23 | ナノ

夢を見ていた…と思う。
長い夢だった気がする。
いや…そもそも夢だったのか。
記憶を反芻していただけのような気もしている。
惚れた少女が居た。
いたずらっぽい笑みを見た瞬間に一目惚れした、黄色の服が良く似合う、活発で薄幸で、健気で頑張り屋で優しくてお転婆でしっかり者の、可愛らしい黒髪のお姫様だった。
お姫様の騎士も居た。
そりは合わなかったが、一途さと生真面目さ、情の厚さは結構気に入っていた。
白くて丸い奴が居た。
食うことが大好きで、他は何を考えているのか正直良く判らなかったけれど、稀に見せる女の子らしさや面倒の良さに、ふと可愛らしさを感じさせる奴だった。
年上の白鼠の女騎士がいた。
古風で生真面目で、しょっちゅう叱られたり呆れられたりしていたが、本当は一途で優しくて、女性らしい弱さを持った素敵な戦士だと知っていた。
同職の赤髪の奴が居た。罪を擦り付けたのが初めての出会いで、嫌いじゃなかったけど正直嫌われてたんじゃないかと思っていたが、危険な時、何故か助けに来てくれた、無口で無愛想な奴だった。
小さな女の子が居た。
小さいのに、1人きりで暮らしていて、環境に沿い、姐さん気質の気丈な子だった。不幸を嘆いたりはしない子だったが、本当は人一倍淋しがりな子だった。
…そして。
小さな魔導師が居た。
初めて会った時から良く懐いてくれたから可愛くて。弟分のように接していた。
良く転ぶ奴だった。
転ぶのは、そいつが創られた存在で、設定された作動時間が切れかかっているからだと、後々になってから知った。
そいつも、破壊を目的に創られていた。
…結局、俺より先に、そいつは作動期限が切れて、逝ってしまった。
その少し前…もう大分動きが鈍くなった時、そいつに会いに行った。
もう、止まってしまうのだろうそいつは、たどたどしい口調で、ゆるゆると俺に言った。

――ジタン

――ボクはね

――ジタンに

――会えて良かった

――って 思うんだ。


――ねぇ ジタン

――生まれてきてくれて

――ボクに出会ってくれて

――ありがとう




…気が付いたら泣いていた。
目の前は真っ暗で、自分が目を閉じているのだと遅れて理解した。
何で泣いてるんだろう、と、考え、恐らく夢の所為だろう、と、思い至る。
夢見が悪かった…訳では無い…ような気がする。
ただ、何となく。
仲間の1人である赤い騎士の…オニオン…とは別人…だと思うが誰だか思い出せない…年下の好いた仲間に。
優しく。きつく。
叱られたような気がして。
此処は…どこだ?
全身が酷く痛む。
全身の痛みから、ジタンは、自分はまだ星の体内の最深部に居て、今迄夢を見ていたのではないかと思い、身震いした。
…だが、仰向けに横になった、その背中から感じる柔らかさと暖かさは、戦場ではあり得ないだろう、と、思い直す。
誰かが、ジタンの涙を拭い、額に冷たく濡れた布を押し当てた。
ジタンはゆっくり目を開いてみる。
目が合ったのは、スコールとだった。
彼はらしくなく、真剣に心配そうにジタンを覗きこんでおり…ジタンの目に正気の色を見つけると、ぎょっとしたように身を引いた。
「…スコ…ル…」
「状態診れる奴連れてくる」
今の表情はスコールの本意ではないのか、ジタンが名を呼ぶと、素早く顔を逸らした。
早口に要件だけ告げると、さっさとテントを出ていって…。
…テント?
ジタンはふと疑問に思い…ああ、と思い直した。
…俺、帰ってきてたんだ。
……。
いや。違う。
連れて帰ってきて貰ったんだ。生かして貰われたんだ。
…あいつらは?
ジタンは首を巡らせた。
直ぐに、若干離れた隣に仰向けで横になっているオニオンと目が合った。
「別に慌てて取り繕わなくてもいいのにね」
スコールのことを言っているのだと解った。
いつもの調子のオニオンに安心してしまって、また泣きだしそうになって。
誤魔化す為、同意を示すように、へら、と笑って見せた。
「ジタン、顔、変」
…どうやら誤魔化せなかったらしい。
オニオンはついとジタンから目を逸らし、上を向いた。
まあいいけど。なんて呟きが聞こえてくる。
「それにしても、スコールってば素直じゃないよね〜。心配することって悪いことじゃないと思うけど」
仕方ないから、目が覚めてても寝たふりしてあげてたけどね〜。なんて。
なんだかもう、本当に『彼らしい』が過ぎて。
「誰か来るの待ってないで、眠かったら眠った方がいいよ。まだ熱高いみたいだし」
「お前…怪我…は…?」
「んー」
オニオンは誤魔化そうとしたらしい。暫く返答は無かった。
だが、返答を待ち続けるジタンにとうとう根負けしたのか、再びジタンの方に顔を向けた。





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