今までと、これからと。
俺達の夏が終わった。全国という夢の舞台で完全燃焼、(まぁ俺達ダブルス以外は、の話やけど)これからはテニスから離れた生活が待っとると思うと憂鬱や。
「なぁ〜白石ぃ〜次はいつコシマエと試合出来るん〜?」
「そやな、まぁそのうち当たるわ。それより金ちゃん、今から流しそうめんやで」
「え〜!そうめんいやや、ワイ牛さん食べたい〜!」
「……金ちゃん、分かっとるんか?」
「なんや光、怖い顔して」
「お前が大好きな白石部長がテニス部におんのは今日が最後やで」
「ちょっと光!今はやめなさいよ…!」
「小春先輩もユウジ先輩も、千歳先輩も小石川先輩も師範も……謙也さんも、今日でおらんようになる。残されるのは俺とお前だけ、や」
「……嘘や、そんなん嫌や!嘘やんなぁ、なぁ白石ぃ!」
「金ちゃん…」
「みんな終いや、みっともないダブルス1も、今日で終い」
唇を震わせて目に涙をいっぱい溜めて、光は走り出す。俺はスピードスターなんや、あの涙が零れ落ちる前に、早く、速く。
「光!待ちや!」
光の腕を掴んで引き止めたとき、もう光はぼろぼろに泣いとった。あー失敗。零れてまったやんか。
「…あんたのせいやんか!なぁ、謙也さん、なんでなん…!」
光は泣いた。わんわん子供みたいに泣いた。鳴咽を漏らしながら、一生懸命言葉を紡ぐ。
「なぁ、なんで譲ったん?あんたにとって俺とのダブルスはそんなもんやったんか?
あんたの下っ手くそなテニスに散々付き合ってやったのにこの様、なんなん?
千歳先輩も千歳先輩や、だから嫌いやねんあの人!
もう嫌や、謙也さんなん…だいっきらいや!どこへでも行ってまえ!」
まだまだ言い足りなさそうやったけど俺も泣けてきてまって堪えれんくって光を抱きしめた。
「勘忍なぁ光、本間ごめんやで、ごめん…」
光も俺も涙と鼻水で顔ぐちゃぐちゃにして泣いて、泣いて、泣いて。俺達のみっともない鳴咽や鼻を啜る音だけが響く。それを破ったのは光やった。
「けんや、さん、すんません」
「ひか、」
「さっきの、全部、嘘っすわ」
「え…」
(あんたの下っ手くそなテニスに散々付き合ってやったのに)
「謙也さんとのテニスが、謙也さんのテニスが、好きやったんです」
(千歳先輩も千歳先輩や、だから嫌いやねんあの人!)
「憎くて憎くてしゃーないはずの千歳先輩のこともなんや嫌いになれん、俺は中途半端なやつや」
(謙也さんなん…だいっきらいや!)
「謙也さん、本間は、本間に、大好きっすわ」
(どこへでも行ってまえ!)
「俺から離れていかんで、何処にも行かんで…!」
「離れてなんかいかんよ、俺が好きなんは光だけや。なぁ光、高校行ったらまたダブルスやろうや、次こそ、俺とお前で、な」
「…謙也さん、俺のこと待ったってくださいよ。よそ見したら殺す」
手繋いで(これだって普段なら許してくれへんのやで!)みんなのとこ戻ってったら目真っ赤にした金ちゃんが駆け寄ってきた。
「なぁ光、ワイ分かったで!みんな今日で終いなんやろ。白石も謙也もユウジも小春も、千歳も銀も健二郎も、みんな今日で部活来ぉへんくなるんやろ」
「…………ぁあ」
「でもな、光が、おるやんか」
「…は、」
「ワイと、光が、おるやん。せやから、きっと大丈夫やんな、なぁ…っ」
それだけ言って金ちゃんは泣いた。勘忍なぁ金ちゃん、ほんま勘忍、って繰り返しながら光はまた泣いて。したらみんなそれが引き金になったみたいに泣き出して。悲しいはずなのに暖かい気持ちになって、思わずみんなで泣きながら笑った。
中学テニス生活に悔いは無い。まぁ一つだけあるとしたら、いっちゃん好きなやつとダブルス出来んでそいつを泣かせてまったことやな(こーゆーの自業自得言うんやろな)。せやから高校テニスでは絶対、今度こそこいつとダブルスすんねん。
「光、お願いやから同じ高校来てや、なぁ。」
「そんなん、当たり前やないすか」
「!(素直!めっちゃかわええ!)」
「ちょ、抱き着かんといてください!」
おおきにテニス、おおきに神様。こいつやみんなと出会えた俺は世界一の幸せもんやで!
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