My Sweet Snow White was Born!




2012年財前誕生日記念










とある街。どうしても自分が一番美しくなければ気が済まない、という魔女がいました。魔女は毎日毎日魔法の鏡に聞きます。


「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番美しいのは誰?」


鏡の答えは決まっていつも同じ。


「それは、光。財前光です。」


魔女は怒り、血眼で光を捜しました。いろいろな人を雇って町娘全員を調べ上げ、隣の街にも捜索を進めました。しかし、光は見つかりません。
なぜなら、光は男の子だったからです。






My Sweet Snow White was Born!
(かなり脚色の含まれる白雪姫のパロディです)





「もー!なんで俺がこんなに逃げ回らんとあかんねん!」



魔女から憎まれ、探される。なんでこんな目に合わなければならないのだろう。光は途方に暮れました。第一、自分が美しい?そんなわけあるもんか、と心の中で悪態をつきます。このまま逃げ続けて、魔女に捕まえられたら自分は殺されるのかな。そんなことを思いながら隠れ場所を探していると、ある一軒の家を見つけました。鍵は開いていたのでおずおずと扉をあけると、中はかわいらしい小さめの家具がそれぞれ7つずつありました。今まで神経をピリピリさせながら魔女から身を隠していた光は途端に眠気が襲ってきました。まどろむ意識に逆らえず…次に目を覚ました時には。



「あー!白石ー!目ぇ覚ましたでー!!」
「よぉ寝とったばいねぇ」
「自分名前何て言うん?」
「やだ!起きたら更にかわええわ!」
「こ、小春〜!!」



7人の小人たちが光のまわりを囲んでいました。






どうやら光が訪ねたこの家は、7人の小人たちの家だったようです。光は今自分が置かれている状況を小人たちに話しました。彼らは快く光をかくまうことを提案してくれました。


はじめこそどうなるだろうかと不安だった光ですが、小人たちとの生活はとても楽しいものでした。しっかり者でみんなを取りまとめていて、健康オタクなお母さん的存在の白石。明るく元気でわんぱくでよく物を壊すゴンタクレだけど、いつのまにかみんなに笑顔をくれる金太郎。賢く計算高くかわいらしく、なんだかんだと言ってみんなの優しいお姉さん的存在の小春。小春のことが大好きで他のことには興味がなさそうに見えるけど、実は男気があっていざという時味方になってくれるユウジ。影は薄いが縁の下の力持ちでよく気が利き、頼りになる健二郎。あたたかく大きな心でみんなを見守る、小人にしては大きな体の銀。放浪癖がありいつもふらふら、白石に首根っこを掴まれてはしょっちゅう怒られている千歳。そして、誰よりも足が速く、表情が豊かで、情に熱く、太陽みたいに笑う謙也。そんな7人の小人たちとの暮らしは楽しく、幸せで、時を忘れるようなものでした。



その反面、光は何でも一人で溜めこんで考え込んでしまう癖がありました。部外者である自分。7人の素敵な小人たちは自分のことが邪魔ではないだろうか。彼らの生活の負担にはなっていないだろうか。そもそも自分はいつまで姿も知らない魔女なんかに追いかけられ続けるのか。そもそも自分は男だ。どこぞのおとぎ話みたいに王子様なんて助けに来てくれない。それと、もうひとつ心を占める大きな悩みがひとつありました。



「ひーかる。何しとんねん」
「謙也さん…」
「また星見とったんやろー。ホンマ好きやなぁお前。」



光は気が付いたら、小人の一人である謙也に特別な感情を抱いていました。いつだって一番に光の変化に気付き、いつだって光の心を救ってくれる。そんな謙也のことを気が付いたら光は好きになっていました。自分は普通の人間で、謙也は小人。第一自分は追われている身で、なおかつまず自分たちは男同士。問題は山積み、というよりは、問題しかない。物語のお姫様は必ず最後には王子様に助けてもらえるけど、自分はそうではない。そんなことは分かっていました。

