11 | ナノ

暫く階段を下った後、まだ階段が続いているうちに、セシルは高度を上げ始めた。
ジタンは、長い長い階段を下り切った先は、連綿と連なる柱と、彼方まで続く平坦な石床だけの場所な筈だ。
と、思った。
何故高く飛ぶ必要があるのか。
答えは直ぐに解った。
石床の上。
そこに無目的に佇むイミテーションの群れ。
それらに気付かれないように、高度を上げたのだ。
しかし、追い縋るイミテーションが皆一様にこちらを見上げている為、やや反応は遅れたが、程なくしてこの場所のイミテーション達にも見つかってしまう。
こちらを追う敵の数が増える。
セシルのらしくない舌打ちが聞こえた。
「…釣ってしまうな…」
釣…る。敵の注意を引いて、わざと敵を集め、連れていきたい場所まで誘い出すこと。
ジタンはそこまで思い出し…ふと、疑問に思った。
…セシルは走るより早いスピードで飛んでた筈だ…。
何で振り切れない?
その疑問は、柱を通り過ぎる際、後方に柱が流れていく速度を見て直ぐに解けた。
飛行速度が酷く不安定になっていた。
一定の速度で飛行出来ていない。
ジタンはひゅ…と息を飲んだ。
重傷の所為か、身体の感覚がおかしく、速度を体感出来なくて気付けなかった。
…お前…飛ぶのは走ることとあんま変わんねぇって言ってただろが。
俺を抱え上げるのに傍に来る時、四つ這いも出来なかったじゃねぇか。そんな身体で飛んでんのかよ…。
…つか、最初に気付けよ、俺…。
俺がこの状態で痛くて動けねぇってのに、俺よりズタズタなこいつが動ける訳ねぇだろフツー…。
見ろ、息なんか凄ぇ上がっちまってるじゃねぇか…。身体めっちゃ熱いし…。これ肋骨以外にもどっか折ってるだろ絶対。
肩とか凄ぇぐにゃっとした感じするし、さっき氷塊に背中ざっくりやられてたよな…つか全身真っ赤じゃんか他にどこ斬られたんだよ…。
腹ら辺が凄ぇどろどろしてる感じすんだけど…って、ああこれは俺か…。
「ジタン、頑張って…!」
いつの間に目を閉じていたのだろう。
セシルの必死な声というよりは、寧ろ悲鳴が聞こえて目を開けた。
「僕は、死なない…だから…ジタンも死なないでくれ…!」
何俺なんか励ましてんだよ…自分だってキツいんだろが…何で俺なんか…。
死なないって…言ったな? マジ死ぬなよ? 俺、俺の所為で誰か死ぬとか、とてもじゃないけど…。
いつの間にか、声すら出なくなっていた。
セシルは飛行する。
広い広い石床を、酷くちぐはぐな速度で。
石床の上に居る敵は、ただ追うだけでなく、その内遠距離の攻撃を仕掛けてきた。
その全てを。
避け切れたのかは解らない。自分には当たらなかった。
セシルにはどうだろうか。
当たってしまったかもしれない。
ジタンは殺して欲しくなった。
完全に足引っ張ってんじゃん…俺。と。
延々と続く石床の果ては、やはり星の体内と同じ様に、不自然に霞掛かって途切れていた。
セシルは迷わずに飛び込む。
…飛び込んだ先は、闇の世界と同じような暗さと温度だった。
但し闇の世界のような閉塞感は無く…。
広所恐怖症にでもなりそうな、岩場と夜空の世界…。
攻撃は、いきなり横合いから飛んできた。
セシルは痛みに顔を歪めつつ急停止する。
真っ赤な光球が、空気を焼きながら通り過ぎていった。
メルトン。
「『ティナ』…」
セシルの焦った呟きが聞こえた。
一発食らったら終わる。
辛うじて避けられたが、メルトンの光球が通り過ぎた後の、ちりちりと温度の高い空気を感じて思った。
「…僕じゃ…目立ち…過ぎる…」
続けて聞こえた、セシルの1人言に、はっとする。
一面黒い岩場と夜の、この場所には、セシルの白…もっとも、今は白より赤い色の方が割合が多いが…の姿では確かに目立つ。
ジタンは声が出ないまでも、セシルの背に回した手で、セシルの髪を引いた。
置いて行ってくれ、と。
黒姿なら、身を隠しながら逃げ切れるだろう、と。
セシルはこちらの言いたいことが解ったのだろう。
完全に無視をした。
痛まぬよう、そっとジタンを抱え直し、セシルは飛行を開始する。
間を置かず、空間の歪みからイミテーションの群れが湧き出してきたのを、ジタンはセシルの肩越しに見た。
…先頭に居たのは、あの、砕けかけた『ウォーリア』だった…。
目立ってしまうなら、かえって身を隠さぬ方が、どこから攻撃が来るのか把握できて良い、と。
セシルは岩場に降りずに高い位置を飛行する。
飛行の速度はやはり乱れがちで…。
更に、飛んでくる攻撃を避ける度に、高度すら下がってきて…。
気付いて、慌てて高度を上げるが、また避ける度に下がっていく。
ジタンは強く目を閉じた。
…共倒れじゃねぇかよっ!
再び目を開ける。





長編TOP

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -