愛してるという声が泣いているように聞こえた



※少し自虐表現有り











俺にはふたつ傷があった。ひとつは浅めのが腕に、もうひとつは深めのが手首に。どっちも俺が自分でつけたやつや。


俺は小さい頃から要らん子やった。可愛いげの無い、親から必要とされない、不運にも産まれてきてしまった子供。両親は兄ちゃんに全力の愛を注いだ。ここで誤解が無いように言うとくけど、俺は兄ちゃんをひがんだり、全く恨んでなんかない。むしろ唯一俺に優しくしてくれたかけがえのない存在や。兄ちゃんがおらんかったら俺、死んどったかもしれん。

俺は物心ついたときから両親からの愛に期待なんて一切しなくなった。兄ちゃんは優しいし、それでええねん。兄ちゃんは直に結婚して俺には義姉さんが出来たけど、兄ちゃんが選んだだけあってめっちゃええ人で、俺はすぐに懐いた。


腕の浅い傷が出来たのは、甥っ子が出来たとき。唯一俺を見ててくれた兄ちゃんと義姉さんが離れていくのが寂しかった。まぁしゃーないことなんやけど。でもなぁ、あれは堪えれんわ、母さん。俺が甥っ子に触ろうとしたら、「汚いからやめなさい」て。

悲しかった。消えてなくなりたかった。俺はインターネットで「リストカット」っちゅー単語を知った。本間に気持ちすーっとするんかな。カッターを皮膚に滑らせてみる。

痛かった。血が滴った。別にすっきりもしなかった。少しでも気晴らしになるなら、なんて思ったりしたんやけどな。自分が生きてるって痛感させられたみたいでなんや気分悪くなった。やっぱり楽になれんやん、こんなんで。傷のこと兄ちゃんに突っ込まれても困るしな。もう全てがどうでもよくなった俺は適当に絆創膏を貼って寝た。


リストカットなんかじゃすっきりはせんかったけど、俺は少し自分の気持ちを紛らわす方法を見つけた。ピアスや。ガチャン、て開ける度運命が変わる気がして(まぁ何も変わらんのが現実やけど)少しだけ前向きになれた。そんなん繰り返して、中学上がる頃には4つは開いとったかなぁ。


手首の深い傷が出来たのは、中学入ってすぐ。今回はリストカットなんかじゃない、死のうとした。父親からの暴力が始まったから。腹とか背中とかよぉ見えんとこ殴られて、罵声を浴びる。「お前が俺たちの幸せを奪っとるんやで」て言われたとき、あぁもう、俺なんていない方がええんやって思った。心も体も切り刻まれるような痛みやった。

もうちょっとで死ねる思ったんやけどなぁ。義姉さんが死にかけの俺見つけて一命を取り留めた。残念ながら。

でも義姉さんは俺に一人暮らしをさせるように頼んでくれた。俺が傷つかんように。しばらくは両親から離れられる。義姉さんおおきに、ごめんなさい。こうして腕にふたつ、心にいっぱいの傷を負って俺は家を出た。

















「なぁ、財前。その腕の傷どうしたん?」
「…忍足先輩」
最近やたら絡んでくるんよなぁ。ダブルス組み始めたばっかやし、仲良ぉしてくれようとしてんのかな。明るくて太陽みたいな笑顔のこの人は、俺と真逆の人生を送ってきたんやと思う。

「別に、こけただけっす」
「そうか?絆創膏剥がれとるで。それ明らかに切り傷やんなぁ。」
「………自分で付けたんすわ」
ここまで言うと大体の人は「そうなんか、すまんなぁ」言うて終わる。関わりたくないの見え見えや。でも忍足先輩は「なんで?」とか言うてきた。前から思っとったけど阿保なんかなぁ、この人。

今更こんなこと、たかだか部活の先輩に話したくなんかなかったんやけど、これを話せばめんどくさいやつや思ってこれからほかっといてもらえるやろって、俺は自分の話をした。人に言うなら言えばええ、別に噂になったってどうでもええし。

「これは、俺が産まれてきちゃいかんかった証なんすわ」










「…っく、うぅ…」
「忍足先輩、そろそろ泣き止んでくださいよ」

俺の予想に反して忍足先輩は俺にしっかりと抱き着いて泣いとった。同情なんかいらんのに、自分の為にこんな風に泣いてくれる人がおることにちょっと嬉しく思う自分がおる。

「…………おし、これから俺、お前のこと光って呼ぶから。お前も俺のこと謙也さん呼べよ、忍足先輩じゃもう返事せぇへんぞ」
「は」
「あと腕の傷。自分で二度とつけたらあかん。お前がもしまた自分で傷作るようなことあったら俺も同じとこ切るからな」
「ちょ、あんた」

なんでやねん。さっきまで泣いとったくせに。なんでこの人こんな俺なんかに構ってくんねん。意味分からん。今までこんな、こんなん無かった。


「あんた、なんでこんな俺に構うねん」
「は?…そんなん、光が大事な後輩やからに決まっとるやろ」
「…………」
「これからもっと仲良ぉしたいし、お前、要らん子なんかとちゃうで。俺には光が必要や」


あとお前、笑うと可愛いしな、なんて笑うた先輩は本間もんの阿保や。その日は結局一緒に帰って(一人暮らしなんやって言ったらこれから週末は泊まりにくるとか言い出したし)。必要なんて言われたのは初めてやった。むっちゃ嬉しかった。


次の日謙也さんはめちゃ眩しい笑顔で「光!これプレゼントや!」てふたつリストバンドをくれた。

「ほら、右の手首と腕んとこ、ちゃんと付けるんやで!」
「片方の手ぇにふたつって…」
「この傷はひとりのときは見たらあかんで!ほら、絆創膏とかなら俺が貼り変えたるし!」

「…おおきに、謙也さん」
「!ひ、ひかるぅ〜!」

この人とおって、なんとなく光が見えた気がするわ。なぁ謙也さん、ここまで構ってきたんなら、ちゃんとずっと、俺の面倒見てもらうで。

「なぁ謙也さん、もういっこお願いあるんやけど」
「おう、なんや?」
「ピアス、開けてほしいんすわ、俺の耳に」
「……は?!俺が?!」
「おん。」
「お前仰山開いとるやんか。な、何のために」
「変えたいねん、運命」


俺の腕に傷が付くことは、きっともう無い。



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