冷徹(問題児)の行くリテイナー日誌.3 | ナノ
 


 わたくしのマスターは冒険者でございます。
 と言っても、所謂【光の戦士】様と肩を並べるような者ではない……とマスターは常々申しておりますがわたくしと致しましては黒渦団を着々と昇格なされマザークリスタルの加護である「越える力」を有し暁の血盟に加盟し他国にても多種族との諍いの間に入ったり難民問題を解決されるべく身を粉にして奔走され黒渦団加入前には蛮族の手によってついに召還されてしまった蛮神イフリートをすらお仲間の方々と屠り民をお救いになられた現状からこれはもう既に光の戦士とお呼びして差し支えなかろうと日々マスターのお噂をお伺いする度に思う次第でございますがマスターは非常に人格者かつ謙虚でおられますから常々御自身をただの冒険者と名乗り本日も人々を救うべく東西奔走をなさっておいででこのようなお方こそ光の戦士と呼ぶに相応しい方なのではないかと私は常々思っておる次第でございます。
 ……申し遅れました。わたくし、冒険者ギルドよりマスターへ遣わされましたリテイナーでございます。
 勤務地はリムサ・ロミンサ。エレゼン種族。銀髪を背まで伸ばし額に赤く紋を刻んだ男性にございます。マスターを影でお支えする職業柄、見知りおかれますと差し障りがございますので、名は控えさせて頂きます。どうぞお気に留められませんよう、切にお願い申し上げます。
 さて、最近のマスターは随分とお疲れのご様子でいらっしゃいます。
 理由は存じ上げております。先の、全世界を事実上滅ぼし光の戦士達が姿を消した第七霊災と復興の為にエオルゼア各国が行ったカルテノー戦没者追悼式典前後に起こった出来事を、未だ御自身の内でかみ砕けておいでではないからです。
 各国とも様々な問題を抱えており、ここリムサ・ロミンサも例外ではございません。マスターは自分にそれらが救えるだろうかと、今宵、グリダニアからお戻りになられてお荷物を私にお預けくださる際にわたくしにぽつりと洩らしておいででした。
 ……先の蛮神イフリートとの闘いでは、救えなかった民がいたのだそうです。人々の助けになる為に冒険者となったマスターが目の前の民を救えなかったというその心痛は、わたくしめには量りかねました。
 マスターは仰います。
 イフリートと闘ったから、蛮神の恐ろしさは良く解った。
 この先、他の蛮神との闘いになることもあるだろう。特に此処リムサ・ロミンサは、二種の蛮族、二種の蛮神の危機に晒されている。
 それを思うと、リムサ・ロミンサから離れて他国へ行くことが恐ろしく思えてしまう。自分が黒渦団に加入したのは自分が冒険者としての第一歩を踏み出したこの地を守りたいからだったのだから。
 同時に今こうして他国を離れていることも恐ろしい。人間に味方してくれる者達の中には、シルフのようにか弱い存在も居るのに、それらが居る国を離れてしまって、彼等に迫る危機に直ぐに気付けるだろうか。
 しかしこうして他国に気を割く自分を後ろめたくも思ってしまっている。自分が第一に守りたいと思う地は君達の居るここなのに、他国に気を割く猶予が非力な自分にあるのだろうか。
 暁の血盟は世界を救おうと言う。ならばこの地に固執する自分が卑小なのか。
 しかし全て正直な気持ちだ。ある国を例え一時でも離れている間、君のような闘う力を持たない人々がイフリートの時の様に、また傷付く事態になりはしないか。
 自分が全てを救う、だなんて大それたことは考えていないし、それが出来るとも思えはしないけれど、人と関われば関わる程、守りたい人、生きていて欲しい人が増えていく。増えていけばいく程、身動きが取れなくなる。世界を救うなら個々の人々とは関わらない方が良いのか。でも自分は最初から世界を救おうとして冒険者になったんじゃない。自分が助けたかったのは君達のような、自分の手の届く範囲に居る個々の人々だった筈だった。
 そんなことを色々考えてしまって……。最近。少し……。疲れた……。
 ……。
 わたくしめを……心配してくださって……!?
 いえ……いえいえいえ! マスターがお気になさっていらっしゃるのはリムサ・ロミンサ、ひいてはラノシアの民、更にはこの世界の民でございましてそれを示す為に最も身近な私を引き合いに出されただけにございます!!
 そう! わたくしが! 最もマスターの身近にある存在でございます!!
 身近におりますわたくしだからこそ解ります! 外では気丈に振る舞っておいでのマスターが、先のイフリート戦にて救えなかった民を出してしまったことをどれ程悔いていらっしゃるのか、民を救えなかったことがどれ程の心痛となっていらっしゃるのか……!!
 嗚呼お労しい……! 見ず知らずの民にそれ程お心を砕かれて……!!
 各国の問題は各国の行政に全ての責任がございます。それを御自身の責のように受け止められておしまいになられて……!
 各国の手が回らないからこそ暁の血盟に御依頼が行くのでございます! 御依頼が行くことこそが各国の手落ち! 故に数々の冒険者を日々様々な場所で雇う訳でございまして、これらは雇われた側の、マスターの咎では決して……! 決して……!!
 嗚呼、あなた様の心痛に、声を大にしてこれらをお話させて頂けたら……!!
 何てお優しい方なのでしょうか! なんて度量の持ち主でいらっしゃるのでしょう!! あなたを苦しめる全てを退ける力がわたくしにあったのならどれ程良かったことか!!
 定められた言葉をしかお声かけ出来ない自分の立場が呪わしい…。ああでもマスターがお気に掛けて下さる民の中にわたくしめも含まれていると知れただけでもわたくしは……! わたくしは……!!
 ……。
 大変失礼致しました。取り乱しました。
 わたくしは何があろうと通常通り、お預け頂きましたお荷物の管理とマーケットへの出品に全力で務めさせて頂くのみでございます。
 マスターが各国の難題でお疲れならば尚更、マスターのお心を安らかにする為にいつ如何なる時でも完璧に普段と同じように振る舞うと誓いますので、どうぞわたくしめで宜しければご遠慮無く不平不安不満を仰られてくださいませ!!





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