でも、謙也はいつだって光のささくれ立った心を優しく溶かすのです。光はその度、謙也に甘えてしまいたくなります。本当は自分は平和に暮らしたいだけで、何も悪いことはしていなくて、みんなに迷惑をかけたいわけではなくて、第一今この瞬間だって何かしらの問題が起きてみんなを巻き込んでしまったらどうしよう、と気が気でなくて…そんなふうに心の内を全て話してしまいたくなります。結局光は素直になれないけれど、謙也の笑顔は光の心をいつだって軽くしました。
自分がもし物語のお姫様だったら、ううん、そんな贅沢は言わない、もし普通の女の子だったら、謙也に好きだという資格はあったのだろうか…そんな思いはいつだって吐き出せずに飲み込むしかありませんでした。









光の不安だけど楽しくて寂しいけれど幸せな生活は、そう長くは続きませんでした。7月20日、光の誕生日を知った小人たちはどうにかして光のお祝いをしようと考えました。内緒でパーティの準備をして、光をいっぱい笑顔にしたい。その一心で準備を続けました。


パーティの準備は無事終わり、小人たちは光を喜ばせることに成功しました。光は本当に嬉しそうにしていました。みんなで作ったおいしい料理を食べて、最後にみんなでリンゴを食べました。本当はケーキを用意しようと考えていた小人たちですが、みんなご飯は上手に作れてもケーキの作り方は知らなかったのです。そんな時、金太郎がリンゴを売っているおばあさんに出会いました。これは甘くておいしいリンゴだよ。じゃあ、8コ!今日なぁ、大っ事なやつの誕生日やねん。そうかい、それならこの一番大きなリンゴは一番甘くておいしいから、誕生日の子にあげてね。うん、おおきに!



甘いリンゴでした。甘い甘いリンゴでした。
魔女が、光を捕えるために準備した、甘いリンゴでした。


光はそれから、目を覚ますことはありませんでした。



















魔女は何故光以外の全員にもリンゴを食べさせたのか。それはカモフラージュのためではありません。魔女は、光を殺したわけではありません。



光は仮死状態を長い間続けていました。息はしています。ただ、ピクリとも動かないし瞳を開けることもありません。そして、小人たちは小人たちじゃなくなりました。


小人たちのリンゴには、成長剤が含まれていたのです。人間にずっと憧れていた7人の小人たちは、人間と同じ生活を手に入れることが出来るのです。小人たちはもし人間になったらやりたいことがたくさんありました。仕事をしてみたい。結婚なんかもしてみたい。テニスというスポーツがあるらしい。こうして小人たちはひとり、またひとりと森から出て行きました。一人の人間として、街で生きて行くことを選んだのです。それは仕方がないことでした。仕方がないことでしたが、とっても寂しいことでした。




そう。魔女が望んでいたことは、光の死ではありません。魔女が望んでいたことは、死よりももっときつい、“光の孤独”。大好きな小人たちから見離されて、森で、独りで眠り続けること。嬉しいことも悲しいことも分からずに、生まれ変わることも出来ずに、ただ眠り続けること。





それでも、たった一人の小人だけ、森から離れようとしませんでした。
謙也です。
謙也だけは、光のそばから離れようとしませんでした。自由を手に入れた今も変わらず、ずっと光の傍にいました。毎日光に話しかけて、笑いかけて。光が孤独にならないように。光が寂しくならないように。





光が眠りについてしまってから5年。今日は、光の誕生日です。光が眠りについてしまってからも謙也は毎年光の誕生日を祝いました。何度も何度も失敗しながら、ケーキを焼くこともできるようになりました。部屋を綺麗に飾り付け、ごちそうを用意しました。光は眠ったままだけど、光が生まれた日であることには変わりありません。他の小人たちは新しい生活を始めています。何度も謙也のところに来ては説得をしました。「謙也も一緒に街へ行こう。」「光のことも病院に預ければ安心だから。」それでも、どうしても謙也は光がそれを望んでいると思えずに、首を横に振りました。



森の中には謙也と光の二人だけです。謙也は何度も光に声をかけますが、返事は帰ってきません。一方的な会話を何度も何度も、今まで繰り返してきました。謙也の心ももう折れる寸前でした。




