冷徹(問題児)と問題児(冷徹)の行くリテイナー日誌.1 | ナノ
わたくしのマスターは冒険者でございます。
と言っても、所謂【光の戦士】様と肩を並べるような者ではない……とマスターは強く申しております。
マスターにとっての御自身はそうなのでございましょう。しかし行方不明だったガーロンド・アイアンワークスのシドを仲間に引き入れ、各地を巡って半ば伝説となっておりました飛空挺、エンタープライズの再生を成し遂げたマスターは英雄であろうとわたくしは思っております故、お仕えするのを誇らしく思っているのでございます。
マスターがウルダハに発たれて直ぐ、イクサル族が最凶の蛮神ガルーダを召喚したとの凶報がここリムサ・ロミンサにも入って参りました。
マスターはそのガルーダを討たんとエンタープライズを再生させた、とも。
イフリートやタイタンは、双方とも出現すれば多数の犠牲必至の蛮神でございました。それを少数のお仲間の方達だけで屠って来られ、人的被害を史上最低限に抑えただけでも素晴らしい功績。正に英雄の所業でございますが、蛮神はそもそもが人の手に余る存在でございます。その蛮神のイフリート、タイタンをも凌ぐ最凶最悪の蛮神ガルーダ。
これに立ち向かわんとするマスターはわたくしの誇りでございますが、同時にわたくしはもう心配で心配で……!
ガルーダの召喚された遠方の地イシュガルドは古くからドラゴンと交戦をして参られた屈強な戦士達の地でございます。お任せしてしまえば宜しいですのに……! と、わたくしはマスターにお仕えする誇らしさとは別の部分で、マスターの御身がそれはもう心配で心配で、気を揉んでいたのでございます。
しかし気を揉んでばかりではおれません。
わたくしはマスターがお雇いになられた二人目のリテイナーに、マスターへお仕えするにあたってマスターの人となり等をお教えせねばならないのです。
マスターがいつなんどきお戻りになられようとも、わたくしどもでしっかりとお支えしなくては。
ご紹介が遅れました。昨日、マスターがお雇いになられたリテイナー、つまりマスターにお仕えするにあたりましては、わたくしの後輩となる人物でございます。
勤務地はリムサ・ロミンサ。アウラ種族。緩いウェーブの白い長髪に紫の差し色を入れた、顔全面に白い痣のある女性にございます。マスターを影でお支えする職業柄、見知りおかれますと差し障りがございますので、名は控えさせて頂きます。どうぞお気に留められませんよう、切にお願い申し上げます。
彼女は、その……リテイナー派遣管理をする冒険者ギルドの中でも、問題児と評判の人物でございました。
ただ、マスターに対する思いはわたくしと変わらないものと、その点はわたくしも彼女を信用しているのでございます。
「どうして……ハイクオリティ果物を金庫に入れてはいけないの……? マスターがその御身で集めて来られたのだもの……価値はお金と一緒……でしょう?」
「価値が金銭と一緒なのは同意しかございませんが、果物の湿気でマスターに、マスターに、ですよ? マスターにたわんだ紙幣や変色した硬貨をお渡しするのは良くないことではございませんか?」
「駄目それは駄目。……良く……解りました……。やっぱり、私、不出来なのね……」
……物解りが良いのはとても良いことですが、反省し過ぎるのはあまり宜しくはございません。宜しくないことと解ったなら次からやらなければ良いのです。
……それは兎も角。
「マスターは斧術のみではなく、最近は槍術も修練なさるようになりました。我々に預けられるお荷物も、これから武具が増えていくことでございましょう。武具の扱い方のマニュアルは覚えていらっしゃいますか?」
「武具……」
彼女は俯いた後、私に詰め寄りました。
「マスターは……わたし達を素材集めのご依頼……ベンチャー依頼をなさらない……。だから、わたし達は未だにマスターが支給してくださる武具ではなく、リテイナーの制服を着てる……」
「そうですね」
些か話が脱線しておりますが、彼女の仰ることは特に訂正することもなくその通りなのでわたくしはそのまま頷きました。
そんなわたくしに、彼女は小さな声で、悲しそうに呟きました。
「どうして……ご依頼くださらないの……。やっぱり……信じて貰えていない……? わたしなんかに……武具なんて……ご用意くださらない……? 無駄……?」
「それは違います!」
わたくしは大きな声で彼女の言葉を否定致しました。
わたくしは冒険者ギルドがマスターにリテイナー雇用を許可するに到った経緯を伺っております。
何でも、規約違反をした冒険者の所為で、ベンチャー依頼中に危機的状況となってしまったリテイナーの救助をしたことから、リテイナー雇用の許可が降りたのだそう。
しかしそのリテイナー救助をしたことで、マスターは逆に我々にそうした依頼が出来なくなっておしまいになられたそうです。
……例え規約違反にはならなかったとしても、いつも世話になっているリテイナーの身を危険に晒すことになるかもしれない依頼は出来ない。と……。
そんな話を、彼女に呼吸を詰まらせながらご説明致しまして、わたくしは彼女と二人、控えの間にて突っ伏したのでございます。
ああ、そうなのです!
マスターはわたくし共の……! わたくし共の身を案じて……!!
ベンチャー依頼は契約の内でございますのに、わたくし共の身を案じて頑なにそれをなさらないのです……!!
始めにリテイナーを救助したことがそれほどお心に掛かっていようとは……!!
わたくし共が傷付くことをそれほどお厭いになろうとは……!!
それほどわたくし共リテイナーごときをを大切にしてくださるなんて、ああマスター! わたくしは……! わたくしはっ……!!
……。
……大変失礼致しました。取り乱しました。
ふと顔を上げると、丁度立ち直ったらしい彼女が、据わった目をして虚空を見上げております。
「……決めた……」
完全に冷えた声で彼女が言うのに、私は首を傾けました。
「と言いますと?」
「わたし、マスターの鳥になる……」
……。
「はい?」
「倉庫と……マーケットはあなたに任せる……。わたしは……こんなだもの……。せめてお忙しいマスターに代わって……各地で素材集めをするの」
いやいやいや! 良い案だとは思いますがそもそもベンチャー依頼はマスターのご意志ですしマスターからのご依頼が無い内は勝手には……って。
……飛び出していってしまわれました……。
リテイナーは呼び出されない限りはマスターの元には行かず、定められた言葉以外は掛けることを許されておりません。
彼女がこれらを破らなければ良いのですが……。
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