21 | ナノ

後に残ったティナ、バッツ、フリオニールは、先ずセシルの腕からジタンを下ろした。
彼らは慎重に降ろしてくれたが、それでもフリオニールの腕に落ちる際の僅かな衝撃が、ジタンに血泡混じりの悲鳴を上げさせた。
「相当失血してるぞ。熱も酷い」
「毒は?」
「毒の反応じゃないな。でもこれはまずい」
バッツとフリオニールが話している…のだと思う。
ホームに着いて、安心してしまったのか、誰がどれを言っているのか、朧気にしか判別出来ない。
布を敷いた地面に降ろされ、敷物越しに地面の冷たさを感じて、ジタンは震えた。
狭い視界の中に、彼らの様子が映る。
ティナがジタンの頭の上に膝を着いた。
冷たい布が押し当てられ、ジタンの身体から力が抜けていく。
「僕を降ろしちゃ駄目だ」
オニオンがバッツとフリオニールに言った…のだと思う。
「僕を抱えてる感覚があるから、セシルは浮いてるんだ。僕を降ろしたら、多分直ぐセシルは落ちるよ。身体中ぐちゃぐちゃなんだ。この高さでも落ちたら危ないよ」
…セシルさ、それも『守る』って言わなくね?
んなズタボロになってさ。
俺、お前死なせんじゃないかって凄ぇ不安で――

…。


『守る』って言わない。

護るよ。


ジタンは彼らの様子を見ていた。
バッツとフリオニールは、セシルにオニオンを抱えさせたまま、ジタンを抱えていた腕を引いて、下に降ろさせた。
足が地面に付けば、途端に崩れてしまうかもしれないから、足を掬って地面と平行にさせて。
それは、はた目にはとても滑稽だったけれども。
ジタンはそれ以降の彼らが見えなくなった。
何だか、透明だが不定形な水の幕に視界を遮られた様で、狭い視界がさらに見え辛い。
「大丈夫よ、ジタン」
上から、今にも泣きだしそうな声が降ってきた。
「大丈夫。帰ってきたんだもの。死なせないわ」
泣きだしそうな声に。
「死んだりなんかしないよ」
同じく泣きだしそうな声が掛かった。
…オニオン?
ホームに着いて、ジタンと同じく気が弛んでしまったのか、しゃくりあげる声が聞こえた。
「だっ、だって! 死なないって言った! 剣で誓ってくれた! 絶対、絶対セシルは、嘘、吐かないからっ!」
「そうだな。解ってるさ」
そんなオニオンに、恐らくフリオニールだろう。柔らかく声が掛かって。
ジタンは見えない視界を凝らした。
オニオンとセシルはもう地面に降ろされていて。
オニオンを抱えているフリオニールが、泣きじゃくるオニオンを宥めていた。
「…セシルはな、きっと、どんなに重い怪我をしても、ここに帰って来れば大丈夫だって知ってるんだ。…どんなに重い怪我をさせてしまっても、ここに連れて帰って来れば助かるって解ってるんだ。だから帰ってきたんだ。帰って来たんだからもう大丈夫さ。…お前も頑張ったな。…痛かっただろ…」
「こっ、子供扱いっしないでよっ!」
「子供だろう、お前は」
言いながら、フリオニールがオニオンに掛けたのは睡眠の魔法で。
「なに、する、の、さ…」
「今は眠っていてくれ…」
かくり、と。
首が傾いたオニオンを敷物に横にして、フリオニールは額を押さえながら、バッツが状態を調べているセシルの所へ歩いていった。
「…良かった…もし帰って来なかったらどうしようかって、そればかり…」
「満身創痍もいいとこだけどな」
言って、バッツは笑った。
それは、いつもより弱い笑顔だったけれども。
「よっしゃ! 俺ら今からぶっ倒れるまで回復詠唱な!」
生きて帰ってきてくれたんだから、俺らさえしっかりしてれば大丈夫だ。と。
明るく声を張り上げたバッツが、不意に、ついとジタンを見た。
にい。と。
わざとなのだろう。作るのに苦労しただろう。バッツはいつもの快活な笑顔を向けてきて。
ジタンは爆発した感情で視界が白濁した。
「――オンは――」
「怪我――べて、軽――」
「――は、後――」
皆の会話が聞こえない。
もう聞こえない。
守ろうとして、守られていたのは……――。

今更理解したのか。心臓は今度はジタンの理解の遅さを責める。
仲間を死なせたくなかった。
ジタンがそう思っていたから、皆死なないでいてくれた。
同時に死なせないでいてくれた。
誰かを守ることは、同時に今その場に居ない、守る対象の人を守りたいと思う人達をも守ることと同じことで。
自分が死なないことは、自分を守りたいと思ってくれている人を守ることと同じこと。
誰かを守りたいなら、その人の身体だけでなく、心も守らなければ、守ったことにならない。…と。
セシルには間接的に教えられた。
オニオンには直接に言われた。
ジタンは今まで理解出来なかった。
何故。


――助けてって聞こえた――






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