ガー ィア  ォース | ナノ
 
「スコール、新しい装備手に入れたんだって?」
「…ああ」
「凄ぇじゃん! なぁ、それちょっと試してみないか?」
「…ああ、構わない」
「じゃあ、明後日手合わせでも!」
「…ああ」
「約束だぞー? 忘れるなよ?」
「…ああ」


…という会話をしたのは、誰と…いつだったろう…?














スコールには、今まで誰にも打ち明けたことの無い悩み事がある。
時々…特に戦闘で窮地に立たされた際、頭の中が妙にざわつくのだ。
集中しなければならない局面だというのに、別の誰かの思考が入ってくる様で、余り気分は良くない。
しかも、そのざわつきを他人の思考と仮定したところで、その思考が何を考えているのかも解らない。
…強いて言うなら…呼べ…と、言っているような…気がする…?
呼べ、とは何をだろうか。
召喚石かと思った時もあった。
故に頭の中がざわついた際、召喚石を解放もしてみた。
しかし、そうしたところで、このざわつきは晴れなかった。
ならば、これは一体何なのか…。
知っている様で…全く思い出せないその感覚は、時折、スコールを酷く苛立たせた。
そして、そういった心の機微を悟られることを苦手とするスコールは、事あるごとに、以前よりも頻繁に、1人に、なりたがった。






「…スコールさぁ…」
「んー?」
ホームと呼ぶ深い森。その深部に構えた夜営地では、秩序の戦士達が、身体を休める準備に取りかかっていた。
夕刻。
茜色の空には薄い雲が掛かっていて、晴れた日よりも幾分暗い。
若干冷たい風が夜営地を撫でて通り過ぎ、生い茂った木々の葉が音を立てて揺れた。
広く下草の生えた夜営地は、木々がそこだけ生えることを避けたように開けていて。
その場所に覆い被さるようにして葉を広げている周囲の木々は、早、夜の色になりつつあった。
再び、冷たい風が森の隙間から夜営地を通り抜けて…。
テントを張り終えた仲間の誰かが「今日、寒い…」と、誰かに同意を求めていた。
…そんな中。
火を作る為に石を打ちながら、通常より酷く低い、真剣な声で呟いたのはバッツだった。
バッツのその声に答えたのはジタンで、バッツが作った火種を炎におこす為、地に両手を付いて火元を覗き込み、組んだ薪の元に息を吹き入れていた。
ジタンはその体勢のまま、バッツに言う。
「スコールがどうかしたか?」
「…最近おかしいよな」
「あ、やっぱそう思う?」
僅か。炎が上がり。
それを大きな炎にしようと、枯れて乾いた落葉を投げ入れながら、ジタンは身体を起こしてバッツを見た。
バッツは、いつもの飄々とした表情を引いて、口を結び眉根を寄せていた。
身を起こしたジタンを、1度ちらりと見てから、次第に大きくなってゆく炎に、初めは細い枝を、次いで、長く保つ太い薪を、組み足す様に積みながら重い口を開く。
「…凄い物忘れするんだよ。いや、何も7日前の朝飯は何だったか訊いた訳でもないんだよ。ちょっとした…それこそ昨日話したこととかを、何か…最近忘れて帰って来るよな」
「俺も結構約束すっぽかされてるぜ。今朝した約束とか、1人で哨戒行って帰ってくるとすっぱり抜け落ちてんだよな」
あんなに物忘れ激しい奴じゃなかったと思ったんだけどな…と…。
ジタンは何気無く、少々困った様子で言った。
…言ってから。
ジタンはふと、動きを止めた。
ゆるり。顔を上げて。
バッツを見る。
ジタンの視線の先に居るバッツは、完全に手を止めていた。
そしてバッツも、ジタンを見ていた。
…2人共、真顔だった。
冷たい風が2人の髪を、嬲って通り抜けて行った。
2人の脳裏に、先程のジタンの言葉がもう1度、流れていく。

