「いつですか?」
「何が?」
「ここに来たのは、」
「忍足謙也としては…10年くらい前やな」
忍足謙也としては、という言い方に引っ掛かって疑問の表情を浮かべた。それを見て、少し考えるような顔をしてから謙也さんが口を開く。
「地球に来たのはもっと前」
「前?」
「もう200年くらいになるなぁ」
「別の人として生きてたってことですか?」
「アメリカ人やったり、ハンガリー人やったこともある」
まず周囲の人の記憶を弄って、そこに最初からいた人として生きて、普通の人間と同じくらいの寿命まで年月を経たら形式的に死んで、別のところでまた別の人として生きるというのを繰り返してきたらしい。そのやり方が一番人間のことを知れるそうだ。確かに、コミュニティを作り互いに関わり合いながら暮らす人間を知る方法として、そこに紛れて生きることは悪くはないと思った。
「今までバレたことなかったんですか?」
「なかったなぁ」
俺が見抜いたのは心を読める能力だけだったけど、ただの中学二年生にバレたのに他の人にはバレないでやってこれるなんてこと、可能なのだろうか。
「光が初めてやで」
「ほんまですか?」
「ほんまやで」
疑う俺に、謙也さんがはにかむ。
「こんなに俺のことを知ろうとしてくれる人に出会ったのは初めてやねん」
顔に熱が集まるのがわかった。恥ずかしいけど、目を逸らせない。
「ほんで、俺が、こんなに俺のことを知ってほしいと思ったのも初めて」
真っ直ぐに、嬉しそうに言うから、胸がきゅんと鳴った。200年という時間の中で初めて謙也さんの本当の存在を知ったのが自分だということが、とても意味のあることのように思える。
「今何考えとる?」
本当のことを知れた嬉しさについ黙ってしまったことが、謙也さんを不安にさせてしまったらしく、顔を覗き込まれた。
「触って確かめたらええやないですか」
「ええん?」
今まで勝手に心を読んでいたくせに、妙に遠慮している。返事をする代わりにこちらから触れた。
好きな人のこと、知れて嬉しい。
思ったことを読んだらしい謙也さんが、むず痒そうに口元を歪める。
「不思議な気分や」
「そうですか?」
「相手が読まれるのを知っとるっちゅーのは初めてやし」
自分の気持ちはどんな風に伝わっているんだろうか。経験したことのない感覚だから興味がわく。
文字を読むようにしているんやろか。声が聞こえるようになっているんやろか。
「説明すんのはムズいねんなぁ」
「どっちでもないってことですか」
「うーん…、せや!俺の心読んでみる?」
「出来るんですか?」
「人間相手に読ませるんは初めてやけど、たぶん出来る」
いくで、と手を握られる。目を合わせると、触れている指先から温かい液体みたいなものが全身を駆け巡って、脳に到達した途端に謙也さんの声が聞こえてきた。
『聞こえる?』
「き、聞こえた」
「ほんまに?」
ひとつ頷く。耳から入ってくるいつもの声とは違うけど、確かに謙也さんのそれだった。初めての感覚に素直に驚いていると、今度はさっきよりも温度の高いものが身体の中を流れた。
『可愛い反応やなぁ』
言葉が届いた瞬間、全身が震える。
「っ、うぁ、」
「光?」
今流れたものの熱が、身体の内側からじわじわ体温を上げていく。気持ち良いというか、ムズムズするというか。
「ぅあ、アカン、……っふ、ぁ、なに、これ」
「え、何、どした?」
「わからへん、身体、あつい」
座っていられなくなって、謙也さんのほうへ倒れ込む。
「ひ、ぁ、……っ」
抱き止めてくれた腕の触れたところから、全身に快感が走った。自分の身体が自分のものでないような気がして怖くなる。
たすけ、て、謙也さん。
すがるようにその目を見ると、宥めるように謙也さんが背中をゆっくり撫でた。
「あ、ぅ、」
それすら敏感に反応して、声が漏れる。パンツの中で自分のものが勃って、苦しくなってきた。早く楽にしてほしい。
「もしかして、さっきのが何か変な作用を引き起こしたんやろか」
謙也さんが優しくベッドに押し倒しながら、頬に触れてくる。
そんな考察なんて後でええから、はよイきたい。イかせてほしい。
涙目で訴えると、謙也さんはごくりと唾を飲んだ。
「エロすぎやろ」
「ええから、も、」
ズボンとパンツを一気に脱がされて、勃起したそれが露になる。直接触れられたわけではないのに、もう限界が近づいていた。
「はぁ、ぁ、もぉ……っ、」
先走りで濡れて震えるそれを謙也さんが手のひらを使って扱こうと触れる。
「あ、ぁっ……っ!」
もうその一瞬の刺激だけで十分だった。触れた途端に弾けるように、イってしまった。