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動物が傷ついている描写があります。











珍しく部活も予定もない日。今日はまっすぐ帰って翔太とゲームでもやろうかなぁ、なんて考えながら通学路を歩いていたら、少し前に歩いていた女子が「いや、可哀想!」「うち見てられへん…」と騒ぎ始めた。自分も思わずそちらをちらりと見る。


あぁ…猫や。



道路で猫が死んでいる。体は汚れているし首輪もないからおそらく野良だ。車にはねられたのやろうか。どうして猫は道路を飛び出してしまうんやろ。昔から疑問に思っていた。少し待っていれば、お前もそんな痛い思いをせずに、仲間の猫に辛い思いをさせずに済んだのにな。


可哀想だと騒ぐ女子は、泣きそうな顔をしながらも特に何をするわけでもなく去っていく。とは言っても、実際のところ俺もどうすればいいのかわからへん。このまま立ち去るのも良心が痛む…。どないしよ、こーゆーのって市役所とかに電話するん?あ、学校戻ってオサムちゃん呼ぼうかなぁ。



そんなことを考えていたら、一人の男子生徒が何の迷いもなくその猫に近寄り、そっと抱いて近くの公園に入って行った。あいつ…財前やん!



財前はテニス部の後輩。生意気で口も悪いけどホンマはまじめでええ奴なんやって知ったのはつい最近、ダブルスを組むようになってからや。無愛想やから俺も初めは勘違いしとったけど、こいつはただ自分の気持ちをストレートに相手にぶつけれへんだけなんやって理解できるようになった。
俺は思わず、猫を抱えた財前を追いかけた。





公園の木の植え込みの下を、財前は小さい子が忘れて言った砂遊び用のスコップで一生懸命掘っている。顔は無表情。…せやけど、目からはぽろぽろと涙がこぼれている。声をあげることなく、涙をぬぐうこともなく、財前は土を掘り続けている。俺は思わず声をかけた。



「…財前?」
「あ…謙也さん。お疲れ様です。」
「それ、お前ん家の猫なん?」
「ちゃいますよ。うちおかんが猫ダメなんすわ。」
「ならなんで…」
「やって、あんなん見てほっとけへんから。」



財前はバッグからタオルを取り出し、水でぬらして猫の体を丁寧に拭いた。汚れやら血やらが少しずつ落ちていく。


俺は自分が情けなかった。猫を見て「可哀想〜」なんて騒ぐ女生徒を見て、そう思うんならなんかしてやれや、って思った。俺はあいつらとは違う、なんとかしてやりたい。そう思ったのに結局は何も出来へんかった。考え出した案も大人に頼る、なんていう自分自身で行うものではなかったし。



俺が呆然と立ち尽くしている間にも財前は綺麗にした猫を掘った穴に大事に入れて、上から土をかけた。いまだに涙をこぼしたまま、財前は立ち上がり、歩き出す。



「お前、どこ行くん」
「お花。」
「え、」


公園に咲いているタンポポやシロツメクサ。財前は一生懸命花を摘み始めた。あの猫のためや。俺もさっきまで何も出来へんかったけど、やっと足を動かして、財前の横で花を摘み始める。


「謙也さん」
「なんにも出来へんくてごめん。俺にも花つませて」
「…ありがとうございます。」



ありがとうございます、やなんて言ってもらえる資格ないよ。俺、びびってなんも出来へんかってん。財前、ホンマすごいわ。ほんまの優しさって、こーゆーことなんやと思う。



花ふたりでつんで、猫埋めたところの上にお供えする。財前が手を合わせるから、横で俺も手を合わせる。なんにも出来へんくてごめんな。せやけど、お前死んでもうたけど、財前に拾ってもらえて幸せやったと思う。今度もし猫に生まれ変わったら、車に気をつけなあかんで。



「天国で元気でやるんやで。トラ。」
「トラ?この猫の名前か?」
「うん。今俺がつけました。名前がないまま死んでまうの可哀想やし。」
「そっか。」
「道路は飛び出したらあかんのやで。トラのアホ…ッ」



そこまで言ってから、財前から初めて嗚咽が漏れた。さっきまでは無意識に目から涙がこぼれている感じやったけど、今は声をあげて泣いている。財前は自分の涙をどうにかして拭いたいけど、さっきトラの体きれいにするのにタオル使ってしもたから一生懸命手で目ぇ擦っとった。



俺は気が付いたら財前のこと抱きしめとった。




「け、やさ…」
「俺の胸で涙拭いてええよ。さっき何も出来へんかったお詫び。いっぱい泣いてええし。それに俺もこうでもしとらんと泣いてまいそうやし。な?」



財前は、今日初めて俺の前で笑った。









「みっともないところ見せてすみませんでした。」



しばらくして泣きやんだ財前は、恥ずかしそうにそう言った。
恥ずかしがることなんかないやん。お前めちゃくちゃかっこよかった。そう言いたかったけど、きっと財前は照れてまうやろうから黙っておいた。


「なぁ、今からマクド行かへん?特別におごったる!」
「…しゃーないからおごられたります。」
「おう!はよ行くで!」



後輩とダブルスを組むことが決まって、いろんなこと教えてやろうと思った。せやけど、教えられることのほうが多いのかもしれへん。それに、財前がどんな考え方をするのかとか、どんな音楽を好きなのかとか、もっと知りたいと思った。
優しい優しい財前には、世界がどんなふうに見えているのか知りたいと思った。




「謙也さんって、たまにええ先輩っすわ」
「アホ!毎日ええ先輩やっちゅーの!」
「はいはい」



明日は猫缶でも買ってトラのところに行こう。トラ、お前の代わりに財前のことは俺が笑かしたるからな。



財前との距離がちょっと縮まって、俺が財前に興味を持ち始めた一日。可哀想な猫を、財前の力で少しだけ可哀想じゃなく出来た日。その後、特別な意味でこの財前の気持ちを知りたくなる日が来るなんてことは、その日の俺はまだまだ知るはずもなかった。






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