8 | ナノ

白い光に貫かれた衝撃か。
『ウォーリア』の凶刃はジタンに届かなかった。
光に貫かれるまま、『ウォーリア』とジタンの距離が離れる。
ざり…と。荒い地肌の岩を掻く音がした。
「彼に触れるな」
セシルが高台の上で、上半身だけをやっと起こしていた。
イミテーションかと思えてしまう程に、雑音の混ざった声で怒鳴る。
光は、数回『ウォーリア』を貫き…一瞬その攻撃が止み…また数回、『ウォーリア』を貫いた。もう一度。そして更に、もう一度…。
『ウォーリア』が、足場の縁から足を踏み外した。
光はさらにそれを追ってゆく。
最深部の足場の下、緑光の奔流の手前。
自然発生したものなのか、それとも、カオス勢の故意なのか。
黒い罠が発動し、弾ける、いやに可愛らしい音がした。
多分、『ウォーリア』が、星の体内の、どこか遠くに飛ばされたのだろう。
遠くとはいえ、エリアは同じだ。恐らく、余り時間を置かずに戻って来てしまうだろう。
…それでも、辺りは一応、静かになった。
ジタンは、高台の上のセシルが動くのを見ていた。
高台の縁に手がかかり、肘を伸ばして身体を引き起こす。
…途端、手を付いた片側の高台の縁が崩れ、均衡を失って高台から下の足場へ、こちらに向かって転がり落ちた。
『ウォーリア』を貫いた技から、また、割れて転がっている肩鎧から、多分今は白姿だと思うのだが、身を包んでいる筈の鎧は、砕け、割れて殆ど残っていなかった為、確証は持てなかった。
下げる場所を失い、腰に結わえられていた騎士剣が遅れて落ちてきて、澄んだ音を立てた。
薄い、鎧下衣だけの背中が、転げ落ちた衝撃に耐え切れず痙攣する。
ジタンはそれに手を伸ばすことも出来ず、突然の状況変化に喘いでいた。
やがてセシルは、僅かに痙攣の残る身体で動き出した。
上手く身を動かせないのか、四つ這いにもなれない体で、こちらに這い寄って来る。
動く度、足場に擦れた血の跡が残った。
やがて近くまで来ると、うつ伏せのジタンの顔を覗き込み…ジタンの見開いた目と目を合わせて、安堵した様に笑う。
「良かった。生きててくれてて…」
ジタンの尾が総毛立った。
それは俺の台詞…ってか、お前の方がズタズタじゃんか…。
何だよ…駄目だって俺なんか優先したら…。
何で俺が居ることを肯定できんだよお前…。
お前が死んじまったらどーすんだよ。しかも俺の所為で。
…そうさ、これ全部俺の所為なんだからさ。俺は放っておけよ。
頼むよ…。
俺が…俺は…俺…お前死なせたら本当に…。
ジタンがそんなことを、声にも出せずに思っている間、セシルはうつ伏せになっているジタンの胸の下に腕を差し入れ、背を押さえて、そっと仰向けにしようとしていた。
全身が悲鳴を上げる。もうどこがより痛むのか解らない。
激しい痛みに、しかし身体は僅かしか動かず、ジタンは抵抗も出来ないままに仰向けにされていた。
次いで、セシルが覆い被ってくる。
負った傷の所為か。触れた体温の異常な熱さに、ジタンは鳥肌が立った。
腕をそっと持ち上げられ、セシルの肩に回される。
セシルの腕が、ジタンの脇の下から背に回り、掌が首を押さえた。
反対側から、もう片方の腕が、尻の直ぐ下、太股を抱える形で回される。
そして…セシルはジタンを抱えたまま、ゆっくりと浮き上がった。
「…帰ろう」
ジタンの目頭が瞬時に熱くなった。
ひゅう…と、言葉にならない息が漏れる。
のろのろと。ふらふらと。
非常に頼りない様子で、セシルは上昇してゆく。
「飛ぶ…のっ…て、疲れ…ね…ぇ?」
ともすれば、泣き出しそうになるのを誤魔化す為に、ジタンは敢えて言葉を口にした。
自分の声も、先程のセシルと同じような、イミテーションかと思えてしまう程に雑音が混ざっていた。
発声には常に痛みが伴った。
それはセシルも同じらしい。
ひゅう…と。
溜息に近い音が、セシルの喉から聞こえた。
それは恐らく、痛みを堪える為の喘息。
返答は、暫く待たなければならなかった。
「…足で歩くのと…労力、は、変わらな…いよ…」
ややあって、応えてきたセシルの声は、やはり雑音混じりで、頻繁に息継ぎが入り。切れ切れだった。
セシルは続ける。
ただ、この状態で、ジタンを抱えて、足で足場を渡るのは、ちょっと無理みたいだから。
「ジタン…も、揺らされると、痛…い、だ、ろ…?」
だから、飛んで行った方が良さそうだと思って。
言ったセシルに、ジタンは思わず身動ぎした。
「俺抱え、て…辛いだろ?! 俺、隠れて待ってるから、セシル先に――」
「っがぁ…は…っ!」
ジタンの言葉は、セシルの悲鳴に遮られた。
悲鳴と共に、高度ががくんと下がる。
幸い、落下は一瞬で済んだが、ジタンはその衝撃に耐え切れず、悲鳴を上げた。
上昇が開始される。
「っ済…まない、だ、大…丈夫…かい?」






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