13 | ナノ

入れ違いになるといけないから、ホームにはティーダとティナが残っていること。
探索するエリアは各組ごとに1つ。居なかった場合や組んだ人とはぐれた場合、必ずホームに戻るように決まったこと。
自分はクラウドとクリスタルワールドに行った帰りに、彼とはぐれたこと。
魔力も尽きかけていた為、身を隠しながら、ホームへ戻る途中だったこと。
ここ迄話して、オニオンはジタンの腹に付いた、大きな傷の付近に触れた。
傷に直接触れられた訳ではないのに、焼け付くような激痛が全身を貫いて、しかし、身動きも悲鳴も出せず…ジタンは僅かに呻いただけだった。
オニオンは唇をわななかせる。
「何があったの!」
抑えた怒声で、オニオンはセシルに振り向いた。
…何でセシルに怒るんだよ…。
悪いのは俺なんだ…!
そう言いたくて、抗議するように呻く。
理不尽だろ! 何でセシルが怒られなきゃならないんだ!
さっきだってセシル俺に謝るし!
怪我だって、俺が根性無いだけで、そいつの方が酷いんだぞ!
何で皆…俺…俺なんか…。
ジタンが呻いて、振り返ったオニオンの前で、ジタンは涙を晒した。
…自分勝手に行動して、ここまで事態をでかくしちまったんだ…。俺なんか放っておけば、誰も怪我なんかしないで済んだんだ…!
ジタンのその姿に、オニオンは唇を強く結ぶ。
セシルに振り返り、問い掛けに答えようと口を開きかけたセシルを留めて、ジタンと同じようにセシルの傷を確認しようと、赤く染まっている鎧下衣の、胸横の辺りにオニオンが触れるのを、涙越しにジタンは見ていた。
オニオンが触れた瞬間、ひくりとセシルが痙攣する…。
と同時にオニオンが肩を震わせて手を引いた。
「…っ何やってたのさ!」
抑えた怒声と共に、オニオンが利き手をセシルにかざして回復魔法の詠唱を始めようとした。
その手首を。
セシルは掴んだ。
そのままオニオンの手をジタンへ向けさせる。
…っ何で!
ジタンは叫びたかった。
だが喉がひゅうと鳴っただけだった。
オニオンは一瞬絶句し…セシルを射るような目で見つめる。
「…死なないよね」
セシルは笑ったようだった。
「…それは、ジタン、の、こと…だよね?」
手首を掴まれたまま、オニオンは唇を固く結んで、ジタン達を見比べる。
ややあって、掴まれていた手を引いた。
低い、早い口調で、俯き、言う。
「…こんな時、自分の経験不足が嫌になる」
次いで、勢い良く顔を上げ、口調を変えずにセシルに言った。
「セシル、教えて。さっきも言ったけど、今僕は魔力が殆んど残ってない。使える回復魔法は、中級なら1回、下級なら2回。それで魔力は尽きる。セシル達は自分の身で逃げていたから、テレポでは逃げられないんだろうね。だからテレポは考えないことにする」
「…うん」
「3人が誰も死なない為には、僕はどうすればいい?」
…何だよ…。
と、ジタンは思った。
…こいつ、こんなにでかく見えるもんなのか、と…。
セシルは暫く、乱れた呼吸のまま、視線を地に落としていた。
次いで、ジタンを見やる。
否。ジタンの足を。
「…オ、ニオン」
「何?」
セシルの声は、乱れた呼吸音が混ざって、小さい。
オニオンは自然、セシルに近づいた。
「ジタン、は…」
オニオンは触れたから解っていると思うけれど、ジタンは片足首を骨折、同じ足を『ウォーリア』の剣が貫いている。
もう片足は『フリオニール』の矢が貫き、腹を『フリオニール』の剣が、その傷の端を『ウォーリア』の火球が焼いていて、他に深い負傷が多数、失血も多く、現状、立てない。
ただ、『フリオニール』の矢傷に関しては、僕が1度、中級回復を掛けている。
君の助けを借りれば歩けるようになるまで回復させるには、下級、中級、どちらを掛ける必要がある?
…ここまで話し終えるのに、セシルは2度、長く言葉を途切れさせた。
オニオンの顔色は、焦りで真っ青だった。
それでも即答する。
「中級。中級回復じゃ骨折は治せないけど、支えて隠れながら進むことは出来ると思う。でも――」
「決まりだ」
「でもセシル――」
「君はジタンを頼、むよ」
「セシル、待って!」
動き掛けたセシルの腕を、オニオンは思わず掴んで引いた。
途端、セシルは呼吸を詰め、引かれた側の肩を抱えて痙攣する。
オニオンは手を放して後退り…次の瞬間にはセシルに詰め寄って、痛みに伏せた顔を無理矢理覗きこんでいた。
「セシル、ジタンより怪我が重いんだよ、解ってるの?!」
…ああ、やっぱり…。
と、ジタンは思った。
…オニオンの問い掛けにセシルは答えなかった。
痙攣の後、ふわりと浮き上がる。
「…歩けないんだ…?」
弱い弱い、オニオンの声。
セシルは苦笑した。
その苦笑に、オニオンは再び、射るような視線を向ける。
「死なないね?」
セシルはやはり、言葉では答えなかった。





長編TOP

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -