12 | ナノ 声が出ないとかどうでもいい。出ないなら無理やり出してやる。どうあっても俺を置いて行って貰うからな。
そんな決意で口を開いた。
同時。
前方が赤く光った。
ジタンは硬直した。
この光の具合では、間違いなく直撃コースだ…と。
しかし衝撃は来なかった。
続けて、前方が光る。
否。地上から光が打ち出される。
セシルは軌道をそちらに向けた。
「オニオン…」
その呟きで、光がオニオンが発した技なのだと知れた。
どこも狙っていないその軌道は、こちらへの合図だ。
ここへ…と。
セシルは敵の攻撃を避けながらそちらへ飛んだ。
…程なくして、地上にイミテーションとは明らかに色合いや質感の違う、赤い人影が見えた。
…と、思ったと同時に、姿が視覚出来なくなる。
先程の技は、敵にも見えているから、故に気配で追って来て欲しい、と。
ジタンは隠されているものを見付けることは得意だが、隠れている者を見付けることは不得手だ。
相手の気配を探す、ということが出来ない。
いや、出来ない訳ではないが、酷く集中力を要する上に難しい。
オニオンも、ジタンがセシルに抱えられているのを見たから、気配の読めるセシルに追わせる為に、姿を隠したのだろう。
敵も合図として打ち上げられた技に気付いているから。
長く同じ場所に留まるのは危険だから。
…しかし…。
オニオンの姿が見えなくなって直ぐ、セシルは速度を落とした。
「…駄目…だ、オニオン。…解らない…」
通常、相手が隠れていても気配を辿り、相手を追えるセシルが、今、視覚でしか相手を追えなくなっていた。
ジタンはセシルを見る。
見られたのが解ったのか、セシルはジタンとは視線を合わせずに言った。
「…気配…が、解らない訳じゃ、ない…。でも、どれが…彼だか…解ら、ないんだ…」
セシルは斜め後ろから来た攻撃を避けると、空中で身体を倒し、ジタンを上にした。
そして今までジタンの背と首を支えていた手を放し、白い光を放つ。
標的の無いその連続する白光に、離れた場所から、再び赤く光が打ち上がった。
セシルはジタンを抱え直すと、光の元に向かい、飛行を再開する。
直ぐに、地上を走る赤い人影が見えた。
その人影が、前方に見える、2つの重なり合う巨大な岩柱を指し示す。
セシルは頷いて、高度を上げ、示された岩柱へ接近した。
敵は目立つセシルを追ってくる。
岩柱群を高い位置で大きく回り込むと、丁度向かってきた方向から見て真向かいの位置で、セシルは急に高度を下げた。
地上ぎりぎりまで高度をさげて、岩柱の根元を回り込む。
単純な目眩ましだが、意志の無いイミテーションには十分だろう。
そうやって、高度を下げた場所から岩柱群の根元を、セシルに抱えられて飛ぶこと、半周。
オニオンが、2つの岩柱の間に出来ていた、僅かな隙間の入口で待っていた。
こちらに自分の姿を確認させると、直ぐに隙間へと身を隠す。
遅れて、セシルもその隙間に飛び込んだ。
…イミテーションの群れが、岩柱群を通り過ぎる音がした。

…岩柱の間は、3人が座れるだけの隙間が開いていたが、月明かりは僅かしか差さず、冷えた岩に囲まれている所為か、非常に寒かった。
普段ならこの世界を、寒いと思うことがないことから、ジタンは自分に熱があるのだと知った。
セシルはジタンを、なるべく平な岩の上に、足を下ろして座らせた。
背を岩柱に寄り掛からせる。
寒さで、ジタンの身体の震えが大きくなった。
セシルも隣に腰を下ろす。
…途端、オニオンが声を殺して早口で詰問してきた。
「何があったの」
「…オニオン…君は…どうして、ここに…」
セシルの問いの間、オニオンはジタンの、破れ、焦げた服を捲り上げていた。
次いで、足の傷と、寒気のする方向へ捻れた足首を見て、暗がりでもそれと解るほどはっきりと顔色を変える。
ジタンの傷を1つづつ確認しながら、オニオンは低い声で話始めた。
問いに問いで返され、若干声は不機嫌だった。
…いや、そんなことはどうでも良くて、とにかく焦っていて、でも声は殺さなければならなかったから、不機嫌な声に聞こえたのかもしれない。
話し始めたオニオンは、やはり早口だった。
「…ホームで言う、夕方に差し掛かった頃だよ。ティナが『ジタン達が危ない』って騒ぎだした。どこかで激しい戦闘があって、君達の気配がどんどん弱くなっていってるって。バッツは何だかよく解らないけど、風があれば君達の大体の場所は解るんだってね。でもホームにも、ホームから直ぐに行ける世界にも風は吹いてなかったから、ウォーリアは2人づつ組んで探しに行こうって言った」
オニオンは早口で話し続ける。





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