哀色ボーダーライン(謙光/ちとくら)








「一瞬の永遠」の続きです
ちとくら悲恋注意です






「俺、光と結婚すんねん」

中学からの親友の謙也からそう言われたときは本当に驚いた。その光というのも中高部活が一緒で可愛がってた後輩であり、男やから。

「結婚って、お前」
「あぁ、もちろん事実婚やけどな」

謙也の父親は医者で、謙也が医者を継ぎたくないこと、男である光と付き合っとることを話したとき勘当されたらしい。

やけど謙也は諦めんかった。自分と光のことを認めてほしいと訴え続け、医者にならん代わりにそれなりの企業に就職した。光も光で自分の両親を説得したり、謙也の両親にも手紙を書いたりしてたんやって。従兄弟の侑士くんも協力してくれたとか。


謙也の弟くんが代わりに医大目指す言い出して、親父さんもやっと折れたらしい。二人の交際を認める、と。


「やっと親父が認めてくれたとき、光めっちゃめちゃ泣いたわ。出せんけど婚約届書いたし、指輪も買ったし。大黒柱やわ、俺」
「はは、本間によかったなぁ、謙也。おめでと」
「おう!おおきに!」
「今度光会いたいわ」
「遊び来たらええわ!光も喜ぶで」


二人はこれからも同じ苗字になることは無いし、子供やって授からん。それでも薬指には同じ指輪を付けて、一緒の場所に帰って。

うらやましいと思った。すごく、すごく。




俺にもむっちゃ好きな奴がおった。でっかくてテニスが上手くて、放浪癖があっていつもふらふらしよる。もうこいつには着いて行けへん、って思ってもあまりの優しさに気がつくとほだされる。あんないかついくせにトトロが大好きなんて可愛いとこもあって。それに加えて右目が見えとらんなんて、これは俺がずっと一緒にいてやらんとあかんなって思った。

実際はもう俺の隣にはそいつ、千歳千里はおらんくって、本当に思っただけになってしもたんやけどな。


俺達が別れた理由なんて簡単。立っとった道の結末が別々やったっちゅーだけや。俺は薬剤師の夢を叶えたくてそれなりに勉強もしたし(まぁそれなりに遊びもしたけどな)謙也みたいに世間体を捨てきれんかったってのも理由のひとつ。


そう、理由なんてひとつやない。いっぱいの原因が重なって、俺達は一緒におったら駄目になる、ていう結論に辿り着いたってだけ。

せやから、千歳が九州に帰るって言い出したことを攻めるつもりなんて無いんよ、千歳。







本間は、まだ好き。
千歳のこと忘れられる日なんて来るはずがない。謙也を見てて思う。俺も諦めなければよかった、と。本気で頑張れば、夢も千歳も離さずに済んだかもしれへんのに。


もしも。そうだったならば。いや、でも。
俺は今でも頭の中で繰り返す。毎日毎日、千歳の笑顔を繰り返す。


右目は、治った?
(俺が映ることはなかったけど)

今、誰と一緒におる?
(千歳も未だに俺を好きやったらええのに、なんて考える俺は最低)


千歳は、今幸せなんか?俺は、幸せや。仲間に恵まれて、夢も掴んだ。せやけど、「本当に幸せなんか?」ってもうひとりの俺が俺に問い掛け続ける。


千歳、千歳、千歳。
もし次千歳に会えたら、今度は絶対に離さへんから。
(帰って来て、と言えたらどんなに良いか)




「千歳、好き…」
声に出さないようにしてたのに。音になってリアル感が増したこの事実を俺は歯を食いしばって耐えるしかなかった。



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