―――なあ、光。なんで目ぇ覚ましてくれへんの。


光が初め俺たちの目の前に現れた時、ホンマに驚いたよ。森の中にうかつに入ってくる人間なんてほとんどおらんかったし、何より光はホンマ綺麗やったし。今も綺麗やけど。


そんで、なんて寂しそうな顔するんやろって思った。


絶対俺たちの前では泣かなかったし、迷惑にならないようにしなきゃって考えてること丸わかりやった。それでも自分で思ってるよりもポーカーフェイスが下手くそなやつやった。寂しそうな顔とか不安げな顔とか、それを一生懸命隠そうとするところが憎らしくもあって、愛おしくもあった。


もっと頼ってくれたらいいのに。もっと弱音を吐いていいのに。俺の前で泣いてくれたらいいのに。


ホンマは5年前の今日、光に告白するつもりやった。
俺は小人やしなにしろ同性やし、叶うやなんて毛頭思ってなかったけど、それでも伝えるつもりやった。すきだよ、光、すきだよ。やから迷惑なんて思わんで。俺らがついとるから。光のこと一生懸命守るから。やから消えたりしないで。そう、伝えるつもりやったのに。



「なぁ、光。そろそろ起きてや。お前、いつまで寝とんの。寝顔可愛いのはもう分かったよ。はよ目開けて。なぁ。俺、まだお前に好きって言うてへんし。お前いつまでそうしとるん。俺、お前が起きるまで一生待つけど、それでもやっぱり、お前の笑った顔みたいよ…。」



謙也は両目からぼたぼた大粒の涙を零しました。光が眠りについてしまってから謙也が泣いたのは初めてのことでした。5年分の涙はなかなかとまってはくれません。



謙也は今までずっと我慢していました。泣くことも、光に触れることも。それでももう我慢出来ません。涙と一緒に愛しさが溢れて止まらないのです。好きだ。好きだ。好きだ。何よりも、好きだ。



抑えきれない気持ちが溢れて、そのまま勢いで謙也は光にキスをしました。あぁ、やっぱり光が好きだ。初めは触れるだけだったキスは少しずつエスカレートし、光の柔らかいくちびるに舌をぬるりと入れました。光からのそれは応えてくれることはなかったけれど、謙也はそれでも幸せでした。悲しい幸せでした。



「んっ!!」



ガタガタッ
夢中になってキスをしていたからか、謙也は光をベッドの上から突き落としてしまいました。頭を強く打ってしまったようです。



「うわっ!今ごっつい音した!光ごめんな!痛かったよなぁ!」
「………痛ぁ…」
「へ?」
「もー、何すんねん。」




光の瞳は謙也を捕えました。まっすぐこちらを見ています。確かにこちらを見ています。愛おしくて、愛おしくて愛おしくて仕方がなかった光が。ずっと話しかけてもこちらを見てくれなかった光が。




「光?ホンマに光?俺のこと分かる?」
「…謙也さん。」
「光、」
「うん、光です。謙也さん。」
「ホンマに?もう目ぇ覚めた?あのな、お前ずっと眠っとって、」
「うん、5年やろ。分かるよ。この5年間、体は動かせへんかったけど、記憶はちゃんとあんねん。ずっと傍におってくれたよな、謙也さん。ずっと声、聞こえてましたから」
「う、うあああああん!!光ううう!!!」



謙也は光を思い切り抱きしめて泣きました。子どものように泣きました。今まで我慢していた分、おもいきり泣きました。光の瞳からも涙がぽろぽろ零れました。






謙也を除く6人の小人たちは人間としての生活を手に入れるためだけに街へ出て行ったわけではありません。6人は血眼になって光を陥れた魔女を探し続けていたのでした。探して探して探し続けて、魔女を捕まえるためなら6人はなんでもしました。そこで、ようやく捕まえた魔女を問い詰め、光が無事目を覚ますための方法を問い詰めました。


