20 | ナノ

空間の歪みを超え、僅かな違和感が過ぎ去った後に見えたのは、彼方を山脈に囲まれた一面の砂漠だった。
遠くに高い高い塔が建っていて。
バッツの世界なんだって、と。言ってくるオニオンの声を、ぼんやりと聞いていた。
次に見えた世界は、やはりバッツの世界で、ジタンも良く知る次元城だった。
うろついていたイミテーションが、空間の歪みから現れたジタン達を認めて、一斉に攻撃を飛ばして来る。
セシルは機械的に、全て避けてみせた。
自分を抱えている腕から、僅かだが、確かに脈は感じられていた。
オニオンが、無事な方の腕で目元を擦るのが見える。
「しっかりしなくちゃ」
そんなオニオンを、ジタンは虚ろに見やる。
目が、合った。
沈黙は短かった。
「ジタン」
と、呼ばれて肩が跳ねる。
「僕はさ」
静かに話しだしたオニオンは、どうしても年下には見えなかった。
…ジタンは本来、感情を爆発させることが得手ではないから。
身体の痛みや、吐き気や。
様々な感情や状況に翻弄されて、疲れていた。
オニオンはそんなジタンに気付いている様だった。
気付いていて、それでも話を止めなかった。
「僕は今回、途中で合流したんだし、それまでセシルが何も言わなかったなら、僕から言うことじゃないかもしれないんだけどさ」
でも、これだけは言っておくよ? と。
「ジタンのそれ、『守る』って言わないから」

次元城のある空間の、空に該当する位置に開いた次元の歪み。その、先が森になっている1つにセシルは飛び込んだ。
…頭が痛かった。
身体が痛くて、物凄く熱くて、同時に酷く寒かった。
オニオンの言った言葉に、心臓が警鐘を打った。
頭が理解する前に、心が理解して悲鳴を上げているようだった。
目の前に広がる世界を見渡す。
夜だった。
森だった。
山に寄り添うように森が連なり、山と山の間には川が流れていた。
セシルは垂直に高度を上げた。
森が勢い良く下へ沈み、真っ黒な山が生え伸びるように見えた。
月の無い夜だった。
…自分の行動は、守るとは言わない。と。
告げられた言葉を、頭が理解してくれない。
妙に視界が狭くなった。
近くのものや、光るものしか目に入らない。
セシルは一定の高さ迄上昇すると、目当てのものを見つけたのか、そこに向かって、斜めに下降を始めた。
ジタンは向かう先を呆けて見やる。
黄色の光だった。
ゆらゆらと揺れていた。
近付くにつれ、7つの人影がこちらを見ているのが解って。
それを見て初めて、ジタンはそこがホームであることを理解した。
身体が熱い。
心臓が痛い。
…誰かに。
助けて欲しかった訳じゃない。
寧ろ自分以外の人達に生きていて欲しかった。
その為に、誰かの為に死ねたのなら。
でもオニオンは、これは『守る』ことでは無いという。
…何故?
自問をするが、答えは頭に浮かんでこない。
…ただ心臓が、理解しない頭に対して抗議するように、内側から激しくジタンの胸を叩く。
…心臓が痛い。
胸が痛い。
ホームが近付くにつれて、仲間の姿がはっきりと見えるようになった。
通常、この時間帯なら、皆ある程度武装を外している筈だが、今、武装を外している者は居なかった。
…ああ、俺凄ぇめーわく掛けてんな…。
居たたまれなくて、逃げ出したくなった。
視界の狭くなったジタンに視認出来たのだ。恐らく、あちらでもジタン達を確認できたのだろう。
…ジタン達の状態をも。
それの証拠に、何人かが短く、あるいは長く、悲鳴を上げてジタン達を呼ばわった。
セシルは、火を焚いている開けた場所にまで降り、地面のやや上に浮いた状態で停止した。
「セシル、何があった」
この男でも、やはり動揺はするのだろうか。
ウォーリアが若干きつく感じられる口調で、駆け寄りながら言った。
仲間だと解っていながら、『ウォーリア』に痛めつけられた記憶はまだ新しく、ウォーリアの声にジタンの肩が跳ねた。
「…?」
そんなジタンを先ず降ろそうと手を伸ばしながら、セシルの返答がないことを訝しがるウォーリアに、オニオンは言う。
「気を失っています」
ウォーリアの手が止まった。
ウォーリアはオニオンを見やる。
オニオンは真っ直ぐウォーリアを見た。
「敵が群れて追ってきています。砕けかけた『ウォーリア』と、多分、レベルの高い『ティナ』が危険です。行って下さい」
「4人だ。来い」
オニオンの言葉を聞くや否や、ウォーリアは仲間を振り返らずに呼び掛けて、剣を握り走りだした。
真っ先に反応したのはクラウドで。
同じく剣を握り、肩に担いでウォーリアの隣を走って行った。
若干遅れてスコールが、その更に後にティーダが続く。
ティーダは走りだして…一旦止まり、こちらを振り返った。
「ティーダ! 何してる、来い!」
そう、スコールに叫ばれて。
4人は暗い森の中へ走り去っていった。




長編TOP

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -