18 | ナノ

…嘘…吐き?
オニオンの言葉に、ジタンは不思議そうな顔をした。
「『誰かを助けるのに理由は要らない』なんて言ったその口で、僕らを助けないなんて言う!!」
ジタンが顔を呆けさせると同時に、『ウォーリア』がジタンを見下ろした。
「誰かの為に誰かが死んだり、傷付いたりなんて…」
ジタンは呆けた表情のまま、『ウォーリア』を見上げる。
見上げたその顔には表情は無かった。
「そんなの、僕だって嫌だよ!」
叫んだオニオンが、無事な方の足で地を蹴り、ウォーリアに踊り掛かる。
…躱された。握った手の甲で脇腹を打たれ、飛ばされて地を転がる赤い騎士。
直ぐに顔が上がった。怒りで燃えた瞳は、『ウォーリア』でなく、ジタンを睨んでいた。
「誰かが生きる為に誰かが死ぬなんて、そんなことがあってたまるもんか! それが『助け』たり『守っ』たりすることだなんて、そんな馬鹿な話があってたまるもんか!!」
『ウォーリア』の火球がオニオンを狙う。
オニオンは地に転がったまま、無事な足で地を蹴り場所を移動して難を逃れた。
「ジタン、解って!」
オニオンが叫んだ。
「解ってよ!!」
…否。
泣き叫んだ。
居たたまれなくなる。
どうしてよいのか判らなくなる。
正体の判らない焦燥が、ジタンの目に涙を浮かべさせる。
『ウォーリア』がジタンに向けて剣を振り上げた。
その『ウォーリア』に、横合いから飛んできた赤いものが叩きつけられて。
『ウォーリア』が、赤いものと共に地を転がる。
赤いものが飛んできた方向を見やれば、両手に氷塊を纏った『ティナ』が居て。
メルトン? …いや、違う。
「セシル!」
泣き叫んだ声のまま、オニオンが悲鳴で呼ばわった。
先に動いたのは、赤いもの――セシルだった。
背面は『フリオニール』の氷塊で大きく切り裂かれ、肩や腹、足を『ウォーリア』の剣に貫かれ。
更に幾多の攻撃で肋骨を、全身を折られ、切り裂かれ、果ては『ティナ』の炎に焼かれて元の色の残る場所が無い白い騎士。
『ウォーリア』が立ち上がりかけ、『ティナ』が両手から氷塊を消して、次の魔法の詠唱を始める。
その僅か前に、赤いものは行動を開始していた。
先ずジタンに向かって飛んでくる。
抱えられた。そのまま急角度で宙を曲がり、オニオンへ。
ジタンと反対の腕でオニオンを抱え込み…高度を上げて加速を始める。
…その加速に揺らぎは無くて。
「…セ…シル…?」
ジタンは震えながら名をよんだ。
応答は無くて。
ジタンの側のセシルの顔は、頭を切ったのか、流れ落ちた血で真っ赤で。
その血が目に入ったのか、瞼は閉ざされていて、表情は判らなかった。
「…セシル?」
「――無理だよ」
聞き慣れない、嗚咽の混じったオニオンの声が聞こえて、ジタンはぎょっとした。
「無理…って、何…何が…?」
1つ。大きくしゃくり上げる声が聞こえた。
「呼び掛けても、無理。…だって、完全に…もう、気絶してるもの…」
「…え…」
「…っ…、こんなにっ…」
唇を噛み、オニオンが涙を流す。
それは頬で血と混じり、赤い水滴になって風にさらわれ、後方へと流れながら落ちていった。
「…っこんなにっ! 恐がって…!」
「…怖がる…?」
「そうだよっ!」
見れば、オニオンもあちこち傷ついていた。『ウォーリア』の、片側が割れた剣に突き刺された肩口が、真っ赤に、不揃いに口を開けていて、特に無惨だった。
「君を死なせることが嫌で、怖くて…君はそれでも死んでこの人を逃がそうとなんてするから…。だから、セシルは怯えて…怖くて…」
ふと首を回して後方を見た。
イミテーションの群れが追ってくるのが見えた。
「だから――」
オニオンの声に、首を戻す。
相変わらず俯いて泣くオニオンと、目は合わなかった。
その見慣れない姿を見ていたくなくて。
しかし見ていなければならないような気がして。
オニオンは叫ぶ。
「っだからっ! なんとかしたくて足掻いたんじゃないか! だからこんなになってまで、生き、て…っ!」
顔を上げたオニオンは、泣きながらジタンを睨んだ。
「解ってよ! どうして解らないのさ!」
口の中が干上がる。どう答えて良いか解らない。
「俺は…俺はただ…」
皆に…生きていて欲しくて…。
「そんなの誰だって同じなんだよっ! 何回言わせれば気が済むんだ!!」
飛行速度がセシルの走る速度を超えた所で、速度が一定になった。
ふらふらと頼りない飛行をしていたついさっきとは真逆で。
…身体が燃えるように熱い。
セシルの身体から感じる熱も酷く高くて、いくらなんでもまずい、とは感じた。
だが、自分の身体も、何だか酷く熱くて…。
「オニオン…」
「何さ!」
呟きで呼ばわった後の言葉は、何と言って良いか解らず――続かなかった。





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