15 | ナノ

…程無くして、その岩柱が爆破される。
オニオンは言った。
「ここで待ってて」
仲間の内で、ジタンの次に素早いとされるオニオンは、ジタンに言い置いて直ぐ、返事を待たずにその場を離れ、林立する岩柱に見えなくなった。
…と…。やや離れた場所で、赤い光が上がり…。
それから間を置かず、オニオンは帰ってきた。
するりとジタンの腕を肩に回してジタンを支え、歩きだす。
「もう動き出してるよって、セシルに教えただけ。こっちに来ようとしてたらまずいから」
ジタンの視線に、オニオンは早口に答えた。
ジタンは首を振る。
それも知りたかったけど、違う、そうじゃない。
「…俺は…」
「『死ぬつもりじゃなかった』? 嘘だね。ジタンは僕らが危険になったら、真っ先に自分を切り捨てて僕らを逃がすタチだ」
歩を進める度に、身体のそこかしこに鈍痛が生まれる。
ジタンは、足が震えるのは、その所為だと思い込もうとした。
そうでなくても、傷を負い失血の多いこの身体は、オニオンの支えが無いと立つことも出来ないのだから。
…本当は、本心を暴かれて怯えているのだと解っていた。
「…苦しいの?」
オニオンは鋭い。そう思う。
しかし経験不足はどうしたって埋まらない。
ジタンの思考は割れてしまったが、ジタンの怪我の状態を知っている為、目に見える震えを感情と結びつけることが出来ない。
岩柱の影が終わるギリギリの所まで進んでから、オニオンは一旦ジタンを座らせた。
手甲を外し、ジタンの首に触れる。
冷やした水に入れた直後に触れられたような温度に感じて。
ジタンは息を詰めた。
「…酷い熱…」
…やっぱりか。だって寒いもんなぁ…。
思うジタンはしかし、首を振った。
「セシルの方が、熱、酷ぇんだ…」
「知ってるよ。熱も傷もね。あんな身体で良く動ける――」
「何で行かせた?!」
ジタンは抑えた声で叫んだ。声は擦れていた。
「何度も訊かないで」
オニオンは、ジタンの首筋から手を引いた。
「『死なない』って誓ってくれた」
オニオンの声は震えていた。
ジタンはそれで、オニオンが本心でないこと、失う恐怖で一杯なのだということを理解した。
自分と同じように。
「セシルはこういう局面では、特に僕には嘘を吐かないから」
「…お前に…?」
「後、ウォーリアにもね。ジタンにも『死なない』って言ったなら、ジタンにも嘘は吐いてないよ」
「っんな…!」
ジタンは言葉に詰まる。
「セシルは騎士だよ。その彼が主に捧げた剣を抜いて、僕の剣と打ち合わせてくれたんだ。疑ったら僕が恥ずかしい思いをするよ」
「あんな怪我で――」
「あんな怪我だからこそ!!」
らしくなく、オニオンは声を抑えずに叫んだ。
「あんな怪我だからこそ、セシルはどうあっても君を守ろうとしたんじゃないか!」
瞬間、言葉を失う。
今や自分よりも酷い震え方をし始めたオニオンを、ジタンは呆然として見つめた。
「自分を置いていけ、見捨てていけって、何度言った?! その度にセシルは拒絶したんじゃないの?! 自分も死なないから、ジタンも死ぬなって何度も言われた筈だ! それなのにジタンは自分が死ぬことがセシルが生きられる道だと思い続けてセシルを追い詰めて来たんでしょ!! だから行っちゃったんじゃないか!! 僕だって騎士なんだよ! 剣で誓ってくれた騎士を留められると思うの?! 『何で行かせた』なんて、僕が君に言いたいよ! あんなに怯えたあの人を見たのは初めてだ!!」
口を、今にも泣き出しそうに歪め、しかし目を、八つ当りに近い怒りで光らせて肩で息をする年下の戦士を、ジタンは初めて見る者の様に見つめていた。
「…怯えた…?」
「そうだよ」
ようやっと出た声に、オニオンは即答する。
「セシルは――」
オニオンが言い掛けたその時、ジタン達が影に隠れていたその岩柱の上から、小石や砂利がばらばらと振ってきた。
感情に任せて叫んだ為か、僅かに赤みが差していたオニオンの頬から、さっと血の気が引く。
オニオンが上を見上げた。
「…何あれ…」
思わずなのだろう。呟いたオニオンに、上を見る気にはどうしてもなれないジタンが訊いた。
「…何が居る?」
オニオンは戸惑った様子で答えてきた。
「…身体が半分くらい砕けてるけど、多分…『ウォーリア』…? だと、思う」
ジタンは総毛立った。
尾が焦りと恐怖で膨れ上がり、小さく悲鳴が上がる。
ジタンの悲鳴が聞こえなかったのか、オニオンは『ウォーリア』を見上げたまま、剣を抜いた。
「何あれ。何であんなに崩れてるのに砕け散らな――」
「オニオン! あの『ウォーリア』は駄目だ!!」
ジタンが叫んで…何か予感がしたか…咄嗟に月の明かりの下へ、オニオンを突き飛ばしながら自分も飛び出した。





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