方法はひとつ。“一番大切な人に本気で目覚めてほしいと願われること”だったのです。



光にとっての一番大切な人はもちろん謙也でした。何故目を覚ますまで5年の歳月が経ってしまったのか。謙也は光に目覚めてほしいと思っていたけど、今までは心のどこかで「このままでいてくれたら」という気持ちを持っていたのです。もし目が覚めたら光はどこかへ行ってしまうかもしれない。自分の目の前から消えて、他の誰かのところに行ってしまうかもしれない。それならこのまま眠ったままでもいいから、傍にいてくれた方がマシかもしれない。そんな気持ちを謙也は心の奥底に秘めていたのです。それは謙也のエゴでしたが、仕方のない感情とも言えます。謙也は本気で光のことを愛していたから、それゆえの気持ちだから。


そんな謙也の心を動かしたのは、光とのキスでした。
神様、どうか光を目覚めさせてください。俺なんてどうなってもいいから。どうか、どうか。
結果的に光の目を覚まさせたのは、光が「自分のところには来てくれない」と思っていた、光だけの王子様のキスだったのです。





「謙也さん、泣きすぎです。そろそろ泣きやんでや。」
「ぐす…こんくらい、許せや。俺、ずっとがまんしたんやで。」
「うん、そうでしたね。分かってます。俺5年も寝とったのに、ずっと一緒におってくれて。もう小人やなくなったんやから自由にどこへでも行けたはずやのに、俺の傍にいてくれた。」
「光。もう分かってるやろうけど、俺お前のこと好きや。ホンマに好き。大好きや。もうお前が俺の前からいなくなるなんて耐えられへん。頼む、俺の傍におってくれ。」



「…ええんですか。俺、我儘やし気まぐれやし、謙也さんと違て料理とかも出来へんし…男やし。」
「いくら光相手でも俺の大好きなやつの悪口は許さへんよ。」
「…やって5年やで?!俺のことなんか捨ててまえばよかったやん!あんたやっと人間になれたんやで!あんたは知らんかもしれへんけど、街のほうに行けばええ女なんて山ほどおんねん!絶対俺選んだこと後悔するし、」
「後悔せぇへん。光が不安になるくらいなら知らんままでええ。なぁ、俺ばっかり辛いみたいな言い方ばっかしとるけど、光もずっと辛かったよな?お前眠っとったときの記憶あるんやろ?俺、知らんうちにお前のこと追い詰めとったかもしれへんな、ごめん。」
「違う…!」
「なぁ、光の気持ち、聞かせて。」




光の目からもとうとう涙が零れました。光も謙也と同じ、5年間我慢していましたから。





「俺、怖かった。急に体が動かなくなって、このまま死んでまうのかなぁって思った。せやから、謙也さんがいっしょにいてくれてホンマに嬉しくて。でも不安でもあった。いつまで謙也さんは傍におってくれるのか、とか、俺はいつまでも謙也さんを拘束し続けるのか、とか…。」
「うん。」
「謙也さん、ありがとう。好き。大好きです。」
「うん、俺も。俺も大好き」
「違います。俺の方がもっともっと好きで好きで大好きです。一緒にいたいです。ずっと一緒がいいです。」
「大丈夫。これからずっと一緒やから。」
「ほんま?ほんまに?」
「ホンマ。あ、言い忘れとった」




光、誕生日おめでとう!!




「ありがとう」は嗚咽にかき消されてしまいましたが、謙也には確かに聞こえました。




大切に思っている同士が大切な時間を使って、ようやく手に入れることのできた大切な気持ち。物語はここでおしまいですが、きっとこれからも謙也と光は「ありがとう」「ごめんね」「好きだよ」「大好きだよ」「愛してる」、そんな言葉をたくさん交換しながら生きてゆくのだと思います。お互いを大事にしながら、愛おしい“今”を重ねてまぶしいくらいの“思い出”を作ってゆくのだと思います。どうか、彼らが愛を見失ったりしませんように。そして、本当に永い眠りにつくときは、どうか二人いっしょでありますように。



(謙也さん、)
(ん?)
(なんでもない。ただ、いっぱい名前呼びたいなって思っただけ。)
(そっか。ほないっぱい呼んで。俺もいっぱいお前のこと呼ぶから。これからずっと、でっかい声でたっくさん呼び続けるから。)




今宵も光は幸せいっぱいな気持ちで眠るのでしょう。
きっと、誰よりも大切な、愛する人の腕の中で。




HAPPY BIRTHDAY HIKARU!
I love you soooooo much!





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