――俺も結構約束すっぽかされてるぜ。

――今朝した約束とか、1人で哨戒行って帰ってくるとすっぱり抜け落ちてんだよな。

……。
…ややあって。
2人はどちらともなく口を開いた。

「…1人で…?」



2人が始めに疑ったのは偽物だった。
だが、煽られる等して冷静さを欠いている時ならば兎も角、こうして普段、共同生活を営んでいる際に、気配に聡いバッツほか数名が、スコールが偽物だった場合のほんの僅かな違和感をも見付けられない、感じられないというのは妙な話だった。
秩序軍中、最大の広範囲感知能力保持者であるティナは、今、この森の中には敵は居ないと言う。
生物の気配に聡いフリオニールは、今此処には自分達と森の動物の気配以外は無いと言う。
風さえ有れば、最も精密に気配を辿れる当のバッツはスコールを読んでも本物としか思えず、気配、それも敵意に最も敏感なセシルでさえ、そして敵の気配に聡いクラウドでさえ、スコールからは何の敵意、誰への敵意も、敵とも、感じられない、と言っていた。
…誰かが、こうして嗅ぎ回っていることをウォーリアに告げたのだろう。
「バッツ、ジタン、少し良いか」
夕食後、名指しでウォーリアに呼び出され、2人は顔を見合わせて苦い顔をした。
どちらともなく頷き、踵を返したウォーリアに続いて森の中へと踏みいる。
嗅ぎ回っていたことを咎められるなら気乗りはしないが、スコールの件について話せるなら手っ取り早いしほっとする。
そんな、少々複雑な気分で2人は森の中で歩を進める。
…盗み聞きを警戒してか、ウォーリアは先ず、2人を水場へと連れていった。
複雑に絡まり合う森の木々の根が急勾配を創り、その根の間から間断無く湧き出る澄んだ水が、勾配を滑り落ちて泉をつくっている。
秩序の陣営が水場として大切に利用している泉。
水は、泉へと滑り落ちるその課程で、静かに、しかし間断無く、多様な音を立てていた。
ウォーリアは、泉の岸を周り、その、湧き出す水が急勾配を滑り落ちる水源付近で、後を付いてきた2人に振り返る。
「ウォーリア」
ウォーリアが何か言葉を発する前に、バッツが口を開いた。
「スコールのことなんだけど」
咎められることを警戒したか。
バッツが先に発した言葉に、ウォーリアは言葉を発しようと、開きかけていた口を、一旦、閉じた。
そうして、再び口を開く。
「…聞こう」
「その前に」
今度はジタンが言った。
「何で俺達を呼んだ?」
バッツに応じるウォーリアの様子から、ジタンは咎められても押し切ることが可能と踏んだ。
故に敢えて、先にウォーリアに問うた。
ウォーリアは、バッツからジタンへとその視線を移動させる。
そうして、僅かに沈黙した後、言った。
「…以前、クラウド、セシル、フリオニールから打診があった」
ウォーリアはそう言って腕を組む。
「最近、スコールの様子がおかしい、と」
だからあの3人とは、君達2人以外の仲間を極力スコールと離し、スコールと仲の良い君達2人に任せて様子を見ることで、その場は基本、合意した。
「…それは、いつの話だ?」
バッツが低い声を出した。
自分に知らされなかったことに憤りを感じている…というよりは、この話の流れから、それは当然のことと受け止めて、その先を考えながら話をしている様な声だった。
「それほど以前の話ではない。10日前後程前の話だ」
ジタンが、眉間に皺を寄せてバッツを見上げる。
「…スコールに、何か違和感感じた頃と、大体おんなじだな」
バッツはジタンと同じ様に、眉間に皺を寄せて頷いた。
そうして、それで? と、ウォーリアを促す。
「君達がスコールについて、気配に聡い者に聞いて回っている、と、あの3人から報告があった」
