『おーすごいなぁ!俺こんなとこ入るの初めてや!』
『俺やって初めてやし。』
『はぁ。どうせやったら可愛え女の子と来たかったなぁ。』
『……その台詞、そっくりお返ししますわ。』
『おっ、何や!普段俺らがそういう話しててもだんまりな癖に。さてはお前!ムッツリ財前君やな!』
『………………うざ。』

何はともあれ大人の引率なしに二人だけで外泊するという状況が楽しくて、俺はとにかくはしゃいでいた。
このいかにもらしいダブルベッドを見ても男二人でこんなとこ寝るとか笑える、くらいにしか思っていなかったのだ。
それが変わったのは本当についさっき。
財前が寒いからゆっくり風呂に浸かりたいとか言うので、先にシャワーを浴びてベッドに寝転がってテレビを見ていたのだが。
しばらくして財前が、バスルームから首だけ出してこちらに声をかけてきた。

『……ちょお、謙也さん。謙也さん。』
『んー?どないしてん?』
『そっちに他にルームウェアとか…あらへんですよね…?』
『いや?バスルームの引き出しにちゃんと入ってたやろ?これちょお下スースーするけどな。』
『…や…こっち何や変なのしかあらへんのですけど。』
『うんーー?』

部屋着として置いてあったのはYシャツの丈を長くしたような、至って普通の、味も素っ気もない代物で。
変といえば変だけどホテルの部屋着だしまぁこんなもんだろう。
だからこの時は着るものに拘りがある財前が贅沢を言ってるとしか思わなかったのだが、『変なの』と彼が形容したその部屋着を見て俺は盛大に噴き出した。
腰にタオルを巻いた状態で浴室から出てきた彼が、眉間に皺を寄せながら手に持っていたのはなんと、コスプレ用のセーラー服だったのだ。

『…ルームウェアの代わりに、奥にこんなん入ってましたわ。』
『ぶっ…わははは!!ええやん財前!!めっちゃ似合うと思うで!!』
『人ごとやと思って。そっちと交換してくださいよ!』
『いやいや、俺が着たら破けるかもしれへんやん。』

なるほど。自分の彼女に着せてそういうプレイをするためにこんなものが置いてある訳だ。流石はラブホテル。サービスがいい。
本来の用途はさておき、俺はもう愉快で仕方なかった。
普段生意気な口ばかり叩くこの小憎たらしい後輩がラブホで女装するなんていう間抜けでおいしすぎる姿をどうしてもカメラに収めてやりたくて。
濡れた服が乾くまでの辛抱だ、とか裸よりは暖かくていいじゃないか、とか学祭でも女装したんだから今更恥ずかしがる必要ない、とか腹の底からこみ上げてくる笑いを堪えて必死にフォローしまくった。

それが自分の首を絞めることになるとはこれっぽっちも思わずに。

『…はぁー、もうええわ。だんだんめんどなってきた。ちゅーか、絶対誰にも言わんで下さいよ。』
『大丈夫大丈夫!謙也さん嘘つかへんで!』

こんな面白いこと黙っていられるはずがあるかと内心舌を出していたのだが、着替えを済ませてバスルームから出てきた財前を見て俺はカメラを向けるどころか声を発することすら忘れてしまったのである。

そして話は冒頭に戻る、と。

「……なぁ、どれがええですか?ウイイレとかもあるけど。」
「えっ、あっ、お、おぉ、ウイイレな!うん、ウイイレな!そ、それでええで!」
「謙也さんウイイレ下手くそやからなぁ。ウイイレ以外も下手やけど。」
「あ、あほっ!これでも翔太よりは強いっちゅー話や!」

とか何とか軽口を叩きながらも俺の目は財前の身体に釘付けだった。身体というか主に足に。
当たり前だけど彼は男だからスカートを履いているというのに何ていうかあまりに無防備で無頓着で。床に四つん這いになってゲームソフトを入れた時に見えた腿裏が眩しすぎたり。
今だってベッドの上で胡坐かいてコントローラー握りしめてるけど、スカートが見えるか見えないかっていうギリギリのラインまで捲れ上がっている。眩しい。
そういえばあの下は何も履いていないんだろうか。ちなみに誰も知りたくないかもしれないが、俺は何も履いていない。濡れた下着と服は窓際に一緒に干してある。あいつも下着の替えなんて持って来ていないはずだし。やっぱりノーパン…。
いくら見た目が女の子みたいに可愛くてもついてるもんはついてるから、もしかしたら見えたらガッカリするのかもしれないけど、それでもノーパンという響きは魅力的だった。やばい。鼻血でそう。
あのスカートの中には男のロマンが詰まっている。例え中身が俺と同じものだったとしてもノーパンであるというその事実がもうロマンなのだ。そんな可能性を秘めたものがすぐ隣にチラチラ見えてたら集中なんてできるはずない。

「ちょお、謙也さん弱すぎるんやけど!真面目にやってます?」
「お、お、おう!めっちゃ大真面目やでっ!」
「弱いくせにボーっとしよって。随分余裕やないですか。いっつももっとわぁわぁうるさいくせに……」
「…………か、かわいい…」

不機嫌そうに眉を吊り上げた財前があれやこれや文句を言ってきたけど俺にはもう途中から聞こえてなかった。
だってあんまりにも顔を近づけてくるから。
セーラー服を着てるだけで顔はいつもと何も変わらないはずなのに、薄い唇とか真黒い目とかが妙に色っぽく見えてきてしまって。
あれこれ考えるよりも、もう自然に身体が動いてしまっていた。

「…………は…?」

財前がそんな声を上げるのももっともだと思う。自分でも自分に言いたい。何をしてるんだお前はと誰かに後頭部を思いっきり叩いて貰いたい。
でも何ていうかもうだめだ。だってここはラブホテルなんだから。頭を叩いてくれる誰かもいないし。ゲームをするよりももっと相応しい事があるのだ。







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