真実しか要らないよ
・「優しい嘘でも嘘は嘘」の続きです
俺はいつも光を泣かせてばかりいる。俺が告白したときも光は嬉し泣きして、えっちのときも泣かせて、千歳に試合譲ったときも泣かせて、今日も結局泣かせてしまった。その涙の理由の根本的問題は、俺達が男同士だということにある。
あの後光は俺のクラスまで走って来た。さっきまで泣いてたから目が腫れとる。可愛くて可愛くて、俺は光をぎゅーってした。そしたら白石も一緒にぎゅーってしてきた。いや意味分からん。白石の変態め、光の匂い嗅ぐな!
噂は早いもので、もう「男テニの忍足と財前はできとるらしい」なんてまわっとった。俺は別に光以外のやつになんて思われてもええし。きっと分かってくれるやつもおるはずや。これで無駄なストレス感じずに済むし俺も光も告られんくなるやろ。一石二鳥や。
でも今回のことで気付いたことがある。光は俺が思ってた以上に俺のことを考えてくれとる。そして俺は思ってた以上に光のことを考えてやれとらんかった。俺は光が好きで、大好きで、それだけでええと思っとった。でも光は違う。周りからの視線とか、時には嫉妬もしたりしてすごく深く俺達の未来まで考えとったんやな。
ごめん光、本間にごめんなぁ。細くて俺よりもちっちゃいその体にいっぱいいっぱい溜め込んで、俺さえもお前を追い詰める要因になっとったかもしれん。本間にごめん。
「…さん、け…や、さん」
(ひかる、)
「けんやさんっ」
ハッとした。目を開けると光がいた。あ、そや…今日は光、俺んち泊まり来たんやっけ。
「……ひか、」
「どうしたん謙也さん、すごいうなされとった」
「うん、」
なんやめっちゃ熱い。すごい汗かいとるし。うわ、体ベタベタや。シャワー浴びたい。
「ひか、ごめんなぁ」
「…どうしたんすか」
「いっぱいいっぱい悩ませて、困らせて…それでもきっと光を嫌いになる日なんか一生来んわ。好きで好きで、しゃーないねん。俺、頼りなくてごめんなぁ」
「もう、何回も聞きましたわ」
「何が?」
「ごめん、って。謙也さんうなされながらずっと呟いとった」
「そっ、か…」
髪をかきあげて起き上がると目に溜まっとったんか、俺の目から一滴だけ涙が零れた。
そんな俺を光は抱きしめてくれる。熱い体に低体温なこいつが気持ちい。
「謙也さん。俺は別に困ってないし、好きな人のために悩むのは幸せなんやで」
「そうなん…?」
「そうや。俺のこと好きで好きでしゃーないんやろ?それでえぇねん」
「…光くんおっとこまえ」
「やって俺男やもん。あんたが好きになったのは、男の俺やし」
「はは、頼もしー」
「もう腹くくったわ」
俺は阿保や。こんなこと考えるなんて性に合わんわ。俺はもう悩まん。その代わり、泣きもせん。せやから光は泣いてええよ。辛い時は泣いてええんよ。
「謙也さん、いっこ約束」
「ん、なんや?」
「これから何があっても、絶対に嘘はつかんで」
「はは、そんなん当たり前やん」
俺はいっこも嘘つかんよ。光に真実を伝え続けるよ。光は世界で一番可愛くて、綺麗で、そんなお前を俺は愛してるっていう真実を。
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