にせものamabile。 | ナノ

 G-dur 1

「すきだ」と「すきだった」には深い深い溝がある。それは、「すき」と「きらい」との溝以上のもので。

だけどどうして僕たちは、「すきだった」に引きずられてしまうのだろう。


こんなにも。



土曜日。
いっちーの試合の日がきた。のむちゃんが部屋まで迎えに来てくれて、一緒に試合会場まで向かう。


「今日、村崎慶も出るかもしれないって!正式にはまだバスケ部じゃないんだけど、本人的には入部したいみたい」
「本人的にはってえ?」
「え、匠ちゃん通達見てないの?!村崎慶、生徒会入りしたんだよ!だから両立できるかが問題みたい」
「へえ、そおなんだあ。村崎くんかあ、突然だねえ」
「待って、その様子だとランキングも見てないの?投票は?」
「ランキングー?投票ー?なんじゃそりゃ?」
「新聞部主催の人気投票だよ!そうだ匠ちゃんてば高等部のことほんと何も知らないんだ…」


ちゃんと教えてあげればよかった、とのむちゃんは何やら一人で反省していたけれど、もし知っていたとしてもその人気投票に僕が投票するとも思えないから別にいいよ。


「抱かれたいランキングはぶっちぎりで会長だったんだよ、その次が副会長ね。でも副会長の場合は抱きたいの方に票がいっちゃってるからなー、人気自体は会長とそこまで差はなさそう!」
「ふうん、そおなんだあ!」
「匠ちゃん自分に関係ないみたいな顔してるけど、学年別集計でランクインしてたからね、匠ちゃん!」
「え、えええー?」


1位は真中雪ちゃんでしょ、2位は蘭ちゃんで、と指折り教えてくれるのむちゃん。

雪ちゃんが1番かあ。かなり納得感がある。この前の歓迎会でも目立っていたし。


でもなんで僕までランキングに入ってるの!いつのまに!投票される側は勝手にエントリーされちゃうわけ?!



「それランクインすると何かいいことあるのお?」
「んー、有名になれる?親衛隊ができたり?」
「げげげげげ!親衛隊!」
「もちろん拒否はできるよ、それに他の人の親衛隊に入ってたら基本的には作られないし」
「なるほどお…」


やっぱり親衛隊に入るべきだなこれは。急務!!!


「あとは生徒会に入る近道だね。村崎慶が生徒会になったのもランキングに食い込んだからだろうし」
「村崎くんは会計さん?」
「そうそう。…んん!あとはこの前のクイズラリーもさ、もしかして判断基準だったのかな?!僕としたことが!こんなことに気づかないなんて!」


いやいや、ふつう気がつかないとおもうけどね?




「あ、ほら!村崎慶!」


会場について、僕たちは2階から観戦することにした。1階にはたくさん人がいたけれど、2階はまだ少なかったから、最前列で見られる。


コートを見下ろすと、確かに村崎くんがバッシュの紐を結んでいるところだった。まだ試合は始まらないみたいで、両チームともそれぞれ準備してるみたいだ。

いっちーはどこだろう、と目を走らせる。


「おーーーい!!」
「ちょ、のむちゃんっ」


何をおもったのか、もうすぐ試合か始まるという、ちょっと緊張感がはしるこのタイミングでのむちゃんがいっちーに向かって手をぶんぶん振っているよ。目立っているよ。

いっちーは相手チームの茶髪のひとと話していたけれど、こちら側を向いていたからすぐに気づいてくれた。


「野村!橋本!」


いっちーがこちらを見上げるのと同時に、いっちーと話していた人が振り返った。


「っ」
「!」


僕は、息を飲んだ。


それはのむちゃんも一緒だったみたいで、目をまんまるにしているのが目の端に映る。


いっちーと話していた茶色い髪の人は、一哉だった。元々高かった身長が、また少し伸びている気がする。だって前はいっちーより、低かったはずだもの。今は同じくらい高い。印象的だった黒髪も、今は明るい茶色に染められていて。


「なんか雰囲気変わってない…?」


ぽつりとのむちゃんが呟いて、僕は頷いた。黒い髪、似合っていたのにな。もったいないな。そんなどうでもいいことを考えた。


「、」
「集合ーーーー!!!」


一哉が僕の方を見て、目があって。彼は口を開いた。けれど声を発する前に、集合がかかって、僕は内心ホッとした。


思い出が、ちらつくようなことはなさそうだ。僕が知っている一哉とは、全然雰囲気が違くて、どちらかというと響会長の漆黒の髪の方が以前の一哉を思わせるくらいで。

…ってなんでここで響会長?

ぶんぶんと頭を振って会長を追い出すと、試合が始まるところだった。


「礼!」


コートの外に両チームが集まって、試合前の挨拶をした。いっちーはスタメンらしく、きりりとした顔でコートの中へ。黒いヘアバンドで前髪をあげてるからおでこが出ていて、なんかかわいい。

でも試合が始まると、「かわいい」は撤回せざるをえなくなった。目が追いつかないほどのスピードで鮮やかにゴールへ向かういっちーは、ものすごくかっこいい。


「がんばれーー!」
「きゃあーすごい!かっこいいー!!!」


のむちゃんといっしょにきゃあきゃあ言いながら、試合観戦。やっぱり僕たちミーハー族です。

prev / next


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -