talk in your sleep
〜K×Q〜




「まさか、ダブルベッドとはね」

宿の二人部屋に入った途端、目に入ったベッドにコンウェイは苦笑する。
よりによって今日は普段とは違う夜なのだ。
旅の仲間の“女性”の一人と一晩を明かさなければならない。
こうなったのも全てはスパーダのせいだ。
今日の夕方、テノスにようやく到着し北の戦場での疲れを癒すため一行は宿屋に直行した。
するとスパーダが。
“あの二人を相部屋にする”。
と、突然ルカとイリアのもどかしい関係を進展させるために提案してきたのだ。
誰も特に反対する者がいないのでスパーダはすぐに行動に出た。
“男女ペアで泊まると割引なんだってよ”と適当なことをルカとイリアに言うと、簡単に騙されたようですんなり二人部屋に入ってくれた。
仲間はみなはそれについては構わないし、むしろもどかしく思うメンバーの方が多いだろう。
ルカなら夜這いの危険もないと言い切れる。
だがそうなると残りの三部屋のうち一つが相部屋になってしまうのだ。
男女で分かれて誰がその一部屋に泊まるか話し合うことに決定したのだが男組ではコンウェイに決定した。
理由ははいたって簡単だ。
すぐさま立候補したスパーダは一番の危険人物なので論外。
そしてそのスパーダの見張りをリカルドが立候補して、消去法でコンウェイになったのだ。
女組での話し合いは知らないので誰が来るかはわからない。
まあ、誰が来ても構わない。
あいにくコンウェイはそんなに女性に興味がないのだ。
近くの椅子に腰を掛けて読書を始める。
──いや、誰でもいいわけじゃないな。どうか彼女だけは──
コンウェイの思案を扉のノック音が中断させた。
読んでいた途中の本を閉じて椅子から立ち上がり、大きなダブルベッドの横を通ると部屋の扉を開ける。

「……っ、コンウェイ!?」

──どうか彼女だけはやめてくれ。
と、最後まで祈らなかったのが悪かったのか。
宿の廊下で凍り付いた(寒さのためではないだろう)キュキュを一瞥する。

「……キュキュ、今日、野宿する」

彼女もどうやら同じことを祈り裏切られたようだ。
この世が終わったような顔をすると踵を返す。
野宿、そうしてもらえばだいぶ穏便に済むがさすがに未成年の彼女をこんな雪国で野宿させるわけにはいかない。
かと言って戦いに疲れている自分の体を野宿させる気はない。

「いいから、入りなよ。みんなも心配するだろうし。ボクのせいで凍死したくないでしょ」

コンウェイは先に部屋に入ると先ほどと同じ椅子で再び読書を始めた。
渋々とキュキュも部屋に入る。
と、すぐさま声を上げた。

『ありえない! どうしてダブルベッドなの!?』

異国語で早口にそう悲鳴をあげるキュキュをコンウェイは睨み、自分も同じ言語で返す。
今や、この世界の言語を使う理由はない。
二人だけの空間になったら、仲良しごっこは一時中止されるのだ。

『本当に君はやかましいね。ボクの読書の邪魔をするな』
『ああもう! リカルドがアンジュを過保護しなければ! エルが「こんなピッチピチのかわいい乙女が夜這いされへんか心配」なんて言わなければ! キュキュがコンウェイと過ごさなくてもよかったのにぃ』

本当に残念そうにキュキュがそう言うとフン、とコンウェイが鼻を鳴らす。と、同時にとわざとらしく大きな音を立てて本を閉じた。

『スパーダ君と比べたらボクの方がマシだろう』

偉そうな目つきで偉そうに話すコンウェイに負けじとキュキュも腕を組み、椅子に座る彼を汚いものを見るかのように見下す。

『ヘンな帽子は友達だもの。コンウェイとは違うわ』

すまして当たり前かのようにそう言うキュキュ。
へぇー? と言いながらコンウェイは立ち上がり十五センチ下の少女を余裕で見下す。

『友達? よく言うよ。そういえば君は男風呂にも入ってくるし、本当に大胆だよね』

コンウェイの目下なのか気に食わないのかコンウェイの言葉が気に食わないのか、もはやコンウェイそのものが気に食わないのかキュキュは眉を寄せる。

『大胆? 何が言いたいの?』

コンウェイは嫌みをたっぷり含んだ笑顔で思いっきりキュキュに蔑みを浴びせると満足したのか、手をひらひらさせながらキュキュの横を通り過ぎた。

『少しは男に警戒心を持てということ。わざわざ言わせるなよ。……まあ、今日は安心するがいいさ。ボクは君になんて全く興味ないから』

キュキュは勢いよくコンウェイの方に振り返り、憤慨する気持ちをこらえるように拳を握りながら怒鳴る。

『意味わかんない! これ以上キュキュをバカにするなら死なない程度に痛めつけてあげてもいいのよ』

一方コンウェイは落ち着き払ってダブルベッドの端に腰かけると今にも双槍と飛び掛かってきそうなキュキュを一瞥した。

『面白そうだけど断っておくよ。いつか本気で手合わせ頼もうかな』
『ムカつく! 逃げるのね』
『君だって無駄な体力は使いたくないだろう。それにもうこんな時間だ。寝ればあっという間に朝になるさ』

淡々とそう切り返し、コンウェイは布団に潜る。
もちろん端の端で今にも落ちそうな位置だ。
まだ不満そうなキュキュだが彼の言葉にも一理を見いだしたのか、部屋のろうそくを消すと、黙ってダブルベッドに入り込む。
こちらも反対側でコンウェイ同様今にも落ち──

「あぅっ」
「君が落ちると布団が持っていかれるんだけど」

せめてテノスでなければ、布団なしでソファで寝ても良かったのだが。
二人は不幸な自身を呪った。




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