1 | ナノ

ぴちゃ。
水音に、ジタンはふ…と目を開けた。
火照った身体に岩の冷たさが心地よい。
…凄まじい倦怠感。
横たえた酷く重く感じる身体。
それを受け止め、支えてくれる岩の存在が頼もしい。
しかと自分の身を支えてくれる岩の頼もしさと心地よい冷たさに、再び微睡んでしまいたくなる。
だが、目を開けた瞬間から感じだした全身の激痛がどうにも邪魔をして…。
ジタンは溜息を吐いて微睡むことを諦めた。
代わりに目だけで辺りを見渡す。
…ここは…?
先ず目に映ったのは、血に塗れ、傷だらけになって投げ出された自身の腕。
動かそうと思えば中指がぴくりと動いた。
「っ…ぐ…ぁ…っ!」
途端、全身を貫いた激痛に悲鳴を上げる。
悲鳴を上げたことでさえ、激痛として全身に返ってくる。
ジタンは次々に上がってくる悲鳴を喉奥で殺し、荒く呼吸することで痛みをやり過ごした。
ぴちゃ。
水音。
呼吸を荒げさせたままで、再び辺りを見渡す。
自身の手の向こうに、自身が身を横たえている岩の縁が見えた。
手と縁は赤黒い筋で繋がっていて。
その向こうには、宙に浮いた岩と緑の光の奔流が見えていた。
…その場所が「星の体内」と呼ばれる場所であることを思い出すのに数秒。
自身の手と岩の縁を結ぶ筋が自身の血だと判別がつくまでには更に数秒。
自分が気を失っていたのだと自覚するまでにはその倍の時間が掛かった。
ぴちゃ。と。
水音が耳に届く。
ああ、じゃあこの水音は。と、ジタンは思った。
俺の血が垂れて下の岩に当たる音なんだ、と…。
続いて、あれ? と思う。
何でこんなことになってんだ?
何で俺こんなズタボロになってんの?
そもそも俺、何でここに来てんの?
てゆーかこの状況、ヤバくね?
意識が覚醒してくるにつれ、この状況が如何に危機的かを、理性が自覚する。
自然、焦りと恐怖で心拍数が跳ね上がった。
元々荒げさせていた呼吸は、更に。
待て待て落ち着け、俺。
ジタンは上がってしまった呼吸を落ち着かせようと努める。
焦る自分を自分で宥めるなんて滑稽だと、頭の隅の冷静な部分で思う。
解っちゃいる。解っちゃいるが、仕方がない。
事の顛末と状況を正しく理解しておかなければ、動きようがないだろう、と。
…実際に動けるかどうかは別として。
そもそも俺は何でここに居るんだ?
問題はそこからだ。
ジタンはまず、ことの始まりから思い出そうとした。

そもそも、ジタンは装備を強化するための素材を集めに来ていたのだった。
深い森(見覚えのない獣を、スコールは「シカ」と言っていたので、スコールの世界の断片なのだろう)を拠点としていた自分達だったが、今朝テントを出る際、何だか良い予感がして。
宝探しも兼ねて素材収集に行く、と、揚々と告げたのだ。
1人で行く気か、とウォーリアに問われ、慌てて首を振ったことを覚えている。
では誰を連れに選ぶか。
ジタンとしては、ティナと二人きりが希望だったが、オニオンに断固拒否された。
「何だよ。俺だってティナだったら命に変えても守るぜ?」
「馬鹿!」
…馬鹿って言われた。
勿論、言い返そうとはした。だが当のティナに、
「ごめんなさい。私の足では貴方に付いて行けないから、足手纏いになってしまうと思うの…」
なんて言われてしまっては何も言えない。
確かにティナは10人中最も足が遅い。
勿論、ティナの魔法攻撃力は、それを補って余りある。
しかも可愛い。これ大事。
寧ろ可愛さが全てを補って超余り有り。
…って、思考がズレた。ええと。
確かにティナは鈍足だ。
ならばここは、ジタンの次辺りに素早いオニオンを選ぶべきなのだが、馬鹿なんて言われた直後に指名なんてしたくない。
ジタンにも意地がある。
…と、その様子を少々離れた場所で、穏やかに見ていたセシルが言ったのだ。
「僕が行くよ」と。
バッツやスコールを誘わなかったのは、二人が今日、ウォーリアとの手合わせを予定していたのを知っていたからで。
突発的な自分の計画に、三人の予定を狂わせることを、ジタンは良としなかった。
それに、自分が空中戦を得意としているのに対して、セシルは地宙両方イケる。
それに飛行も出来るし若干だが白魔法も使えるときたもんだ。
パーティーバランスは悪くない。
期待を込めてウォーリアを見上げると、僅かに思案する風を見せたが、直ぐに頷いた。
よっしゃあ! とガッツポーズをして、オニオンとスコールに呆れられたのを覚えている。
だが、バッツとフリオニールは「頑張れよ、期待してる」と言ってくれた。
期待されては燃えない方が難しい。
「宜しく、ジタン」
と、言ってきたセシルに、「付いて来れなきゃ置いてくからな〜」なんて言ったりして、調子良くホームを後にしたのだ…。





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