137億年目の


普通に考えたら信じられないことかもしれないけれど、この疑いは確信に近い。


部活が休みの放課後、謙也さん家の謙也さんの部屋でいつものようにだらだらとくつろいでいるように見せて、実はどうしても気になることが頭の中を占領していた。
ベッドの上に寝転んで雑誌を読む謙也さんを、ちらりと盗み見る。その様子は至って普通だ。だからこんな疑いを持つなんておかしいのかもしれない。だけどこのまま確かめずにいるのは難しい気がした。中学を卒業した後もずっと一緒にいるつもりだから、だから今確かめるべきだと思う。

もたれていたベッドから背中を離して、上半身を謙也さんの方に向けた。謙也さん、と呼べば、んー?と適当な声が返ってくる。こっちのほうを向いてくれなかったけど、それでもいい、と決心して続けた。



「謙也さんって、人の心を読めるんですか?」

暑さで頭やられたんちゃうか、とか、寝ぼけとんのか、とかそういうつっこみが返ってくるなら、そこでこの疑いは無かったことにしようと思っていた。思っていたのに、謙也さんは手にしていた雑誌をベッドの上にばさりと落とし、目を丸くしながらこちらに顔を向けて口を開いた。

「な、なんでわかったん?」
「否定せぇへんのですか」
「え、あー、しもた、否定すりゃよかったんか……」

項垂れる謙也さんのうなじのあたりをぼんやりと見つめながら、この疑いに至った出来事を思い出す。






一番最初に違和感を覚えたのは、一年生の夏、付き合い始める少し前だった。


「疲れてんなぁ、大丈夫か?」

部活で暑さにバテて休憩時間に日陰で休んでいたときに、謙也さんがポンと肩に手を置いて顔を覗き込んだ。大丈夫です、と言う前に、謙也さんがその場を離れて部室のほうへ走って行き、戻ってきたと思ったらその手にはペットボトルが握られていた。

「ほれ」
「これ、謙也さんのやん」
「今日持ってくんの忘れたんやろ?」

言われた通りだった。身体から水分が抜けてしまったのかと思うくらい喉が渇いていたけど、こんなときに限って飲み物を持ってくるのを忘れていた。でもそんなこと、誰にも言っていなかったし、そんな素振りもした覚えはなかった。なんでわかったのだろう。そう思いながら差し出されたペットボトルを受け取った。



その後も、謙也さんはまるで俺の心の中を見透かしているかのように、気が利くという言葉で片付けるには余る程、俺がしたいと思っていることや、してほしいと思ったものを口に出す前に先回りしてやってくれたり、言い当てたりした。部活の自由練習でダブルスの練習をしたいと思っていたら謙也さんから誘ってくれたり、部活帰りに白玉ぜんざいを食べたいと思っていたらコンビニに買いに走ってくれたりとか。付き合い始めてからも、好きだと心の中で呟いたら繋いだ手をぎゅっと握ってくれたりとか、キスしたいと思ったら謙也さんからしてくれたりとか。






「しかも、触って目を合わせてるときだけ読めるんですよね?」
「何なん、その観察眼」

心を読まれたときのことを思い出せば、肩に手を置かれていたり、手を繋いでいたり、どのときも触れられていた。

「当たりですか」
「……うん」

謙也さんが渋りつつ認める。疑いは事実だった。本人が認めたなら、事実だと受け止める。一般的に考えたら信じられないことだけど、信じる。

そして、今の的外れな言葉を訂正したくなった。心を読んでいないからって、こうもずれているとは。

「言うときますけど、観察眼とか関係ないですからね」

謙也さんに背を向けて、呟くように言う。

「好きな人のことを知りたいと思うのは当然のことで、気になることがあればわかりたいと思うのも普通やろ」
「……ほんまに?」
「ほんまです」

久しぶりにそういうことを口にしたから恥ずかしくて、謙也さんの顔を見られなかった。

しばらく無音の空気が流れてから、もたれていたベッドが急に揺れる。謙也さんが寝転んだ体勢から起き上がって俺の横に座ったからだ。横と言っても謙也さんはベッドに腰を掛けた状態だから、見下ろされる形になる。

「俺、光に知って欲しいことがあんねん」

真剣だけど不安そうな顔に、こちらも不安になって自分もベッドに腰を掛けた。謙也さんは心を読める人だった。それ以外にまだ知らないことがあるらしい。しかもそれ以上に重大なことだということが、見つめてくる瞳からわかった。

「何ですか?」

恐る恐る尋ねる。怖い。でも好きな人のことだから、知りたい。




「俺な、宇宙人やねん」

聞かされた一言は想像をはるかに越えていた。言葉を返せない。いつものノリで言われたら、新手のギャグですか、とかつっこんだりできるけど、そんな流れではなかったはずだ。
黙ったまま目をぱちぱちさせることしかできない俺を見て、謙也さんは、信じられへんよなぁ、と言って苦笑した。

「元々、地球からちょっと離れた星に住んどって、今は調査みたいなもんでここに来とる」
「はぁ、」
「ここの言葉で言うたら、高次元生命体っちゅーやつで、今は次元を人間に合わせて擬態しとんねん」

そう言って、謙也さんは右手を俺の目の前に持ってきて、その指先を消して見せた。消えたところに触れようと手を伸ばしたけど、ただ宙を掴むだけで感触はない。

「こんなこと、簡単に教えてええんですか」
「光に余計な嘘つきたくなかってん」

消された指先が元に戻っていくのを見つめる。完全に修復されてから触れてみると、今度は普通に触ることができた。温かい、血の通った指先になっている。

「好きな人には、ほんまのこと、言わなあかんって思ったから」

“ほんまのこと”は、さすがに予想できなかった。信じがたいけど、目の前で見せてくれたことを受け入れる他ない。







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -