にせものamabile。 | ナノ

 前奏 5

馬鹿は、




僕だ。






何が"浮気"だよ、笑っちゃう。浮気相手は、僕だったんじゃん。どうして気付かなかったんだろう。




一哉は一度だって、



僕の名前を呼んでくれたことがなかった。





「うっ、」




泣いちゃ駄目だ、泣いちゃ、駄目泣いたら負けだぞ、僕。




「一哉、好き…」



"リン"が呟いた。




あぁ、気付いてしまった。




僕は、


僕の声は、




"リン"に似ている。







好き。好き。誰よりも、好きだった。



好きで、好きで、とにかく好きで…



「ふふっ…」



泣いちゃ駄目だ、泣いちゃ、駄目。泣いたら負けだ



「ふ、ふふふふふふ、


さようなら、一哉?」




涙をこらえようとしたら、今度は笑いが止まらなかった。おかしくてたまらない。


馬鹿みたい。僕ひとり、馬鹿みたいだ。




「もう、だあれも好きにならないよお、僕は。」


クスクスと、僕の"作った"声が、誰にも聞かれることなくフッと消えた。



前奏 終




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