パズル2 | ナノ

バッツは苦笑した。
「悪かったって思ったんだから、謝らなきゃ次から話もできないだろ〜」
…本当に。
こういうところは、自分よりもきちんと、しっかりしているのだと…。至らない点を自分で認めたがらないでいるような、意地を張った性質はもう越した年上なのだと思い知らされる。
素直…というのとはちょっと違う気がする。
強いのだ。
弱点を認めても、揺るがない芯を持っているから、こうしていられるのだと。
…スコールは急に自分が弱小に思えて、小石に視線を戻した。
訓練生の、とはいえ、成り行きで、とはいえ。
自分は指揮官の経験がある。
苦手意識を抑えて話すことをすれば、また、面倒事を面倒事と厭わずに率先して名乗りを上げていれば、多分、自分は彼らの、自軍の助けになれた。
…その苦手意識を克服しようとせず、苦手に甘えていた自分が、「押しつけられた」を理由に逃げていた自分が情けない。
もしかして、と思う。
彼らは、自分が苦手と思っていたから訊きに来なかったのでは無く、自分にその準備が無かったから訊きに来なかったのではないだろうか。
…黒くなれ。
スコールは目を閉じた。
バッツの声がする。
「セシル、俺と同い年なのにしっかりしてんだよなぁ…。でも同い年だからさ、俺が自分で『俺こういうとこ弱いな』って思うことと似たような部分があって、『助けてくれ』とも言われた。そりゃ、いくら叩き台の作戦だからって、ヘタすりゃ皆の命に関わってくる訳なんだから、考えて提示すんのにそーとープレッシャー掛かってんだろうなって思った」
…フリオニールも、あいつ俺より歳下でも俺よかしっかりしてる。ちゃんと皆のこと見てんだよなぁ。面倒見がいいっつーかさ。まぁ抜けてるとこもあって、それがらしいっちゃらしいけど。抜けてるってか、頑張り過ぎるっていうか。直情的だから抑えが効かない時があるっていうか。セシルとクラウドがブレーキになったりしててさ。
クラウドも、結構無関心を装っちゃいても、状況はちゃんと見ててくれんだよな。まぁいきなり不安定になったりして、どうにかこうにか、周りがブレーキ掛けたりして。あいつにブレーキ掛けられる奴ってそう居ないから、あいつ自身、どうにか自分を抑えようと必死になってたりしてさ。でも出来なくてまた不安定になっちゃったりさ。
なんて、風と木々の葉の音を背景に、バッツは話してゆく。
「…それでも、自分達のことだけじゃなくて皆のこと背負っててくれてたんだよな。結構俺、『これをやって欲しい』って色々思われてること気付いてなかったんだ。…でも俺が謝ってさ、どうしたらお前等は楽かって訊いたら、皆のことを知ってくれているだけで相当助かるって笑って言ってくれた。だからこうやって、皆の戦闘能力だけでもさ、分類して解っておこうかなとか思った訳よ」
そうすりゃさ、今回みたいに、フリオニールに言われなくても、俺が付いてくって名乗れた筈だからさ、と。
俺だって反省はすんだぞ? なんて照れくさそうな声色のバッツに、スコールは目を開けた。
俯きがちだった為、目を開けて最初に見えたのは、地面に広げた小石だった。
それらが、焚火の揺れる赤に照らされて、地面に長く影を落とし、揺らめいている。
スコールは小石に手を伸ばした。
「お。手伝ってくれんの?」
バッツは嬉しそうに声を上げた。
スコールは…頷きはしなかった。
それは手伝う…という行為ではなく、自分でもきちんと知っておこうと思ったが為の行動だったからだ。
多分、こういう全部を。
ウォーリアは手を貸したいとか口を出したいとか思ったことが何回もあるのだろうと思う。けれど知らない振りをして、きっと良い方向に転ぶまで、こうやって黙って見ている。
それをとても格好が良いと思う。
バッツに対する思いとは違う意味で、凄いことだと思う。
良く見れば、小石はティーダとウォーリアの小石を除き、ある程度グループ分けされている様子で。
自分は…と、スコールは考えた。
多分、あまり強くない。と、悔しいが、客観的に考える。
訓練生がプロになったばかり…いわゆる駆け出しに近いのだ。実戦経験を自分より積んでいる者は、自軍に幾らでも居る。
黒い、銃に似た形の石があった。恐らくこれが自分だろう。
