冷徹(問題児)の行くリテイナー日誌.5 | ナノ
 
 
 
 
 わたくしのマスターは冒険者でございます。
 と言っても、所謂【光の戦士】様と肩を並べるような者ではない……とマスターは強く申しております。
 マスターにとっての御自身はそうなのでございましょう。しかしマスターの所属されている斧術士ギルドや黒渦団を中心に、ここリムサ・ロミンサでは既にイフリートやタイタンを屠ったマスターやそのお仲間様方を英雄とする声が広がり初めており、わたくしもマスターは英雄であろうとお仕えするのを誇らしく思っているのでございます。
 リムサ・ロミンサの宿で一晩お休みなられたマスターは、わたくしどもリテイナーをお部屋に呼ばれて、まずお荷物の整理をなさいました。
 本日はお荷物をきちんと整理し、明日、再び暁の血盟のお仲間を弔われたウルダハの教会へ向けて発たれるそうです。
 リテイナーは定められた言葉を発することしか許されておりませんから、これらをわたくしからお伺いしたのではございません。
 それなのにわたくしから目を逸らしつつも早口でこれらをご説明下さるマスター。
 ……。
 昨日の、今日でございますよ?
 マスター、あなた様のっ……!!
 ………………大変失礼致しました。
 取り乱すところでした。
 さて、マスターのお荷物の整理ですが……。
 ……。
 ……あー……。
 ご紹介が遅れました。昨日、マスターがお雇いになられたリテイナー、つまりマスターにお仕えするにあたりましては、わたくしの後輩となる人物でございます。
 勤務地はリムサ・ロミンサ。アウラ種族。緩いウェーブの白い長髪に紫の差し色を入れた、顔全面に白い痣のある女性にございます。マスターを影でお支えする職業柄、見知りおかれますと差し障りがございますので、名は控えさせて頂きます。どうぞお気に留められませんよう、切にお願い申し上げます。
 彼女はマスターにお仕えする、という意味でも、リテイナー、という意味でもわたくしの後輩にあたります。もっと言ってしまえばつい近日にリテイナーとして登録をされた、いわば新人なのでございますが、リテイナーとしての研修を完了するまでの期間が……あー……他の方々よりもじっくり腰を据えて学ばれていた……と申しますか……何と申しますか……。
 有り体に申しまして……いえ! マスターのお選びになられた人物ですから間違いがあろうはずも……!
 ……リテイナー不足にて残っていたのが彼女だけだった?
 あー……。冒険者ギルドには即刻人材の補充を要請致します。
 ともかく、そうして新たにマスターにリテイナーとしてお仕えすることになった彼女なのでございますが……その……リテイナー研修時代が他よりも長かった所為でございましょうか……マスターからお呼び出しを受け参上した際には……。
 「本当に……わたしでいいの……?」
 ……きちんとリテイナーとして仕事が出来るからリテイナーとして登録されているのだ……ということを頭では理解出来ていたとしても、これではお荷物をお預け頂く冒険者もご不安になりましょう。
 相方としてわたくしも不安です。
 案の定、マスターは長らく固まって思案されておりましたが、お荷物の大部分は私にお預けになり、ハイクオリティ品のみ彼女にお預けになられました。
 貴重品ではありますので彼女に自信をつけて頂くに申し分は無く、しかしもし彼女が粗相をしてしまっても御自身で再び調達が可能なお品物という素晴らしい選択です。流石マスター!!
 そのような訳で、マスターはハイクオリティ品を全て彼女にお預けになられた後、彼女を先にお返しになられました。
 「もう……帰っていいの…? 本当、わたしなんかでごめんね……」
 ……。
 その後、見たことの無いお顔になられたマスターは、無言でお荷物を整理され、ウルダハに向かって発たれました。
 ……わたくしどもリテイナーが言葉を発することを許されるのは参上と帰還の際のみ、それも予め決められた言葉のみとなっておりますのは、お雇い下さる冒険者の皆様をお支え申し上げる為、いわば道具のようにお使い頂く為でございます。
 雇い主である冒険者の心を乱すなど以ての外。戦闘で気を散らした者がどうなるかなど、火を見るよりも明らかでございます故、マスターをご不安にさせるようなことは規約違反なのでございます!
 これは例え新人といえども厳しく注意せねばなるまいと、わたくしはリテイナーがマスターのお荷物を管理している管理室へ赴き……。
 ……後輩である彼女が、お預かりしたお荷物を大きなハンドルダイヤル付きの金庫……通常は金銭を保管する金庫に入れて保管しているところでございました。
 一旦閉じてしまえば内部は時間が止まる仕様にて、物品が劣化するということはございませんが、金庫でございますから、当然、金銭以外のお荷物を保管する場所ではございません。
 「……何をなさっているのです?」
 声を掛ければ、彼女はわたくしに振り向きました。
 ……寒気のするほど据わった視線でございました。
 「何……って……。マスターがその御身で採集してこられた……ハイクオリティ品……だもの。価値はお金と一緒……でしょう?」
 「そうですね」
 わたくしは即答しておりました。全くもってその通り。一言一句同意です。
 ご安心下さいマスター。彼女も立派なリテイナーでございます。今は言葉がご不安かもしれませんが、マスターのお荷物の管理が完璧なことはいずれマスターにもお解りになりますでしょう。
 マスターのことは、わたくしども二人が完璧にお支え致します。ですからどうぞ、どうぞご安心して旅を続けてくださいませ!!
 「……ねぇ……マスターは……あなたにマーケットの出品を任せて……わたしには出品をお任せ下さらなかった……。どうして……? やっぱり……わたしなんか使えない……?」
 ただ出品管理中にいつの間にか後ろに立つのはやめて頂きたい。






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