4.蝶が止まるは赤い花






・「この花散るは誰がため?」「願いは実しやかに」「悪の非愛は如何程か」の続きです
・光が遊女です
・これで完結!












「小春さん、今までお世話さんでした」
「ええんよ、光。今まで本間によぉ頑張ったね。元気でおってな?」
「はい、小春さんにやさしゅうしてもろたことは一生忘れません」


遊女としての俺の仕事は終わった。どうやら海軍のうちの一人が俺を引き取りたいと言ったそうだ。海軍に抱かれた覚えはないのだけれど、どうやら膨大な金を積まれたらしい。俺を稼ぎ頭やと言うたご主人は簡単に俺を手放す。まぁ別にどうだってええけど。


海軍のくせに遊女の俺を引き取りたいやなんて、よっぽどの物好きの親父か、頭がいかれているかどっちかだ。それか、もしかしたら俺を引き取るとか言うてここに来て、売春を取り締まるつもりかもしれへん(個人的な取引やと言うてはおったらしいが)。

別にもう俺はどうなったって良かった。現世で幸せになることはもう諦めているし、辛いことも慣れた。これから今以上に酷い扱いを受けることになろうとも、もう構わない。きっと、家族やユウジさん、金を殺してしまった報いやから。謙也さんの夢を潰してしまった報いやから。千歳さんを傷つけた報いやから。



俺はその日、生まれて初めて夢を見た。大好きやった父さんと母さん、兄さんが笑ってて。ユウジさんは俺の頭を撫でて。謙也さんは俺に綺麗な着物を着せてくれて。千歳さんは京菓子をくれて、金は俺の腰あたりにぎゅうっと抱きついてきて笑った。そして俺は、みんながおることが嬉しくって大泣きやった。
(もうお前は、幸せになってええんよ)
この声は誰のもの?聞いたことがあるような、ないような。





次の日の朝、俺は今まで着たこともないような高級な着物に身を包み、綺麗に化粧をされた。

「光、いらっしゃったで。おいで」
「はい、小春さん」


小春さんに呼ばれて立ち上がると、耳元でこそっと囁かれる。
「光、よかったなぁ。あんたやっと幸せになれるわ…!」


小春さんが何を言いたいのかは分からんかったけど、とりあえずお礼を言うて前を見据える。扉を開けたらきっと、海軍のおじさまが立っとるから、微笑んで、なるべく気に入られるようにして…。そんなことを考えながら、扉を開けた。




目に飛び込んだのは、随分前に嫌いになったはずの太陽と、黄金の髪。



「光さん!遅なってすまんなぁ。迎え来たで!」
「は、え…、けん、やさん…?なんで、なんであんた、こんなとこに、」
「俺やねん。光さんのこと貰いに来た海軍って。」


島流しにあった謙也さんは、どうやら海軍隊長の乗った船に運良く救助された。そして、入隊の許可を貰い、今まで俺を買うためにせっせと働いとったらしい。


「光さん、久々に会うたけど、本間綺麗なまんまやな」
「…謙也さん、あかんです。俺は疫病神なんです。俺と一緒におったらあんた、死んでまう」
「疫病神がこんなにかわええわけないやんか!」
「俺なんかのために金使うて、俺なんかのために死ぬはめになりますよ?!そんなの俺が許さん!!あんたは何にも分かってへん!!あんたは幸せにならなあかんのです!!」
「せやから、一緒に幸せなろうや」
「やから何馬鹿なこと言うて…」


「なぁ光さん。光さんが嫌なら無理は言わん。でも俺は光さんと一緒におりたいねん。俺が島流しにあっても生きてられたのはな、光さんのおかげやねん。光さんのために頑張ろうって、そうやって今まで生きてきたんや。光さんに俺の命救われた。

この際光さんが疫病神やってなんやって構わん。俺はそれでもお前と一緒がええ。なぁ、光さんはどう?」



俺が、謙也さんの命を救えた?今までたくさんの人を傷つけてきた俺が?
昨日の夢の声は、神様?



「謙也さん、…傍にいても、ええんですか?」
「おう!当たり前やろ!」
「…絶対絶対邪魔にはなりませんから!…俺を、あんたの傍においてください…」


光さん、おおきに。
そう言って謙也さんは俺に優しい口づけをした。


今まで、幸せになったらあかんと思っとった。不幸でおることが俺の役割やって思っとった。でも本間は幸せに憧れてないわけがなくて。必要とされたくて、誰かを幸せにしたくて。



あたたかい風が吹く。空は一段と高い。真っ暗闇だった心は、今は明るくて。
父さん母さん兄さん、光は生きています。ユウジさん、俺を許してくださいね。来世は必ずやあんたと一緒になりますから。千歳さん、あんたは強いけど優しい。どうか傷つかないで。金、俺は今、ちゃんと幸せやで。



謙也さんが昔俺に一番似合うと言った、真っ赤な着物を身にまとった俺は思った。赤は血の色やない。幸せの色や、と。






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