22 | ナノ

ジタンは絶叫した。

白濁した視界の中、ティナがおののいて詠唱を切ってしまったのが微かに見えた。
ジタンは起き上がろうとした。
全身が燃えるようで、上手く動けない。特に足が自由にならない。
ジタンは一切を構わなかった。
上体を起こし…腕が身体を支え切れずにうつ伏せに倒れる。
肘を付いて上体を起こした。
そのままセシルとオニオンが寝かされていると思しき方向へ這いずっていく。
誰か、見て。
俺を、認めて。
人とは違えた壮絶な自己顕示欲。
それは、ジタンの中で自己卑下と結び付いた。
自己犠牲で誰かが助かるなら暁幸。
死によって昇華されるなら本望。
それによって、自分の存在理由が価値あるものとなるなら。
ここに居たのだと、誰かに覚えていて貰えるのなら、と。
…そこに、守る対象の気持ちを考えていなかったことに、ジタンは今更…本当に今更。気が付いた。
…自己卑下故に、他人が自分をどう思っているのか、何を望んでいるのか、考えることが出来なかった。
少しで良かったのだ。
ほんの少し自分と周りとを客観視したのなら、失いたくないというジタンの想いは、仲間達共通の想いだと受けとめられた筈なのに。
ジタンは絶叫を止めなかった。
這いずる身体を誰かの手で留められた。
傷を負い失血の多い身体では抗えなかったが。
ジタンは叫び続けた。
それは単なる音でしかなかったが。
認めて欲しかった。
助けて欲しかった。
自分ではどうにもならなかった。
だからどうしようもなかった。
何度言われた?
何度死ぬなと言われた?
その度に拒絶した。
もし俺がそう言われたらどうだ?
生きてくれと、懇願する度に、好いた仲間に、嫌だ死ぬのだ、等と言われ続けたら?
ジタンは泣き叫んだ。
何が守るだ!
何が助けるだ!
俺は仲間を見捨て続けてきたんだ!
俺が生きることは仲間を守ることだったんだ。
生きてくれ、死なないでくれと言われることは、助けて欲しいと懇願されることだったんだ。
なら俺は。
それを拒否した俺は。
ずっとずっと、助けてくれと言っていたあいつらを見殺しにしようとしてたんじゃないか!
セシルは俺を護ると言った。
言葉どおり。そのままに。
俺が死なせたくないと思う心をも護って。
オニオンは俺に馬鹿と言った。
誰かを助ける為に誰かが死ぬなんて、馬鹿な話だと。
皆を守りたいと思う俺に、真にそうさせようとして。
2人共、俺に、俺の考え方は違うと何度も言ってくれた。
助けてくれと。
何度も哀願された。
俺は助けようとしなかった。
助けられなかったんじゃない。意図的に助けなかったんだ!
それどころか、俺自身を盾にとって脅し、失う恐怖を見せ付けて怯えさせたんだ!!
挙句、最後まで俺に助けを求め続けて深く深く傷を負った赤い騎士と白い騎士。
ごめん。
叫んだ音は言葉にはならなかった。
ごめん。
ごめん!
ごめんなさい!
ごめんなさい!!
許して下さい!!
俺が馬鹿でした。本当に馬鹿でした!
ごめんなさい、許して下さい!
俺は死にません! 約束します! 絶対死にません! だから生きて下さい、助けて下さい!
ごめん、ごめん!
ごめんなさい! ごめんなさいっ!
ごめ…――
誰かに、睡眠の魔法を掛けられたのだと思う。
急激にジタンの身体から力が抜け、意識が薄れ…。

ご、めんな…さ……。

ジタンの意識は、そこで途切れた。





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