あの3人、とは、クラウド、セシル、フリオニールのことだろう。
バッツは少しだけ笑った。
「連絡系統が崩れてなくて、安心したよ」
俺達、仲間には甘いから。
他でもない仲間のことだから、妙に庇う、とか、どっか崩れてるんじゃないかって、そっちも若干心配してた、と。
言えばウォーリアは片眉を上げて、首を僅かに傾ける。
「…その件について心配していたのは、彼等3人ではなく、寧ろ君達だ」
「ちぇ、見くびられたもんだぜ」
別段、面白くも無さそうにジタンが言って、手を頭の後ろで組んだ。 
ウォーリアはその言葉に、組んでいた腕を解いて目を伏せ、済まない、と、短く告げる。
ま、ウォーリアが呼んでくれたから、声掛ける手間が省けて丁度良かったよ、なんて。
ジタンが笑って、ウォーリアは伏せていた目を上げた。
バッツが言う。
「呼び出した理由と呼び出しに応じた理由は同じってことで、手っ取り早くいこうぜ」
ウォーリアはバッツの言葉に頷いた。
そうして、言った。
「端的に、君達が解ったこと、気付いたことを話して欲しい」
「あ。悪い」
と。
ウォーリアの語尾に被せる形でバッツが詫びる様に片手を上げ、言った。
「その前にもう1つ。ウォーリアはスコールの『おかしさ』が何なのか、知ってるか?」
バッツの問いに、ウォーリアは別段気分を害した様子も無く、頓着無く頷く。
「…『約束や、最近仲間とした話を忘れる』『遠征からここへ戻る道を覚えていない時がある』『独り言が増えた』『時折、額を押さえて立ち竦んでいる』『宿敵以外の敵の名前が咄嗟に出て来ない時がある』…把握しているのはこのくらいか」
「…それが全部、スコールを1人にした後に起こる…ってとこまで、知ってたか?」
バッツの低い声に、ウォーリアは軽く目を見開いた。
そうして、「…いや」と、小さく首を振る。
バッツはジタンを見た。
ジタンもバッツを見た。
そうして、2人はウォーリアを見た。
ウォーリアも、2人を交互に見た。
勾配を、木の根やその間を、滑り落ちる水音の中に冷たい風が森を通り抜ける鋭い音が混ざって、剥き出しになっていた3人の腕が軽く粟立った。
ざわり…。
森の木々が風に嬲られて葉を鳴らした。
…ウォーリアは言う。
「…スコールには、明後日から遠征に行って貰うことになっている。急で済まないが、君達は彼に気付かれぬよう彼の後を追って欲しい」
「1人でか?」
バッツが直ぐに応じた。
ウォーリアは頷く。
「本当はティナと組ませようと思っていた。だが本人から、1人で行きたいとの強い要望があった。対抗出来ない数のイミテーションを視認出来たら直ぐに引き返すことを条件に、これを受諾した」
「どこまで」
今度はジタンが鋭い口調でウォーリアに問い掛けた。
「魔導研究所を抜けた先」
ウォーリアも直ぐに応じた。
「1面の平原となっている世界の断片の、その先だ。平原の世界から先が確認出来ていない」
「魔導研究所の先…遠いな…」
ジタンが頭の後ろで組んでいた腕を解いて呟く。
ウォーリアは、理解している、と頷いた。
「君達が出発した後は、セシルとフリオニールに君達の後を追わせる。何かあったら、少々戻れば彼等と合流できる」
「そこまで戦力割いて平気か?」
「君達が戻るまでは、誰もホームから出ないようにしようと考えている」
「それ、他の3人とは合意済みか?」
「たった今考えた話だ。他3人は知らない。が、話せば合意は得られると思う」
「そこまで一大事ってことだな」
「無論。他でもない仲間のこと。何かあってからでは遅い」
「よし解った。明後日な。準備しとく」





.
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -