春が来ても来なくても





7万打フリリク企画
謙光で切甘
白星巡さまリク












俺は弱い。本間に弱い。謙也さんがおらんと真っ直ぐ前さえ見れへん弱い奴や。そのかわり、謙也さんさえおれば真っ直ぐ前も見れるし、何だって出来る気がするのに。


「っ、はぁ…はぁ…」


全国大会が終わった。謙也さんは、俺より一年早く引退する。俺より一年早く卒業して、俺より一年早く高校生になる。謙也さんは府内の高校に推薦で進学する予定やし、俺も来年そこを目指そうと思っとる。


せやけど、少なからず離れて行くのは間違いのない事実やった。謙也さんの世界はどんどん広がって、俺の存在は謙也さんの中でどんどん小さくなっていくんやろう。


引退したあとも荷物置きっぱなしで汚かった謙也さんのロッカーは、今日覗いてみたら綺麗に片付けられていた。俺の隣は、もう空っぽ。そのかわりに、謙也さんが使っとったグリップテープの残りが俺のロッカーに入っとった。きっと謙也さんが俺に余りあげようとしたんやろな。

俺は急に現実を突き付けられた気分になって、なんとかその思考を振り払いたくなって、外周をがむしゃらに走った。練習はもう終わっとるけど、もうええねん。部室の鍵を持っとるのは部長である俺やから。白石部長や、ないから。ほら、みんな離れてく。







随分長い間走っていた気がする。俺は水呑場の前にへたりこんだ。喉はカラカラで、水が飲みたいのに蛇口まで行く気力が残ってない。


「げほっ、ごほ…かはっ、ごほげほっ、」


思わず咳込んで涙目になった。そしたら、背中を誰かにさすられて。


「光、大丈夫か?」


あぁ、俺の大好きな謙也さん。


「けん、や…さん、」
「久々に光と一緒帰ろう思ったんやけど部室おらんかったからちょぉ探したで。光、頑張っとんのやな。偉い偉い」


頭の中ではいつでも四六時中考えとるけど、顔を見るのはかなり久々な気がする。頭を優しく撫でられて、流すつもりはなかったのに涙が零れる。謙也さん、俺はグリップテープなんて欲しくないんだよ。というよりも、欲しいものなんて何にもない。
あんた以外は。



「ちょ、光?!どうしたん?泣くほど体しんどいん?」
「っ、けんや、さん…すきです…すきなんです、」
「え、ひかる…?」


「なんにもいらへんからどこにも行かないで!!」


大きい声を出したら余計に涙が出てきて謙也さんの顔が見えなくなった。でも泣いてなかったとしても謙也さんの顔はどうせ見られへんかった。やって、ぎゅーって抱きしめられとったから。



「光、寂しい思いさせてごめんな」
「っく、うぅ…」
「もうすぐ推薦受験終わるさかい、そのあとはずっとずっと一緒におろうな。そんで俺が高校入ったあとも校門まで毎日迎えに来たるから一緒に帰ろうな。朝はチャリで迎えに行ったるから学校一緒に行こ。あと土日はうちに泊まりきてな?」



俺は考えすぎとったのかもしれへん。謙也さんが俺の一年先を生きるのは変えられへん事実やし、とっくに受け入れたはずやったのに。



「謙也さん、おれ、寂しかったです」
「うん、ごめんな」
「受験終わったら、きちんと埋め合わせしてくださいね」
「おう!光が離れたい言うても離してやらへんからな!」




何にも要らないなんて、やっぱり嘘。でっかいオーディオも欲しいし新しいパソコンも欲しい。それに、今年は絶対全国制覇したい。俺やって俺の世界があるんや。


謙也さんが傍におってくれることは、もう望まない。やって、そんなのもう決定事項やもん。



受験が終わるまでは我慢しようと思っとったけどもうええわ。誰に見られとっても構わん。この人は俺のもの。

晴れやかな笑顔しとる謙也さんの、俺の前だけ見せる顔が見たくて、唇に噛み付くようにキスしてやった。














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リクエストありがとうございました!





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