17 | ナノ

神様。
ジタンは思わず声に出して呟いていた。
秩序の神でも、他の神でも、神ならば何だっていい。
代償が必要なら何だって捧げてやる。
俺の所為で起きちまったことを、俺でどうにかできるなら何だってする。
俺の命だけで足りるなら持っていってくれ。
2人には怒られたけど、やっぱりこんな状況じゃあ、1つの命で2つの命が助かった方がいいと思うから。
だから、助けて。
誰か、助けて。
俺の所為で傷ついた騎士2人を。
2人が助かれば俺の心も助かるから。
俺は命なんて要らない。
だから――。
「馬鹿、ジタン!!」
オニオンの叫びに、はっとして顔を上げる。
「悪魔なんかに祈ったら、誰も助からないよ!」
悪…魔…?
ジタンは、悠然と歩いてこちらへ向かってくる『ウォーリア』に対したまま、自分を庇うように立ち一歩も動かないオニオンの背を見上げた。
「何かを叶えるのに、代償が要るのは神じゃない、悪魔の方だ! 他力本願じゃあ誰も救われない!」
『ウォーリア』の盾が、オニオンを打ち、オニオンは再び宙に舞った。
「ジタン!」
それでもオニオンはジタンに叫んだ。
「誰かを――」
叫び続けた。
「誰かを助けるのに誰かの命が必要だなんて、そんな馬鹿な話があるもんか!!」
宙に投げ出されたオニオンを、『ウォーリア』が繰り出したダイヤ型の技が貫いた。
更に高い所へとオニオンが投げ出され…背中から地面に叩きつけられ…呼吸が詰まったオニオンの胸に、砕けかけた『ウォーリア』の足が打ち下ろされる。
胸甲が割れる音がした。
オニオンが雑音の混じった悲鳴を上げると共に、口から泡を吹いて『ウォーリア』の足の下から逃れようと暴れる。
…息が…出来ねぇんだ…!
ジタンは動かない身体を無理に引き上げた。
身体中から軋む音がした。
『ウォーリア』が、足の下で暴れるオニオンに向けて、剣を垂直に構える。
僅かに上に引き、オニオンに打ち降ろそうとした刹那、身を投げたジタンが『ウォーリア』の足に当たり、均衡を崩した『ウォーリア』の剣は、オニオンの急所を外して、オニオンの肩口を貫いていた。
…『ウォーリア』が、オニオンから足を引く。
直後、引いたその足が、深く傷ついて塞がり切らないジタンの腹に当たり、蹴り飛ばされた。
血が口から吹き出した。
息が出来ない。
オニオンがまた、あの赤い光の技を使ったのか、視界の端が赤く光った。
…そんな技では『ウォーリア』を退けられないと、2人とも解っていた。
再び、ジタンの腹を『ウォーリア』が蹴り飛ばす。
吐血したジタンを、更に『ウォーリア』の足が追い、打撃を加えていく。
どこかでオニオンの悲鳴が聞こえた。
…同じだ。
ジタンは思った。
多分、これもさっきと同じ。
セシルと俺が殺される順番が変わった、あの時と同じだ。
オニオンと俺の順番が変わっただけだ。
オニオンはまだ動けるかも知れない。
俺が死ぬまでに逃げてくれるといいんだけど…。
ただ、あいつの性格だと、逃げてくれねぇだろうな…。
でも、逃げてくれねぇと、俺が殺されたら、次に狙われんのは…。
…ぎり、と。
ジタンは唇の端を噛み切った。
全身の痛みに比べ、僅かな、しかし出所と原因のはっきりしたその痛みは、ジタンの半ば呆けた意識を覚醒させた。
「俺が…死んだら…」
腹に繰り出された『ウォーリア』の足を、両腕で受け止め、抱え込んだ。
「次に…あいつらが狙われるんなら…」
抱え込んだ腕を折ろうと、体重を掛けてくる『ウォーリア』の足の、砕けかけた傷口に血塗れの指を掛けた。
「あがくしか…無ぇだろうが!!」
がき。
『ウォーリア』の膝裏が砕け、均衡を崩した。
その隙に、ジタンは『ウォーリア』の足の下から抜け出して。
着ている服が、血を吸って変色し、じっとりと重かった。
蹴りを受けた腹の傷は開いていた。
「オニオン、逃げろ!」
血泡混じりの雑音でジタンは叫んだ。
一瞬、イミテーションだと思ったのだろう。その声にオニオンはぎょっとした表情をし…。
一拍置いてジタンだと解ったらしい。
「嫌だよ!」
悲鳴で叫び返して来た。
…ああ、そうだろうな、解ってたよ。
よろめいた『ウォーリア』が、体制を立て直し、背後のオニオンへ向けて火球を放った。
…解ってたよ。お前が嫌だって言うだろうってことはさ。
『ウォーリア』の火球を、オニオンは横に倒れて避けた。
その避け方から、ジタンは先程オニオンが地面に叩きつけられた時、足を折ったのだと知った。
倒れたまま、オニオンが叫ぶ。
「誰かを守る為に、誰かが死ぬとか、傷付くとか、もう嫌だってジタンは思ってるだろ! 僕を生かそうとしてるんだろ!」
…解ってるんじゃんか。なら早く逃げてくれよ。
「ジタンの嘘吐き!」





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