26 | ナノ
「…だがな、ジタン」
と、ウォーリアは言った。
「…君の心境は、正直理解しかねる。仲間の役に立ちたいという思いは解らないではないが、その為に高々多少の希少品数点と仲間の命を天秤に掛けたのでは、余りに粗末に過ぎるのではないか?」
万の叱責より、この一言がジタンの胸に刺さった。
その場に座り込み、頭を抱える。
ごめんなさい、と。
嗚咽に擦れて途切れる声で、それしか言葉が出てこない。
ここにいるのは、自分が意図せず意図的に見殺しにしようとした人達で。
許しを請うて許される道理ではない。
助けたかった。助けなかった。
両方とも自分の意志で。
その場に座り込み頭を抱えるジタンの前に、ウォーリアは片膝を着いた。
声が聞こえる。
「今から心を入れ替えるのは難しいかもしれないが」と、ウォーリアはジタンの頭に、その大きな手を乗せてきた。
「これから気をつけることだ。ここにいる誰もが、君の死も、君の無茶も、望んではいないのだから」
それを自覚しろと。
その言葉で。
許されたと思った。ここまでしでかした自分が。
許されたかったけれど、許されてはならなかったのではないか。
そう問いかけたくて、できなくて。
ウォーリアが去った後、傍に居てくれたバッツやスコールの、その無言の暖かさが妙に痛かったことを覚えている。
…ジタンを助けてくれ。
死なせてしまう。
誰か。嫌だ。
気が付いた瞬間、パニック状態だったセシルは、その時、酷く損傷した身で暴れ、こう叫んだという。
大丈夫だ。もう戻ってきたんだ。
そう宥める仲間の声は届かないまま、ティナの睡眠魔法で昏睡した。
再び気が付いたのは、ジタンが目を覚ました4日後だったという。
その間、セシルはずっと自分を死なせてしまうという恐怖を抱えて、1人戦場を彷徨っていたのかと思うと、ジタンはその話を聞いた時、与えられた病食を全て吐き戻してしまった。
「悪いと思うなら、さっさと治せ」
等とスコールやクラウドに何度言われたことか。
オニオンは完治していたが、体力は療養中に相当落ちてしまったようで、体力作りにティナとティーダを付き合わせて躍起になっていた。

…ウォーリアの叱責から暫く後、セシルの療養するテントに見舞いに行った。
余り長く話してはならないと言うフリオニールとバッツに、ジタンは頷いた。
改めて見たセシルの状態は、分かっていたこととはいえ、ショックだった。
あちこちに固定用の木があてられていて、こんな状態では失血したままろくに食事も採れなかったのだろう、顔色は土気色で、痩せ、やつれ、体内損傷による高熱であまり目が合わなかった。
ジタンがセシルに話した内容は、概ねウォーリアや皆への告白と同じだった。
但し皆に話した内容よりも、叱責後だからなのか、反省と謝罪が多くなっていた。
セシルは高熱でも、意識はきちんとあり、ジタンも見えているようで、視線は合わなかったが話の最中に目や顔が背けられることはなかった。
話し終えて暫く、セシルからは何の反応も無かった。
反応が出来ないのだろう、と、その場にいたバッツやフリオニールに言われてテントを下がろうとしたその時、長い長い溜息が聞こえた。
「…セシル?」
「馬鹿」
擦れてはいたが、らしくない、きつい口調での一撃だった。
驚いたのはジタンだけではない。
バッツもフリオニールも、おおよそ聞いたことの無い、セシルの仲間への罵倒に唖然としていた。
ジタンはセシルの傍らに座り直して苦笑する。
頭を掻いた。
「そう…だよなぁ…。馬鹿だよなぁ」
「本当だよ」
セシルの言葉は冷たく、どこまでも容赦がない。
ああ。と、ジタンは思った。
おそらく熱で自制の無い、これが彼の答えなのだと。
他の仲間には許された。だが自分の所為で、戦線に復帰出来るかも解らない怪我を負わせてしまったこの騎士からは、許されることは無いのだと。
ジタンは苦笑を深くする。
また、泣き出してしまいそうなことを誤魔化す為に。
「解ってるって。この前もウォーリアに叱られたばっかだしさ」
「うん、聞いた」
「反省、してる」
「だろうね」
ジタンの肩が震えた。
「そう邪険にすんなよー」
「何で?」
「俺泣いちゃうだろー」
「泣けば?」
視界の端で、バッツとフリオニールがおろおろと顔を見合わせているのが見えた…と、思ったら直ぐにそれが歪んだ。
座り込んだその膝の上に、次々に染みが滲んでいく。
「ほらみろー…」
ジタンは強く目を瞑って、精一杯擦れないように、軽い調子に聞こえるように言った。
「泣いちゃったじゃねーかー…」
ごめんなさい、と。
あとはただひたすら、ごめんなさい、と。
それだけしか声にならなくなったジタンに、暫く応答は無かった。





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