冷徹(問題児)と問題児(冷徹)の行くリテイナー日誌.2 | ナノ
 



 わたくしのマスターは冒険者でございます。
 と言っても、所謂【光の戦士】様と肩を並べるような者ではない……とマスターは強く申しております。
 マスターにとっての御自身はそうなのでございましょう。しかしお仲間の冒険者の皆様と共に最凶の蛮神ガルーダを退け、エオルゼアの危機、帝国のアルテマウェポンによるエオルゼア進攻の報を持ち帰って参られましたマスターは英雄であろうとわたくしは思っております故、お仕えするのを誇らしく思っているのでございます。
 ああ、先日自らにベンチャー依頼をして頂こうと飛び出して行かれました後輩のアウラ女性リテイナーはマスターにお会いする前に冒険者ギルドに見付かりまして、きついお叱りを頂いておりました。可哀想ではございますが、未然に防げてよろしゅうございました。お気持ちは解りますがしてはならないことはしてはならぬのでございます。
 
 ……マスターが蛮神ガルーダを討ち、無事にお戻りになられてから暫くの後、帝国のエオルゼア進攻に抵抗し進攻を留め、アルテマウェポンを破壊する、という……各国のグランドカンパニーと有力な冒険者が連合を組んで帝国に立ち向かう、いわば戦争、が、始まったと、冒険者ギルドに通達がございました。
 その戦争に、冒険者隊としてマスターも参戦なさる、とも……。
 それはまるで、第七霊災の再来の様でございました。
 わたくしのマスターが先ず送り込まれた帝国基地はウルダハに構えられた基地でございました。帝国の猛将が視察に訪れるそれに合わせて攻め入り、猛将を討ち帝国の力を削ぐのだそうです。
 ……わたくし共リテイナーの所属致しております冒険者ギルドは、報は入って参りますものの、その報は即時に入ってくるものではございません。
 冒険者ギルドの独自の連絡網、伝令を担当している者は、作戦に参加している冒険者ではございませんから、リンクシェルで冒険者ギルド本部に逐一連絡を入れていたとしても、情報はどうしても後手になります。
 それでも、戦況を知らせる報と共に入ってくる、冒険者隊として戦争に参加し各国のグランドカンパニーの末端で闘って、力尽きた冒険者の方々のお名前、お名前、お名前……。
 短期集中決戦とお伺い致しておりますから、この戦争は長くは続かないことでございましょう。しかしそれでも、力尽きていく方々のその数の多さ……。
 わたくしは仕事が手につかぬまま、同じマスターにお仕えするアウラ種の女性と、顔色を蒼白にしながら、犠牲となった冒険者の方々のお名前の中にマスターのお名前が無いかを、耳をそばだてて聞いていたのでございます。
 ……周りに居たリテイナー達が、犠牲になられた冒険者の方の名がリンクシェルから一つ、また一つと聞こえてくる度に、膝を折り、あるいは床に伏せ、或いは絶叫し或いは号泣してゆきます。
 そんな中、わたくし共二人は身を寄せ合い、いつしか祈るように堅く両手を組みきつく目を閉じて震えておりました。
 刻一刻と増えていく号哭。報は常にエオルゼア有利の戦況を伝えてきておりましたが、裏ではリテイナーの慟哭の数だけ終わってしまった世界があるのです。
 ……これ程恐ろしかった事がございましょうか。敵将討伐の報に続き、帝国のエオルゼア進攻基地本陣、カストルム・メリディアヌム抗戦部隊にマスターのお名前が含まれていたのを聞いた時には、もう止めてくれと思わずに居られませんでした。
 確かにエオルゼアがエオルゼアとしてあることは重要でございますし、エオルゼアの民と名乗ることは我々の誇りでございます。
 しかし誇りと命を天秤に掛けたなら命の方が重要ではございますまいか。
 エオルゼア三国の統率者の方々は我々のような一般の民の誇りと命を守ると仰ってくださいました。ですがその民の中にマスターのような冒険者は含んで下さらないのでしょうか?
 いえ、マスターを含めた冒険者の皆々様が、民の剣となり盾となるべく活動をして下さっていることは良く存じております。
 マスターにお仕えしているのですもの。本当に良く存じております。
 ですから冒険者の皆様が民の安寧を守るために闘って下さっていることも、故に冒険者の皆様を民の一人と数えることは侮辱になってしまいかねないことも、わたくしは良く存じ上げておるのです。
 それでも尚、わたくしは申し上げたい。
 これを思うことは冒険者にお仕えする身として恥ずべきことと承知で尚、思わずには居れないのです。
 ……定められた言葉以外でマスター達と話すことを禁じられていようとも、見知らぬ地の見知らぬ百の民より、ただ一人の冒険者の生還を、こんなにも、こんなにもお祈り申し上げている者が、リテイナーという存在が、此処にこれほど、居るのだということを。
 ……嗚呼、マスター。お願いです。
 結果として、エオルゼアが帝国の支配下に置かれることになったとしても。
 どうか。どうか。
 お願いです。どうか、御無事で、わたくし共のところへまた、どうか、お戻り下さいますように……。
 民の安寧がマスターの悲願ならば、どうか御無事にお戻りになって、マスターの無事を願い今にも千切れてしまいそうな我々をお救いください。
 お願いでございます。
 どうか……。




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