優しい嘘でも嘘は嘘





ブスでもデブでもえぇから女やったらよかったのに。女やったら謙也さんと結婚出来たのに。そんな風に謙也さんに言ったことがある。

光は光のままでおってくれればええんよ。俺が好きなんは光だけやしな、俺は一緒におれるなら事実婚もええかなーなんてな。光はどう?なんて言われたときは嬉しすぎて泣いてしまった。未来永劫この人と一緒におりたいと思った。



今日は部活も休みやから謙也さんと善哉食いに行くねん。ご機嫌な俺は便所で髪いじっとった。そしたら廊下からたむろしとる女たちの声が聞こえてきた。

「えー!亜矢ちゃん謙也先輩に告ったん?!」
「うん…でも振られた。好きな子がおんねんて」
「亜矢ちゃんみたいな可愛い子振るなんて謙也先輩阿保やなー!」

うっさい黙れブス。阿保はお前やブス。謙也さんに話し掛けんなブス。しかし本間モテるんやな謙也さんは…。不安になるわ。

「でな、うちずるいと思たんやけど、好きな子ぉ誰か教えてくださいって、めっちゃしつこく聞いたんよ。納得出来へんかってん。聞いたら諦めますからー言うて」
「教えてくれたん?」

「それがな…財前くんらしいねん」

どくん。心臓からすごい音がした。手汗やばい。謙也さん、俺のこと言いはったんや。


「うっそー!財前くんってあの財前くんやろ?」
「やだ、謙也先輩ってホモなん?」

…………やめろ


「男同士やん、有り得ん」
「財前くん絶対迷惑しとるよな」
「うち財前くん気になっとるんよねー」
「美砂かわええしイケるんちゃう?!」

勝手なこと言うなや
お前なん絶対無理じゃボケ


「本間、うち振られて正解やったと思う。ホモなんこっちからごめんやわ」
「気持ち悪いしなー」

気持ち悪い?
謙也さんがか?
…気持ち悪いのはお前らやろが

「お前ら、えぇ加減にせぇよ」
これ以上は堪えられへんかった。

「やば!ざ、財前くん…」
「お前ら何勝手に謙也さんの悪口言うとんねんブスが。ふざけるのも大概にせぇよ。振られた腹いせに相手の人キモい言うなんてお前人好きんなる資格無いわ」
「ひどい…!」
「は、泣けば済むと思てんのか。酷いのはお前の顔と頭ん中や」
「光!!もうええから!」

誰からか騒ぎを聞いたのか(俺が人前で大声出すのなん滅多に無いしやな)謙也さんが駆け付けた。腕引っ張られて人目付かんとこ連れてかれる。俺本間に格好悪い。

一般ではカップルは男と女で成り立っとるとこが多い。男同士っちゅーだけで世間からの風当たりは強く、俺達はテニス部のレギュラーたち以外には黙っとった。周りの目を気にして。せやから「謙也先輩、財前くんが好きやねんて」なん聞いて本間は嬉しかったんや。


やけど、俺達は本気やのに、気持ち悪いて。気持ち悪いやなんて。やっぱりきついわ。

「光、落ち着いてや」
「やって、謙也さん気持ち悪い言われてんねんで、そんなん…有り得んし」
「大丈夫やで、大丈夫やから泣かんで」

気ぃ付いたらなんや泣いとった。あの女と一緒やん俺、本間嫌んなる。

「ひ、っ…やって、気持ち悪いやて。謙也さん、気持ち悪ないし……俺やって、謙也さん好きやし。俺のが気持ち悪いわ、俺が男なせいで謙也さんに辛い思いさせとる」
「ええよ、光は気持ち悪なんかない。光がそう言うてくれるだけで俺は幸せやで、辛くなんか無い。本間おおきに」

謙也さんは目尻にキスをして強く抱きしめてくれた。それと同時に俺は覚悟を決めた。

「謙也さん、俺達ホモカップルやって噂なったら勘忍な」
「阿保か、お前と一緒なら何言われたってええわ」
俺達は学校内で初めてキスをした。






「ざ、財前くん…さっきはごめんな」
「あぁ、あんたらさっきの阿保女」
「本間、悪気なかってん」
「お前ら謙也さんのこと気持ち悪い言うたよな?なら俺も気持ち悪いで」

俺謙也さんの恋人やねん。あの人のことむっちゃ愛しとる。

でかめの声でそう言うとそいつらはぽかーんって顔しとった。ばーかブースって吐き捨てて俺は教室を飛び出す。3年2組に走る。

世間の目とかもうどうでもえぇわ。謙也さんが一緒におってくれるなら。
走っとったらさっき泣いとったんが馬鹿馬鹿しいなって少し笑えた。



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