それが、ティーダに近い場所に、他の3つの石と纏めて置いてあった。
スコールは手合わせの時のことを考える。
勝負が五分五分で、勝ちもするし負けもするのがジタンとオニオンだ。
ジタンは素早いが力と耐久力が無い。故にコンボに引っ掛けてしまえば後は一方的に勝負が決まる。
逆に空中に跳ね上げられてしまうと、これはもう手も足も出ない。一方的に勝負が決まる。
オニオンも足が早い。が、使う技の威力の割に身体が未熟なので空振りをした時の隙が非常に大きく、そこで技を掛けることが出来れば早くに決着が付く。
逆に、技1つ1つの威力が高いので、1度引っ掛かってしまうと、剣と魔法の連打で気が付くと負けている。
勝敗数に大きな差はない。多分、実力は似たり寄ったりだろう。
スコールは猫に似たオレンジの石と、玉葱に似た赤っぽい石が自分の石の近くにあるのを見て、そこから先程ジタンが摘まみ上げていた、赤い石を避けた。
「ああ、そんな感じだな」
横でジタンが石を見つめたまま、顎に手を添えて頷いていた。
後は…と、スコールは考える。
丁度ティーダとウォーリアの石の中間に、3つの石が、それよりもウォーリア側に2つの石が雑多に置かれていた。
…解っているのは、自分はフリオニールに勝てないことだ。
スコールは花の形をした薄水色の石の上に指を置いた。
その石は、中央のグループの中にあった。
そしてフリオニールはクラウドに勝てないことも解っている。
スコールは、ウォーリアに近い位置にある、鳥に似た黄色の石の上に指を移動させた。
置いて、バッツを横目で見やる。
…これは、クラウドが知ったら怒るぞ。
バッツは苦笑いをしていた。
後は…と、スコールは考える。
この後が解らない。
正直、ティーダとジタン、オニオン以外に勝てた試しが無いのだ。
一度、ウォーリアとは戦ったことがある。
が、本人は解らないように苦心したろうが、それでも手加減されていることが丸解りだった。
つまり、ウォーリアとの間にはそれだけの差がある。
手を止めたスコールに、ティーダが言った。
「セシルはクラウドとタメ張れるっス」
スコールはティーダを見た。
ティーダは白と黒で模様が付いている石を、ウォーリアの石から見て、クラウドの石の隣に移動させた。
「何故?」
何故お前が知っている、との意味も込めて問いかけてみると、「本人達がそう言ってたし」との答えが返ってきた。
…どちらかが、また、どちらも謙遜しているのではないか。スコールはそう思ってバッツを見てみる。
バッツは頷いた。
「手合わせで最終的に勝つのはいつもクラウド。戦力差が無いとさ、どうしても攻撃に手加減ができねぇから、クラウドが相手だとセシルは踏み留まっちまうんだよ」
でも、とバッツは言う。
「一歩踏み込まれてたら負けているのは自分だって、クラウドは手合わせで2回に1回は必ず言ってる。傍目から見ての勝負には勝ってるように見えていても、負けた勝負ってのをクラウドはちゃんと解ってるよ」
だからあの2人が互角なのはマジ。そういうの素でやってんだから、どんだけええかっこしいなんだよ〜、と。
妬いたふうに言うバッツこそ、と、スコールは思った。
バッツは先程、自分は見ているようで見ていない、と言っていた。
しかしだったら何故、少し前に長く話してくれたように、セシルやフリオニール、クラウドのことを知っているのか。
何故、今話してくれたように、彼らの手合わせでのことを知っているのか。
そもそも雑多とは言え、スコールが小石を弄り始める前、大まかな分類は既にされていた。
それはバッツが自分でやったことなのではないのか。
…あんたさっき見てないって言っていただろう。でもちゃんと見えていて、知ってるじゃないか。俺は知らなかったぞ。と、スコールは思う。
ティーダの件にしたって、とも。
奇襲やら何やらに弱いということを知らなかったのは、あまり行動を共にする機会がなかった所為で、バッツの所為ではないだろう。
逆に、あまり行動を共にしていないにも関わらず、ティーダを一人前の戦士と信じてやれるあんただって、他の成人のやつらに負けていないだろう。
ティーダ、絶対に物凄く嬉しかった筈だぞ?
