてて悪かったって。ウォーリアにも無関心で悪かったって言いに行くって」
これにはスコールは驚いて目を見開いた。
身体も少し乗り出す形になっていたから、バッツも気付いたのだろう。きょとんとした表情で見返してくる。
「どした?」
「いや…話したって…あんた…」
自分の至らない点を、そんなに簡単に認められるのか。
普段は本当に…飄々と掴みどころが無くて、ふざけてばかりで、正直これで20歳なのかと疑いたくなるこの男だったのだが…。



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