自分の身体の下に組み敷いた財前のきょとんとした顔を見ていたら、段々これが夢なのか現実なのか分からなくなってきて。
もう正常な判断をできる状態になかった。まるで自分以外の誰かが勝手に喋っているみたいだった。

「…なぁ、財前。自分こういうとこ来るの初めてや言うてたやろ?」
「…は?何やねん急に。」
「ほんならこういうことすんのも初めてなん?」
「ちょお、退いてや。重い。」

暴れようとする財前の手首を上から押さえ付けると、ベッドのスプリングがみしりと音をたてた。
それでも彼はさほど慌てる様子もなく、憮然とした表情で俺を見上げていて。
何となく、その顔を歪ませてやりたいというような嗜虐心が自分の中に沸々とわき上がってきた。

「…俺が気持ちええこと教えたろうか。」
「は?何血迷っとんねん。」
「ホンマのキスはしたことある?」
「ちょお、ふざけんのもええ加減にして下さ……ん、んっ…!?」
「……………。」

これは…予想外というか、期待以上のものがあった。感動すら覚えた。
無理矢理重ねた唇は薄い割に柔らかくてしっとりしていて気持ちがいい。女の子と全然変わらない。
そして何より今、こんな場所で、女の格好をした後輩を無理矢理ベッドに押し倒してキスしている。
その事実が俺をどうしようもなく興奮させていた。

「…ん、財前…くち、口開けて?」
「………ッ…し、ねっ…!」
「う、…ぎゃぁぁー!」

やっとのことで開いた口に舌をねじ込もうとしたところをがぶりと噛られ、俺は痛さのあまりベッドの下に転げ落ちた。

「い、ちょ、血ぃ出るやんか!何すんねん!」
「そっちこそ何する気ぃや!謙也さんの癖に生意気な口ききよって。キモいねん!」
「はぁ!?な、なま…?きも…?お前なぁ、後輩の癖に先輩に向かって何ちゅー…」
「いたいけな後輩に手ぇ出すような変態は先輩とは認めません。」
「………はい。ごもっともです。」

なんてことだ。キスくらいはその場の雰囲気でさせてくれるかと思ったのに。
やっぱり可愛く見えても財前は財前だった。
でも残念なことに俺の分身はすっかりやる気になっているのだ。もう既に手は出してしまったし、このまますごすごと何もしないで引き下がる訳にはいかない。
ヘタレと呼ばれることも多い俺だが、たまには強引にキメたい時だってあるんだ。

かくなる上は……

「一発ヤらせて下さい。お願いしますっっ!」
「……あんたにはプライドってモンがあらへんのですか。」
「せやかて!彼女もしばらく居らへんし、合宿で忙しくて抜く暇も無かったからめっっっちゃ溜まってんねん!めっっちゃ欲求不満やねん!そんな時にお前がそんなモン着てるから悪い。」
「………………。」

思わずストレートに欲望を伝えてしまったからてっきりうざいとかキモいとか死ねとかそんな罵声が浴びせられるかと思ったのだが、意外にも財前は俺の言葉を受けて何かをじっと考え込んでいた。
どうやら機嫌は悪くない様子だ。もしかして案外押しに弱かったりするのか?もう一押しなのか?

「あれや。別に軽く考えてくれたらええねん。お前やってちょっとくらい興味あるやろ?」
「…俺、男ですけど。」
「そんなんわかっとるわ!男同士やからこうして腹を割ってぶっちゃけとるんやないか。」
「…もし……ええですよって言うたら、俺…女みたいに突っ込まれるんすか?」
「い、いやっ、そこまでせんよ。たぶん。ただちょっとお互い気持ち良くなれたらええなぁって、なっ!そんでスッキリして全部今日のことはこの場で水に流そ!忘れよう!旅の恥はかき捨てっちゅーやつや。」

自分でもよく意味の分からない事を言ってる気がしたけど、財前にとっては何故かそれなりに納得がいくものだったらしい。
普段はえっちな事になんてこれっぽっちも興味ありませんよみたいな済ました顔してるくせに。
彼は少し考えた後、ベッドに腰掛けて、床に這いつくばってる俺を見下ろして『ちょっとだけなら、ええですよ。』と小さな声でそう言った。
天地がひっくり返ったかと思った。

「ぅえっ、ホ、ホンマにっ!?ええの!?意味わかってる!?」
「……さっきのキス、まぁまぁ気持ちよかったから。そんだけっすわ。」
「…え、えっと。ほなごめんやで。ちょっとだけえっちな事させてな?」

とは言ったものの、さっきは勢いで押し倒してしまったからよかったけども、いざ手を出していいとなると途端に緊張してくる。
財前に近付くにつれて鼻息がどんどん荒くなる俺の視界に飛び込んできたのは、やはりベッドから無造作に投げ出された細い足だった。

「…お前めっちゃ足綺麗やな。すね毛無いし。」
「それ全然うれしないんですけど。ちゅーか、すね毛くらいちゃんとあるし。」
「うん、うん…綺麗や…。」

スカートからすらりと伸びた足に、床に跪いたままゆっくり手を伸ばす。
感触を確かめるように太股の辺りを数回撫で上げると、財前は小さく身を捩らせた。

「ちょぉ、変態オヤジみたいな真似せんで下さいよ気持ち悪い。」
「せやかて、お前の足、すべすべしてて冷やっこくて気持ちええんやもん。舐めたい。」
「は、えっ、ちょ……!」

言い訳をすればこんな変態じみたことをするつもりは無かった。
でも目の前に投げ出された彼の足が本当に美味しそうに見えてしまって。
片足を持ち上げると足の指につうと舌を這わせた。

「…ッ…やめっ…こ、こそばいっ…!」

財前が足をバタつかせるのでスカートが捲れて中が見えそうだったが、残念なことにしっかりと両手で押さえていた。
しかし見えそうで見えないのもまた興奮する。
蹴られないように注意しながら、親指を口に含むと細っこい足がビクンと震えた。

「……ッ…ぅ…!!」

くすぐったいのを我慢してるのだろうか。それとも感じているのだろうか。
必死に唇を引き結んでいる財前の顔はみるみるうちに赤くなった。
やばい。かわいい。なんだこれ。

「……なぁ、気持ちええ?」
「…ッ、ええ訳あるか!こそばいっちゅーねん!」
「ホンマに?ホンマにこそばいだけ?」
「む、かつくっ……!」

財前が強気な口をきけたのもそこまでだった。
顔を見たままわざと音を立てて指をしゃぶると、彼は口元を手で押さえて押し黙った。
足の指の間に隈無く舌を這わせて指を口に含んだりキスしたり、まるで性器を愛撫するように熱心にそこを舐める。

「………ッ……!!」
「…かわいい…顔真っ赤やで。」

揶揄うように言うと目まで潤んできて、本当に可愛いと思えて仕方がなかった。
こうなるともっと快楽に直接結び付く部位を舐めたらどうなるんだろうという興味が湧いてくる。
足首、ふくらはぎ、膝、太股、と順番に唇を落としながら足をするすると撫で、ついにスカートを捲り上げようとしたその時だった。







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