今、あんたのこと冗談抜きで凄い奴だと思ってるんだぞ?
…なんて、口には出せないが。
スコールは黙って石の上から指を引いた。
黙ったまま、戻す位置が決まらない赤い石を弄びつつ小石を見つめる。
ぱちん…と、焚火の爆ぜる音がした。
ジタンが言う。
「他を比べる前にさ、俺とスコールと、オニオンだと、どういう並びになるんだろうな」
言われて、他の3人は考え込んだ。
速さと地形の適応力で分があるのはジタン。
攻撃の多彩さで分があるのはオニオン。
攻撃力で分があるのはスコールだ。
バッツが言った。
「…純粋に、攻撃力だけならスコールだな…」
「魔法攻撃力も含めるならオニオンもタメ張れるぞ」
ジタンも腕を組んで、こう切り返す。
「だけど当たらなければ意味無いっスよ。相手からの攻撃を防げる反射神経とか、避けられる素早さってのも重要っス」
ティーダも、胡坐をかいた右片膝の上に頬杖を付いて言った。
…スコールは半眼になってティーダを見る。
「…誰の受け売りだ」
「ありゃ、バレバレ?」
ティーダは頭を掻いて、ウォーリアが言っていた、と白状した。
暫く…。皆が考え込み、沈黙が辺りを支配した。
冷たい風が吹き、ざわめいた木々から少量の葉が散った。
その1枚が焚火に落ち…たちまち火に包まれて燃え落ちていった。
ややあってバッツが手を伸ばし、ティーダ側に纏められていた石を、クラウドとセシルの石と並行に並べた。
「多分…攻撃力だけじゃなくて、戦闘スタイルとか、地形とか、性質とかを総合すると大差無い気がする」
「…だなぁ…確かに」
そんな、バッツとジタンの短いやりとりの後、再び、辺りが沈黙で支配された。
スコールは腕を組み、利き手の人差し指で、反対の二の腕を軽く叩きながら考え込む。
「…正直」
そうして、こう切り出した。
「自分より上の連中の実力というのは、解り辛い。バッツ、あんたからみて、この中間のグループはどうなんだ」
「量り辛いのはティナだな」
案外、直ぐに返答が返ってきた。
「量り辛い?」
スコールは、少々眉を寄せて問い返した。
バッツは頷いて腕組みをする。
「ティナはまぁ、系統で分類すれば魔法戦士になるんだろうけど。魔法をどの局面で使えば1番有効的、とか考えながら戦ってないんだよ」
「あ、解る」
バッツの話に、ジタンがぽんと手を打って同意した。
「アレだろ、天才肌」
「そうそう、考える前に自然に身体が動く感じ」
「魔法を『使う』てな感じじゃなくて、ティナちゃんの内側にある魔法が、出所をわきまえてるっつーか」
「あんまり戦いとか好きな子じゃ無い割に、本能的戦士なんだよな」
「やっぱ天才だよなぁ」
「そうそう、ああいうのを戦闘の天才って言うんだろうな」
「…つまり?」
ぽんぽんと弾むバッツとジタンの会話を、スコールが半眼で止めた。
バッツは「あ」と間の抜けた声を出してから居住まいを正す。
そして言った。
「手合わせすれば勝てるっちゃ勝てるんだ。ただ、ティナってジタンと話したみたいに、本能的に戦闘の天才だからさ。俺が勝っても、それってティナは本気だったのか? って良く思う訳よ。俺が勝った時とかには『やっぱり強いね』とか『本気を出さないでねって言ったのに、もう』とか言ってくれるんだけどな」





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -