冷徹(問題児)の行くリテイナー日誌.2 | ナノ
 
 
 
 わたくしのマスターは冒険者にございます。
 と言っても、所謂【光の戦士】様と肩を並べるような者ではない……とマスターは常々申しておりますがわたくしと致しましては先日山の如き巨体を誇る魔物クジャタをその素晴らしい体躯と戦斧で屠って来られましたマスターは既に此処リムサ・ロミンサの誉れ高き噂となっておりましてマスターへ続かんと斧術ギルドへの加入申し込みが殺到しております現状からこれはもう既に光の戦士とお呼びして差し支えなかろうと日々マスターのお噂をお伺いする度に思う次第でございますがマスターは非常に人格者かつ謙虚でおられますから常々御自身をただの冒険者と名乗り本日も人々を救うべく東西奔走をなさっておいででこのようなお方こそ光の戦士と呼ぶに相応しい方なのではないかと私は常々思っておるのでございます。
 ……申し遅れました。わたくし、冒険者ギルドよりマスターへ遣わされましたリテイナーでございます。
 勤務地はリムサ・ロミンサ。エレゼン種族。銀髪を背まで伸ばし額に赤く紋を刻んだ男性にございます。マスターを影でお支えする職業柄、見知りおかれますと差し障りがございますので、名は控えさせて頂きます。どうぞお気に留められませんよう、切にお願い申し上げます。
 リテイナーには倉庫、出品代理の役を主な職務としておりますが、その他にも、資産管理、という大切な仕事がございます。
 マーケットに出品をしていた品に売却が掛かった際、入金された品物代金から手数料をマーケット側に支払い、後の品物代金を完璧に保管し、マスターの要請に従い引き出しとマスターへのお渡しを行う仕事です。
 ああ。前回のタキノボリは高額にて売却が掛かりました。ご購入有難う存じます。
 さて。
 金の切れ目が運の切れ目、とは良く申します通り、わたくし共リテイナーはこの資産管理の仕事が出来て初めて一人前と見なされます。返して言えば、どれほどマスターのお荷物をお預かりする術に長けていても、資産管理が杜撰ではマスターにお選び頂く人員リストにすら載せて頂けないのです。
 わたくしのマスターはファイターでありながらもギャザラーと呼ばれる採集業を二つ、クラフターと呼ばれる制作業を一つ、計四つの職を熟す、才に溢れた名実と共に素晴らしいお方ですから、採集に際しても質の高いお品物を取っていらしては御自身でお使いになられる分のみをお持ちになり、他はマーケットにお出しになられる等、金策を講じられておられます。
 冒険者は何かと物入りでございますからね。金策は必須でございます。
 しかしながら、マスターは私をお雇いになられてからこちら、お売りになられたお品物の代金を引き出そうとなさったことがございません。
 お金は足りていらっしゃるのか、お困りではないのか。もしやリテイナーがマスターの販売金額をお預かりさせて頂いていることをご存じない!? いやまさかまさか……。
 わたくしはマスターのことが心配で心配で堪りませんでしたが、リテイナーはお雇い頂いております冒険者の方々の冒険や日々の暮らしに差し障りなきよう、決まったお言葉しかお掛けすることを許されておりません。
 わたくしはいつものように呼び鈴を鳴らしてくださったマスターの元に、定められた言葉のみを発して馳せ参じたのでございます。
 「参上致しました」
 その時、隣の防具屋がマスターに声を掛けて来られました。
 兄ちゃん、リテイナーに預けた金を引き出しちゃどうだい?
 マスターはその言葉に苦笑して首を横に振られました。そうして、お答えになられたのです。
 いざと言う時はそうする。それまでは彼に預かって貰っていた方が安全、と……!
 わたくしに! 預けていた方が! 安全!!
 わたくしをこんなにも! こんなにも信用してくださった!!
 定められた言葉を申し上げるしかしておらず、お雇いくださってからまだ日も浅いわたくしを! こんなにも!!
 嗚呼こんなわたくしめをこんなにも信用してくださるなんて! 冒険中にどれほど酷い思いをなさっていらっしゃるのか! どれほど凄惨な場を目の当たりになさったのか!! ああお労しやマスター……! それでも私をお呼びになられた際にはそんな素振りを僅かもお見せになられず、良いものが手に入ったと子供のように喜ばれて、手に入れるのに御苦労をなさったでしょうに疑いもなくわたくしに預けておしまいになられて、嗚呼マスター! あなた様からの信頼を頂けてわたくしは……! わたくしは……!!
 ……。
 大変失礼致しました。取り乱しました。
 わたくしはこれより、通常通り、お預け頂きましたお荷物の管理とマーケットへの出品に全力で務めさせて頂きます。
 マスターが必死に採集していらっしゃったハイクオリティ食材の数々、絶対に高額にてお売りさせて頂きますので、どうぞお待ちになられていてくださいませ!!





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